仲間たち

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−−『宇宙戦艦ヤマト3』より
:コスモタイガー隊の非戦闘的日常・2
お題2005-No.92
   
【仲間たち】

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(1)

   イスカンダルへ向かったヤマト初回の旅ほどではないにせよ、ヤマトの
艦内に“お年頃”が多いのは、仕方ないことだった。
「第二の地球探査」「惑星間戦争からの地球防衛圏の守備」――そして、
できれば太陽制御の方法を――という、まったく異なった方向性を持つ
目的を与えられた。だが、ヤマトがただの探査艦だと思っている人間は、
誰もいない。
 もしかしたら――もしかしたら。
古代艦長の頭にはそんなことはチラリとも浮かんでいないだろうけれど、
間に合わなかったら。ヤマトは単機ででも地球を逃れ、宇宙の孤児となっ
て新しい星を求めていく、という可能性もあるんじゃないか――そう思って
いる人間もいる、はずだった。
だから、若いメンバーが多いのではないだろうか。……という疑いも涌く。
イスカンダルへの旅がそうであったように。
 だけど。――女性乗組員を帰し、その疑いも無くなった。
そして本来の有難くない姿――戦艦に戻ったヤマトに。負わされた役目
は、やはり相変わらず、大きい。

 女性乗組員――と一概に言うが、もちろんそれから“戦闘員”は外さ
れている。「私はイヤよ」という名言(?)を残し、第一艦橋に残った生活
班長は例外としても。ヤマト歴戦の戦士でもあり、誰も反対しなかった。
艦長の婚約者をやっているような肝の据わった女性を、止められる男が
誰かいるだろうか。
実際、コスモガンを扱い、デザリウム戦ではパルチザンとして白兵戦に
も出た実績があり、しかもデスラーと撃ち合ったという噂すらある人だ。
−−それに現実に。医務室も、給湯も、炊場も、探査も。
今回生活班の統括するあらゆるシーンで、森さんが居なかったら、かな
り厳しいことになっていただろうことは想像に難くない。
 そして。
 少数ながら退艦を拒否し、また艦長もムリには退艦させなかった
女性班員たちもいる。砲術部やCT隊のほか、なぜか工作班も。
本当なら航海班や生活班探査部の数人は残ってほしかった。
確かに命の危険はある――だがそれは、出発の際、艦長が「選べ」
と言い、皆「自ら選んだ」はずだ。ヤマトは“戦艦”なのだから。
 航海班の川井や探査部の堀田は最後まで残留をごねたが、各班長
が了解しなければ許されるものではなかった。
 副長――島航海班長は、断固として許さなかったので。
 逆にもう一人の副長――真田工場長は、自班にいた2人の女性に
残留を許可した。理由は、「工作班の専門家として必要」。それに
「俺の部下だ。戦闘訓練くらいは、させてある」という。
真田副長自身がコスモタイガーも操り白兵戦でも参戦章持ちだ。
実戦経験は俺たちより遥かに上。イカルスでは今の隊長たちの訓練
教官だった。−−ホントに科学将校か、あの人。
 ということで現在、艦内には女性が少ない。お年頃、としてはあまり
面白くない事態ではある。

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 「お〜、川本! 飯か?」
と声をかけてきたのは、わが隊長殿、加藤四郎だ。
「はい」と答えて手を振る。溝田先輩も一緒か、仲いいんだよな、
あの2人。それにくっついて小柄な山口隊員。同期で学生時代から
ずっと一緒だと言っていた。
加藤隊長は快活で、面倒見がいい。デザリウム戦での勇士――とは
いえまだ若くて、俺と同い年の19歳。戦時徴収の繰上げ卒業組で、
イカルスで特別訓練を受け、最初からヤマトの後継としてのエリート
士官である。
 どやどやとやってきて、横に勝手に座る。
 本日の昼食メニューはカレーライス――今日は金曜日だ−−など
食べられるのは、艦が激しく振動に晒されないという前提、戦時でない
という証拠だ。

 ところで、CT隊にも3人の女性がいる。
新兵の兵頭、岡本と、先任の佐々隊員だ。
佐々隊員には女だてらに、ほとんどの先輩たちが頭が上がらない――。
なぜなら、初代ヤマトの生き残り、というだけでなく、ほとんどのメンバー
が訓練生・教官として教わっているからだ。
女どもは基本的にかしましいし、気が強い。佐々さんは、ちょっと違って
いるみたいだ。どちらかというと物静かだし――だが、何かというと、すぐ
手か足が出る。気づいたら殴られていたり投げられていたりした男共は
多くて、女だと思わない方がいいぞというのは先輩たちの有難い注告だ。

その、女性陣もどやどやとやってきた。
「あ〜、お腹空いた」と兵頭が言えば
「参っちゃうわ。今日、調子悪い〜」と岡本。
「どうした」とオレが訊くと
「シムの追加訓練よ」と兵頭。「今朝の数字が良くなかったからさ」と岡本
を目で指す。
「調子悪い」を連発する岡本に、「さっきから何回やったんだ」と佐々先輩。
「1回だけです、先輩〜。たった3機相手に、撃墜〜」
苦虫を噛み潰したような顔である。
「おいお前――実戦でなくてよかったな」と目が厳しくなる。
「ないっす、それ〜」
「理由は? チェックしたか?」と先輩の追及。
「不明ですぅ――」「ダメだぞ、クリアしとかないと。同じことやるぞ」と、厳
しい口調になって。
「よしわかった。飯食ったら、もう一回チェックだ」と先輩が言い、
藪から棒……と泣きそうな顔になった岡本である。
 すでに何度かの実戦は、今回の旅の間にも経験している。それで生き
残っているのだからまるきりヘタなわけはずは。だいたい、そんなヘタっ
ぴがヤマトCT隊に選ばれるわけはないのであって。…よくついてくるし、
射撃のセンスもあると思うぞ、岡本は。
何か原因があればつめておかねば、次は絶対にそこで遣られる。
 「佐々先〜輩、ズルイっすよ」とこれは山口先輩。
「オレたちん時、そんな優しくなかったでしょ」
「やかましい。時代が違うだろ、時代が」と佐々先輩。
「なんなら、もう一回16時間連続訓練やるか?」
とにんまり笑顔で返されて。
「ちょ、もももう、結構です。大丈夫ですし、オレたち」
と山口先輩。この人は、本っ当に佐々先輩に弱い。その顔が赤くなって
いるのを、後ろから飯を食いながら余裕で覗き込む加藤隊長である。

 その山口先輩の肩越しに、佐々先輩と加藤隊長の目が合う。
 ふっと笑う隊長。あ……なんか、怪しい。
と思うに、さっさと食べ終わった佐々先輩が立って近づいた。
「加藤……午後の演習、実機でやるか」
「……あぁそうだな。艦長に箴言してみるさ」
もぐもぐと野菜をつまみながら、見上げる。受けて佐々先輩は。
「岡本、食い終わったか?」
「……せ、先輩、待って」
「早くしろ、行くぞ」
ふぇ〜ん、待ってくださいよぉと言いながらも急いで立っていく岡本
隊員であった。
 「基準点クリアするまで許してもらえないからな」
「失敗の原因にもよるよ」「いや、今はまだ言い方柔らかいけどな」
「佐々先輩、女は殴らないのかな」「さぁてね――」
元訓練生たちの雑談が続き、隊長は食事に専念していた。
 
背景画像 by「トリスの市場」様

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