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(2)



 すい、と2機はあけの海航空団の発着場へ滑り込んだ。
もうこの基地への出入りも慣れたものだ。
整備兵が迎えてくれ、そのまま機体を預けた。
山本さんはもう、涼しい顔をして司令に戻っていた。だが。
 「――お前の行状は問わないよ」
ついて歩こうとして前を向いたまま、そういわれて、ドキッとした。
「な……」
「あっちへ、行きたいか?」ふと振り向いた真剣な顔。
望むところだったはずだ。俺は最初から第一基地を志望していた。
加藤隊長の下へ――機動隊の一員として。……それは山本さんも知っていたはずだ
(現に、加藤さんだって知ってた)。

 (え゛…)
 ふい、と腕を広げ、きゅ、と抱き込まれた。
(な、なにを……)
キスされるかと思った、というのは内緒だが、そうはせず、頬に形のよい鼻が当たる。
耳元に唇が寄せられ、じん、と感じてしまった――あう。
(( あいつの、匂いがする―― ))
そう、言ったのだ。
 「ば……ばかな。――ちゃんとシャワーを…」
と声に出してしまってから、しまった、と思った。
おまけにすでに月を半周、コスモタイガーに乗って飛んでいるのだ。そんな、前夜の
体臭など残っているはずもない――考えればわかるはずだった。
 山本さんはすっと体を離すと、まっすぐ俺を見た。
 じっ、と見つめる隻眼が、胸に食い入るようだった。
あうう――そんな超キレイな顔でまっすぐ見ないでください〜。俺にその気がなくて
も、陥落しそうです――。
 からかわれたと気づいたのは、山本司令の顔がふん、と笑ったからだった。
そして言われた。
「続ける気、か?」

 そうだけ言ってまた歩き出そうとするのを、追うように。
「――いえ…」
「行きたいか?」
それにも、「――いえ」と言って。
 また立ち止まって、山本司令は言った。
「そうか。――私も、やる気はない」
(山本さん……)
「――加藤とは関係のないことだ」……初めて聞く、真面目な口調の山本さんの言葉。
俺は、喜んで、いいんだろうか? そして、彼は言ったのだ。

 「――お前は、変わらずにいろ。俺たちみたいになる必要は、ない」
 遊星爆弾に晒され、地下都市で――そのやつらに頭上を脅かされながら、俺たちは
生きてきた。大切な人を葬り――その中で約束を守るために、いや、俺はただ空飛び
たかっただけだ。自由になるために……。山本のその心の声は、古河に聞こえたのだ
かどうだったか。
ほとんどが失われた、同期……。生き残った、自分。ヤマト故に。
――ヤマトの旅は、過酷だった。
 「お前は、今のままでいろ」
「――山本司令さん…」
くしゃ、と横に並んだ古河の頭を山本は手でかいた。
「……信じてる、ぞ」
ふっと笑った気がした。
「はいっ」
思うこともなく、返事をしていた。

 カンカン、とブーツの音をさせながら格納庫を出て、基地の中央部へ向かう。
第二基地の一日が――平凡で、緊張感のある一日が、始まろうとしていた。

Fin



綾乃
−−24−29 Sep, 2007

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