air icon 正義の反乱たびだち

CHAPTER-16 (044) (064) (051:1 /2 /3 /4 /5 /6) (065) (093) (067)
    


No.51 【助けて!】
 
= まえがき のようなもの(ご注意含)=

『宇宙戦艦ヤマト2』……
このchapter16の半分は、それを取り上げました。
“艦載機隊下っ端物語”の続きで、月基地に居なかった元ヤマト乗組員たちは
あの時いったいどうしたのだろう、地上篇。
相変わらずOriginalで、古代進も森ユキも登場しません。
ずっと地上。「白色彗星特集:番外篇」の位置づけです。
そういうのがお嫌いな方は、先へ進まないでください。

当物語の主人公・友納くんと和気くんは幼馴染で親友同士。
友納は古代進や島大介の訓練学校同期で親しく、和気は一つ年上で外部からの編入組。
もしかすると、上記短編集内の
「そっと背中から…」 をお読みになる方が
わかりやすいかも。未完成品で、さらに少々怪しいものですが、
それでもよろしければ、↑上記をお読みになってからお読みください。

「古代進&森雪ファンのための100のお題」No.61、76本目。
そんなお話でよろしい方のみ、どうぞ。

(綾乃・拝 2009年6月)



= 序章 =

flower clip

 中空に光があった――その時、人々は
一つの戦いが終わりを告げたことを、知った。


(古代――お前はそこで、何を見たのだ!?)


 
    

= 1 =

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 「伸義のぶよしっ! 無事か!?」
病室の入り口に久しぶりに見る友人は、白に鮮やかにグリーンのラインが入った制服と、
制帽を被ったパイロットの姿のまま、戸口に現れた。
「――秋里あきさと。どうしたの? 慌てて」
ベッドに横たわっていた友納伸義は、驚いた顔つきで体を少し起こして彼を見た。
「……久しぶりだね。1年ぶりくらいかしらん? 元気なの?」
柔らかで平静な調子で訊く友納に、和気は力が一気に抜ける気がして、
「脅かすなよ…」
と、その場に座り込みそうになった。

 いったい何を慌ててたのさ。
そう笑う友納とものうにイスを勧められ、ベッドの脇に座りながら。
「いやお前が宇宙船で事故ったって聞いたからさ――も、心臓止まりそうになって」
慌てて終業時間を待つようにしてすっ飛んで来たのだ、という。
元防衛軍戦士・航宙隊准尉だった秋里は、その気になればまだ軍の中に個人的なネット
ワークを持っている。――快活で裏表がなく、気配りができて。どんな男にも女にも好
かれていたヤツ。軍を辞めると聞いた時は残念がる者も多かった代わりに、納得する者
も多かった。気が優しくて――本来、軍人なんか向かないんだ、僕なんかと違って。
 見かけの柔らかさ、女の子かと思われるような華奢で小柄な外見の友納は、実は自分
がしたたかで強く、根っから軍人肌だと知っていた。
――だからあれから逢っていない。逢わなくても、いいんだ。親友っていうのは、ベタ
ベタするだけが能じゃないだろ? それに。
(秋里の勘違いも、のぼせ上がった血も冷ましてもらわなきゃ――こいつのためにも
ならない)そんな風にも思ったからだ。


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 ヤマトが帰還したあと――コスモクリーナーDやその補助機の稼動と設置・さらに
地球環境回復のための唯一動ける戦艦として、ヤマトは地上に戻ってからすぐにお役
ご免になったりドックでのんびり修復作業を受けたわけではなかった。
当然、工作班員と一部の機関部員、戦闘員は残されてその任務を続けていった。
そうしてその後の去就についても、どうするのか――大揉めに揉めていたと聞く。
 軍縮――防衛軍解体論――さまざまな圧力もせめぎあいもあったという。だが辛うじ
て軍は、地球の体力回復と宇宙開発とを主軸に残されることになった。ヤマトは当初、
ワープ能力を持つ唯一の大型艦として、忙しくあちこちを飛びまわらざるを得なかった
が、それが一段落すると、旧フォルムのそれは廃艦すら噂されながら艦長代理のまま古
代に預けられ、太陽系の最果てまでの旅に出ていった。元の乗組員でそれに搭乗できた
のは15名。しかも技術員が主だから、戦闘員はわずか数名――艦載機隊は搭載されず、
ただ1機、古代のコスモ・ゼロだけが艦長代理の強い希望で残された。

 ブラックタイガーは廃車(っていうのかな?)になり、博物館に回されたものやらど
こかへ下請けされていったものやら……ただ、特殊なフォルムと性能のため、壊され再
利用されたのかもしれない。まったく見かけなくなったのが不思議だ。訓練機としてい
くらか地方の訓練学校に残っていると思うが、特殊な用途に遣われたものだけに、平和
な世の中に必要かどうかは疑問視された。
 僕らにしたところで、すでに開発途上だったそうなコスモタイガーII(なら“コスモ
タイガーI”というのもあったはずだが、生産ラインに乗る前に破棄されたということだ
ろうか?)を与えられ、これはそのプロトタイプといわれる古代のコスモ・ゼロに比べ
れば格段に扱いやすい。ただ、このクセの無さがブラックタイガーやコスモ・ゼロに乗
りなれた身には物足りないという人たちもいたけれど、ガミラス戦の最中に開発された
所為か、それとも相当に技術者陣が頑張ったのか、何故かひどく戦闘的な仕様になって
いるのが不思議で、少なくとも僕の手には馴染んでいた。

 僕は、加藤隊長たちと一緒に月基地へ配属された。……元のブラックタイガーのメン
バーはほとんどがそれだ。ただし給与の問題もあったのだろう、希望退職が募られ、ま
た他の技能を持った者はそれへの転職も推奨された。ヤマトのメンバーは科学技術の知
識を持っていた者も多かったから、復興なる地球にとって各分野でそれを生かすことは、
戦争屋を続けるよりも歓迎されたというわけだ。

 和気のように退職して、そのまま新開発の民間航路のパイロットになった者もいる。
だが実はこの路線はあまり多くなく、戦闘機に乗りなれた体はどうにもそちらの志向に
向かない。
山本さんなんかは案外、「空飛んでられればいいや」など言ってそっちの希望もあった
ようだが、こちらは軍の方が許さなかった。
 

――加藤三郎と山本明、鶴見二郎は大尉に昇格。
 そのまま各分隊を率いて月基地に赴任せよ。
 後進の育成と、地球最終防衛圏の維持を命ずる。

 これはもう絶対の命令で、退職すれば逃亡と見做す、とまで噂されたものだ。
加藤隊長なんかはもともと民間からの戦時転向組だから、どうなの、と尋ねてみたこと
がある。だが、「俺はもう元には戻れねぇさ。それに――弟が追っかけてくるからな。
負けてるわけにぁいかねーよ」と笑っていたけれど。
 ともあれ現在、元ヤマト戦闘機隊長・加藤三郎は、すべての戦闘機乗りの長として、
その名、実力、地位ともに位置づけられている。

 退役した者もいる。ただ2人の女性隊員だった伊勢さんと佐々。佐々は僕たちと一緒
に月へやってきたし、戦闘員でない彼女なんて考えにくい
女性ひとだが、伊勢さんは、
「目的は達したんだから、あたしはやめる」とあっさり退役してしまった。
……聞くところによると、結婚前の姓に戻して再スタートするんだ、と一度同窓会みた
いな集まりがあった時に言っていたっけ。
小島さんは元の飛行機技術者に戻り、どうやら会社を興すらしい。BTのコネクションを
利用して軍の出入り業者でもやるのかな――実戦経験とデータを生かしてより良い機体
を開発するから待ってろよ、なんて仰っていた。

 和気はその同窓会めいたものにも来なかった。――地球への物資の搬入を急務として
大型輸送艦が優先して建造され、その輸送艦隊の長として自身、操縦桿を握りながら地
球と各惑星・衛星を往復している元航海長・島大介。外周へ出っぱなしで戻らない古代
と違って彼は時々地球へ帰還していたのでそれに合わせて行なわれた会である。
古代や相原、月基地の連中はもちろん、さらに南部や太田も来られなかったこともあっ
て、集まりはけっして良くなかった――真田さんもいきなり防衛庁科学局の“長官”だ
からなぁ――イスカンダルの科学を持ち帰って、またコスモクリーナーDだけでなく地
球環境再生と構築に、あの人無しにはあり得なかっただろうから当然だけれども。偉く
なりすぎて手が届かない。彼もむろん多忙を理由に来なかったのが残念だった。
 だからこの男と逢うのは、本当に1年ぶりだったのだ。

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 和気の就職した――というか友人に誘われて一緒に航路開拓からやったそうで、起業
したといった方が正確だろうか――航宙会社は、大気圏内よりもむしろ地球外へ向かう
航路に重点を置いているという。そのためこの男の腕前と知識は重要だったそうで。
ただし「航宙機と客船や輸送船では勝手の違うことおびただしい。島や太田の仕事に
近いからな、もっと勉強しとくんだった」
などいうメールが最初の頃、来ていたっけ。

 宙港の中は軍港と民間がきっぱり分けられていたが、もちろん共有の部分もあり、航
海士同士の情報・ニュースも交わされる。宇宙の事故や事件について彼らは常にチェッ
クしているのは当然で、僕たちの連絡船の事故のことも、宙港に入港して聞いたらしい。
その名簿に僕の名前を見つけ、慌ててそのまま飛んできた、ということらしかった。
――手術は複雑というわけではなかったし、僕は左足を複雑骨折していたが、任務に支
障があるような部分でなくてよかった。
というのも、戦士たるものどんな状況でも身を護れないといけないとは思うのだが、た
またま同乗していた隣の人を庇ったために資材に挟まれて身動きがとれないところへ持
ってきて、爆発が起こり、それを浴びたのだ。
 考えてみれば、よく無事だったと思う。火傷と爆風に吹き飛ばされた破片。
とっさに目と耳と腕を庇い、背中と足が酷いことになっていた。
 パイロットは相当な腕前だったとみえて、本来なら墜落してもおかしくない状況を、
なんとか不時着に留め、僕はさすがにその大怪我で大気圏内に突入した処で気を失った
から、あとは憶えていない。気づいたら手術も終わり、麻酔が醒めて重苦しい体を抱え
たまま、ここに横たわっていた。
――秋里が来て、ようやく事故から丸一日が経っていたことを知ったくらいだ。


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