tokiアイコン 地に潜り、軌跡追って

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【地に潜り、軌跡追って】

−−A.D. 2202年
「ヤマトよ永遠に…」より
お題 No.62「軌跡」


(1)

 「はやくっ! こっちだ……見つかるなっ」
はるか上の方で響いていた爆撃音が近くなってきたように思われた。
(ち…このエリアももう破棄か…)
痕跡を残してはいけない。
「爆破するぞ」
宮本暁は、傍らにいた若い兵士にそう告げると、煤だらけの黒い顔でうなずいた。
 装填するのに少し手間取る
(明かりが…)いくら慣れた動作とはいえ、暗闇での作業は難しい。
 「早く、まだいるのかっ」声がして駆けてくる兵士の気配。
「おう! ここは3人だ。けが人がいる、連れていってくれ」
ひょこりと顔を出した男がまた引っ込むと、今度はもう一人と並んで現れた。
「手を貸せ」
「了解 …あのブロックを越えられたら見つかってしまう、早くっ!」
強引に部屋に踏み込み、けが人を肩にかついだ若者と、もう一人は、宮本の手も
引いた。
「少し待て…よし」
早く移動しろ。爆発するぞ…5人は暗闇の中、声をかけてきた若者に続いた。

 お前、どこかで見た男だな。
 はい、パルチザン第3分隊副長…っつっても臨時ですけどね、とへろと笑いな
がら、坂本茂。と名乗った。
……見たことがあるわけだ。ヤマトの…後継じゃないか。
「こちらです――けが人先に送るぞ」
マンホールのふたのようなところを開けて、少し傾斜した上に怒鳴ると、そこか
ら手が伸びて、怪我を負った若者を引き上げた。
「この、上は?」
第四階層を根城にしていた宮本たちには覚えのないルートである。
「ねずみ穴ですよ。いざという時のためにね、俺たちが掘ったやつです。走り心
地は悪いですが、岩盤はしっかりしてますからね、安全ですよ……たぶんね」
 あぁと宮本はそこを見上げて、どこへ通じているかと尋ねる。
 まだ申し上げられません、ついてらしてください。
慎重な男だな、と頼もしく思った。
「行くぞ」
唯一生き残っていた部下とあとに続く。

 ほぉ、と一息、間接照明でそれでも人心地ついた部屋で顔を見合わせた。
ねずみ穴とはよく言ったもので、そのルートは長官たちが根城にしている指令室
近辺に通じていた。
「長官と、連絡が取りたい」
「ある住居へ出張でばってましてね、作戦が成功すれば、もうじき戻られますよ」
「こちらから攻められるとは、予想外でした。爆破して正解でしたね」
本部へのルートを絶っておかないと、この地下都市基地が発見されたら終わりな
のだ。
「長官ご自身で行かれたのか」
「えぇ…すごいですよね。銃も取り実際に敵と交戦されるのを見て…さすがにあ
の沖田艦長や土方司令とご友人だっただけあるなと」
歴戦の戦士は極限状況ほどに真価を発揮する。ヤマトの連中も皆そうだったな、
と無事でいてくれという想いをまた新たにする宮本である。
 「俺は宮本だ。−−妙な縁だな、君の先輩にあたる」
「え」と坂本は見返して「ヤマトの…戦闘機隊員だった」
坂本が一瞬、胸を突かれたというような顔をしたのを宮本は見逃さなかった。


 坂本茂は白色彗星戦でコスモタイガー隊がほぼ全滅したあと、その後継として
ヤマトに送り込まれたメンバーの中のトップだった。隊長候補として…古代も島
も期待をかけたらしいが、その任を負うことは適わなかったと聞いている。
そういった訓練航海は何度か行なわれ、その度、チームの中から人が選ばれ、配
置されていく予定だった。
 ところが。
 デスラーからの運命の入電。イスカンダルの危機とスターシアの死、古代参謀
の帰還。ヤマトは急遽、別命を帯び、われわれの前から消えた。今はおそらく…
この危機を救うために、どこかで戦っているに違いない。あの、古代や真田がい
れば。必ず。

 乗らなかったのか、ヤマトへ。いや、乗れなかったというべきか?
はい。
「俺−−返品されちゃいましてね」と坂本は苦笑した。
コスモタイガーは任せられない、と艦長代理に言われたわけじゃないんですが、
呼ばれて。別の任務を与えられました。
−−いつかは帰ってこい、そう言われてね。
だから。
ヤマトが発ったのは知っていたんです…北野と2人、その行方も追いましたけれ
ども。俺は今、自分のできることを、与えられた場所でやるしかない、そう思っ
てんですよ。
「坂本…」

 ところで。
 朗報があります。
「なんだ…ヤマトのことか?」
「いえ…ヤマトの情報はまだありません。敵本星に向けて飛び立ったことしかわ
かっていない。けれど」

森さんが、生きているらしいんです。

「え」
と宮本は驚愕した。
生きているって、彼女はヤマトに乗ったんじゃなかったのか。
「乗れなかった。−−ヤマトからの最初の交信でありました。彼らをイカルスに
送り込むために犠牲になったと聞いたのですが…」
ここで坂本は声を潜めた。
「敵の手中に。無事でいるようです」
なんだって。
最悪の事態が想像された−−ユキが、囚われているというのか。
はい。…でもご安心ください。傷つけられてはいないようです。
何故わかる。
密書が−−相手の目をすり抜けて、情報を送ってきています。
宮本は感動した。
「さすがだな……どこにあってもヤマトの戦士か、ユキは」
「はい。僕たちも、その勇気に励まされて」
ヤマトでユキ本人を知っているだけにその感動は大きいのだろう。坂本の目は輝
いていた。


 
背景画像 by「トリスの市場」様
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