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No.63 【クッキー】

 
『宇宙戦艦ヤマト』、イスカンダルへ向かう艦内。
別シリーズで“艦載機隊下っ端物語”というのがあります。古代進や島大介らの訓練学校同期
(少年宇宙戦士訓練学校第四期生、ということになっとります)を中心に、
艦内での日々を斜めに綴ったものですが……まったくOriginalですので、イメージを壊されたくない
という方々には向きません。そうでない方のみ、どうぞ。
「チョコレート」といえばバレンタインデー。300年後のその時代、まだ存在したことになっています。
それなら、そのお返し「ホワイトデー」もあったかも。
ヤマトはちょうど戦闘空域へ向かっている……だが基本18歳。若いっすね。 “この状況で、こんなことあり得ね〜っ!”という方は、どうぞ、ご勘弁ください。


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★ ・・・2200年2月頃の艦内 ★
 「う〜ん、楽しみっちゃぁ楽しみだがな。そんな余裕あるのか?」
食堂で、ヒマを持て余した艦載機隊の面々がいつものようにくだまいてるところ。
 イスの上に足上げて(行儀が悪いぞ)珈琲を味わってる山本副官と、横でテーブルに張り
付いてる加藤隊長。
そのまわりには横森やら木村やら鶴見やら……同期のメンバーがダベっている。
 そこへ古代が島と共にやってきた。
 「お〜、ありゃ宮本さんは? おめーらいるなら此処かと思ったけど」
「いや…そういや午後から見てないな」
「何か用事? チーフ」と山本が言うのに
「あ、あぁ…たいしたこっちゃないけど。ま、別に急がねーしな。見かけたら声かけといて
くれや」そう言うと、また出ていこうとする。
 「なー古代」と加藤がニヤニヤしながら声かけた。
「なんだ、加藤」
「そーいや、そろそろだな」
あん? と古代は問い返す。「2月といやー、な」「2月がどうした」
「バレンタイン、って日があるだろ」
「あーバレンタイン……って。お前ら、そんなことどころじゃないだろっ」
古代は瞬間湯沸かし器のように赤くなった。「バラン星を過ぎていつガミラスが襲ってくるか
わかんないんだぞ。そんなことで浮っついてる場合かっ」
古代の目は真剣に怒っている。
「まぁそう言うなよ」
同調するかと思った島がぽん、と肩を叩く。
 航海は少しずつ遅れを取り戻しているし、今のところガミラスの現れる気配はない。
「…お前、ユキとどうなってんの?」
「ゆ、ユキって――森くんがどうしたっ」
心中を気取られないために、古代は平静を装い、だが良く見れば耳の根元がかすかに赤い。
ポーカーフェイスも顔以外のところにまで気が回らない、というわけだろう。
島も加藤もニヤニヤと古代を見返し、山本はふん、というように斜めに見た。
鶴見も見上げて……「古代ぃ。い〜かげんに態度決めないと、俺なんか怒っちゃうぜ?」と
上目遣いで膨れてみせた。
「なんでお前ぇが怒るんだよ」と加藤三郎が鶴見の頭をはじくと
「たいちょ? それってあんまし鶴見がかわいそうじゃないんすか?」
と木村がちゃちゃ入れ。
「どういう…」ことだ、と言おうとしたらその前に、スパコン、と山本に叩かれた。珈琲を
飲みながら目にも留まらぬ速さだったのはさすがである。
「お前ぇは気がきかねーっての。黙ってろ」
「なんだよぅ、山本」そ知らぬ顔で珈琲を飲む。

 それより古代である。その時は「うるっせい、余計なお世話っ」そう言って、「おい、島
行くぞ」とそそくさと食堂を出ていってしまった。
顔見合わせて、それぞれの笑いになったBT隊一同だった。

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 そんなことを言い合ったのは2月――現在ヤマトは順調、といってよいのかどうか、辛う
じて銀河系の星もまばらな宙域を、ふらふらとサンザー星系へ向かって旅していた。
 七色星団の決戦にも辛うじて勝利した。

 結局、チョコレート合戦はあまり表ざたにできるような状況でないというのは共通認識
だったようで、生活班の連中は心ばかりのチョコレートもどきを食事につけてくれ、それを
ありがたく戴いた戦闘班の面々。
だが、工作班や生活班の“想う人のいる”女性たちは、何らかのアピールをそれらに託した
らしく、命の瀬戸際でそれにココロ癒された男どももいたことは確かである。

 そして3月にはこの艦は、ガミラスとの大決戦に挑んでいたのである。
ちょうどその七色星団の決戦が終わり――敵の大将軍・ドメルの軍人魂とでもいうものを
見せ付けられたあと……艦内には再び、束の間の平和がよみがえっていた。

 工作班は大車輪の活躍であり、航海班は新たに入手したデータと元の海図をもとに、目的
の航路を再作成するのに躍起になっていた。機関部はもちろん工作班同様、戦いのダメージ
を癒すのに懸命だ。
 そしてBT隊は――。
 日に二度の哨戒は、緊張感を増していたのは当然のことながら、しばらくは大きな戦いは
ないだろうという艦長や戦闘指揮官たちの推測もあってか、少々緩みがち……だったとして
も責めることはできない。なにせ大決戦のあと。戦死者も出し、それにも慣れなければなら
なかった。


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★ ・・・2200年3月の艦内 ★
 「はぁ? クッキー? なんだそりゃ」
 加藤三郎が例によって食堂に溜まっていた連中にうさんくさげに問いかけるのに、山本が
またスパコン、と持っていた紙を筒にして頭を叩いた。
「いってぇ〜っ」
むっとした顔を上げて山本を見上げる。珈琲を啜りながら足を上げて(何度も言うが行儀が
悪い)隣のテーブルに座っている山本も器用なことだ。「俺の頭はお前のストレス解消台じゃ
ねぇっ。そう、ポカスカ叩くなよ。阿呆になるじゃないか」
もともと阿呆じゃなかったっけ、という突っ込みはこの際置いておいて。
「いいじゃねーか。せっかく石頭なんだ。それに鉄拳やハンマーで叩かないだけ俺さまの思い
やりってもんだぜ?」
どぉこが思いやりなんだよぅ、そう言って加藤はテーブルの上にフテ伏せした。
 周りにいるのは横森やら木村やら鶴見やら…と、いつぞやと同じメンバーである。
「な。隊長と副官さ」こそりと木村が横森に囁く「ちょち、雰囲気変わったよな、最近」
意味ありげ。確かに悪口言い合ってても、じゃれてるように見えないでもない。
「んぁ? 命の綱渡りこれだけ続けてんだ。息合ってきても当然だろうが」
「ん〜、そうかなぁ」木村は話を別な方へ持っていきたいらしい。

 「いいから。お前ら特別チョコ、貰った口じゃねーの?」弓削がそう言って
「そうそう」鶴見も頷いた。「いいよな〜モテる人は。必要ない処へ必要なものが行ってどう
すんの、ってね」ため息をつく。
「で、誰かお返ししたのかよ?」と木村。
 「バレンタインのお返しっていえばクッキーかマシュマロだろ?」
「そうなのか? そんな決まり、あんの?」加藤が心底びっくりした、というように言って、
一同の笑いを誘った。まったく、トウヘンボクなんだか女への気遣いってやつを知らない隊長
だぜ。というのが一同の評。どうせ、女の方から寄ってくるし女もそういった細やかな返礼な
んか女の方も期待してないから、考えたこともないんだろう。
まったく、男だよなぁ、と部下一同である。
 「あるんっす。チョコレートのお返し、まぁ見返りってんで。高級なブランドバッグとか豪
華ディナーとか…女の方も期待するって説もあるっすけどね」と、木村。
「バレンタインから1か月も経ってるし、デキあがってるやつぁデキあがってるんだから、そ
こで素敵なお泊りの一夜、なんてセットアップもあったんだろうなぁ、昔の地球では」
しみじみ、というように弓削が言って、「あぁ、友納。お前、経験ありって顔だな」端っこの
方で楽しそうに話題に加わるでもなく居た友納を指す。
 「相手、男でもおんなじかよ?」――友納のシュミは同期ならみんな知ってるので、誰も気
にせず訊ねるところは――天然な連中である。「う〜ん、どうかなぁ。どっちが渡すかっての
もあるしね」と本人も普通のお答え。「おおっ」「深いぜ」とまた関心する一同である。

 「キャンディ、でもいいんだぜ?」
さっきの姿勢のまま山本が言って……この男はやたらこういうことには詳しい。山本だけが
同期でもなんでもないのだが、こういう話題には必ず居るというのが不思議であろう。
「キャンディでもいい? へぇ」そりゃ初耳、と木村。
 「あ゛〜っ! わっかんねぇ。そんな七面倒臭いことしねーで。男なら、あぁ俺もお前の
こと好きだよ、付き合おうぜ、で終わりゃーいいじゃねーか」
はいはい加藤ならそうだろうよ、と妙に納得する一同。
 また、スパコン、と山本のはりせんが飛んで、「いってぇ」と涙目になる加藤であった。

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 「おう、宮本さん見ないか?」
そこへ古代が島と一緒にやってきて……このシチュエーションもどこかで見たな。チョコの
話してたときもそうだったか。知らねぇ、さっき艦底で見たよな、とかざわざわ。古代はそ
っか、と言い、まぁいいか、軽飯でもするか? と2人とも座り込んだのが違っていた。
お茶とおむすび、と2人とも言い、握り飯を二つと漬物、日本茶、を旨そうに食い始める。
艦橋任務も大変だなと思う同期一同なのである――まだ大戦の後始末もある、これからのこ
ともある。俺たちのようなわけにはいかないんだろう、と思うのだ。

 「よう、島よぅ。お前もけっこう貰ったろ? お返し、どうすんだ?」と木村。
「ん?」と顔上げた島は、「特に、しないな――お礼は言ったんだから、それでいいだろう」
とまぁ珍しく男っぽい答え。
「クッキー渡したりとかしないのか? …って、どうやってこの中で作んのか、って問題は
あるけどよ。カードとか」と言うと。
 「あぁそれだけど。幕之内さんとユキが特別に“クッキー持ち帰りプレゼント”企画やる
て言ってたぞ」
握り飯を旨そうに食いながら島が言って、一同はえ? と驚いた。
な、と古代を見るのに、「あぁそれ許可した。……自覚の範囲内でならな、たまにはいいだろ
うと思うからな」――さすが古代。だいぶん艦長代理らしくなったぜ、、、って自分はどう
なんだよ、このこのっ、と思う一同。
「食堂に『クッキーBOX』セットしてな、小さな袋に詰めた生活班特製のクッキーを配布す
るんだってことだ」島が言う。ほぇぇ、と思う一同。「好きに持っていって、好きな女やチョ
コのお礼にしろってことだろ? 生活班のアイデアだからな、下心満載って感じだと俺は思
うけど?」ちらりと上目遣いに親友を眺めて、島はまた面白そうな顔で握り飯に戻った。
古代は、ちょっと赤くなると、「なんだよその下心ってのは」と言ったが、こほん、と咳をし
てまた握り飯を食うのに専念しようとした。
 「お前らさぞかし貰ったんだろ? どうだよ、本命は!?」
誰も訊けなかったことを平気で訊いてしまうのが加藤三郎である。
ずいいっと肘から近づいて二人を見ると、古代と島は顔を見合わせてきょとんとした。
「――まぁそれなりに、ね」と島。「俺は立場上、今はそんなこと考えられない。……そう
言ったし、幕之内さんのクッキーなら旨いに決まってるから自分で食うかな」
と煙に巻くようなことを言う。
学生時代はけっこうナンパな処もあった島だが、乗艦してからのこいつを見てると、あながち
はったりでもなかろう、とは思う一同である。
 「で。古代はよ?」――皆が本当に訊きたいのはそれなのだ。鶴見なんぞは妙に真剣な目
をしているし、山本の目つきも案外怖い。
気づかぬ本人は、え〜っ、というと。
「俺はぁ、べ、別に」と言って、
「古代。はっきりした方がいいですよ」と友納にまで言われてしまった。「――別に貰って
お返ししたからといって、それが即“約束”ってわけじゃないだろうし。相手だってそんなこ
と期待してないでしょう? 好意くらいは伝えておいた方がいいと思いますよ――こんな中
なんだし」
友納がそう言ったので古代は少し驚いて彼を見た。
「あ、あぁ……」
 これでは心に思うことがある、しかもチョコレートを貰った、と告白しているようなもの
である。鶴見がちぇ、と言って「早くなんとかなれよ、お前。相手も返事待ってるだろ?」
と突っ込むと、
「な、何のことだっ。俺だって島以上に責任重いんだぜ? いちお、艦長代理だし…」
と最後は口の中でつぶやくように言って口ごもった。
 「だけどね」
普段あまり口数の多くない友納がまた古代に言う。
「――人の心ってのは支えも必要なんだ。好意が互いに合って、惹かれあっていて……もち
ろん今、ヤマトは戦いの中、イスカンダルへ向かってる。君らは責任者で、重いもの背負っ
てる。けど、それを不謹慎だなんて誰も思わないし、言わせないよ?」
キツくはないが、強い口調――皆は少し驚いてそれを見ていた。
 「へぇ? えっらく説得力あるな、友納」 お前も何かあるんだなきっと。
「……古代、そういうことだ」
加藤三郎が突然言ったので、おい隊長どうしたんだよ、えらく変わり身がはえーなとか言わ
れ、本当は察しが悪いわけでも鈍トンカチなわけでもない隊長は、その言葉に込められた
重みを感じている――それに。自分もなぁ、と思わないでもなかったりして。
 古代は答えなかったが、真面目な顔をして、あぁ、ありがとう、と言った。
 「皆、も。いるのか?」
そう明るく問われましても、と困った同期たちである。――古代が行かないのなら、俺たち
目標は森さんなんだけど。鶴見も木村も横森も、、、さてあとはどうなんだろうか、わから
ないが。
「古代、せっかくだ。自分で食わずにな」
食事を終えた島がぼん、と古代の背中を叩いて、ほれ、行くぞと促す。
あぁ、といって立ち上がった古代は、またな、みんな。そう行って2人して食堂を出ていった。
その後姿を見送ると――あぁあ。とため息をつく。
 皆、わかっているのだ。彼らの辛さも、責任感も。大事な仲間――でもなぁ。やっぱモテ
るのはうらやましいなと。

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 「え? これ、私に?」
ヤマト菜園で植物の様子を見ていた森ユキの許へ、いつものように古代進は唐突に現れて、
戦闘でのダメージや経過、新しく試した品種の生育具合などを尋ねたあと、手にぽん、と小
さな袋を置いた。
え、と見ると明るい瞳が少しテレたように笑ってる。
――幕之内さんから聞いた。これ、君のアイデアなんだってね。いつも、いろいろ、ありが
とう。
「え、えぇ――私こそ」
ユキは顔が赤くならないように、努力しなければならなかった。
 それに、どういう意味かしら。いつも、いろいろ、ありがとう? そのお礼っていう意味
かしら? それとも、本当に私が仕掛けた意味の通り、あの、ちょっとしたチョコレートの
お礼だと思っていいの? 古代くん。

 じゃ。
少し首をかしげて笑ったあと、そのまま踵を返して菜園を出ていく古代進。
(あ……)
何か、言わなきゃ、と思って何も言えないまま、ユキはそれを見送った。
 通路に出た途端、古代がふぅと息をついて
(おかしくなかったよな? 普通に渡せたよな? それに、わかってくれたのかな?)
と顔を赤くしてドキドキする自分の鼓動を抑えるのに必死になっていたとは知らず。

 ホワイトデー、というのだそうだ。
地球がまだ平和だった頃から、ずっと伝えられてきた、オトコノコの“お返しの日”。
バレンタインデーだけはチョコレートという素晴らしい菓子と共に何百年も残ってきたが、
その意義は薄れた今も、若者たちの心の前にはまたそれは意義あるものだった。

 西暦2200年3月――ヤマトはいよいよイスカンダルのあるサンザー星系へ向け、ひたす
ら星の海の中を、翔けていた。

Fin
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綾乃
――13 Jun, 2009・改訂


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あとがき のようなもの

count071−−「クッキー」
 本当はもう少し平和な時代の話にするつもりでした。しかしお年頃の多かったヤマト艦内。
もちろんたいへんなことはいろいろあったでしょうが、そんな中にも“日常”もあれば“恋”もある、という
切り口での話です。命の瀬戸際だからこそ……好きな人に心を伝えたい、気持ちを返してほしい。
食堂でダベりながらも、皆。心の裡にはいろいろなものを秘めていて……森ユキを好きだし、好意を
得ているのもわかっているのに、艦長代理&戦闘班長の使命が重くて口に出せない。
いや、別項では書きましたが、単に古代進の場合は“重い”だけじゃなくて、もう少しいろいろ考えて
いる。一方の島くんはこの時期、一所懸命、一方で諦めようとし、一方でそれどころではないと割り
切り…だからあれは本音なんじゃないかと思います。
 ともあれ、とっても苦手ネタでしたが、友情・恋・立場。そんな1シーンをお楽しみいただければ幸い
です。
(綾乃・拝)

 ところで、気になる戦闘機隊長と副官の“怪しい話”はこちら 
=Epilogue= ただし、「怪しくても
大丈夫」という方 のみ、お進みください。2人のファンの方は、危険・近寄るべからず(_ _;)

Count047 Phese12−−2007 作/13 Jun, 2009改訂
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