air icon 幸運の神ラッキー

CHAPTER-07 (017) (011) (092) (052) (042) (077: 1 /2 /3 /4 /5 /6)





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 上陸作戦は再びワープして土星の近辺へ回天して行なわれた。
70近くある衛星(一説には64個)の一つを利用する。
し、しかし――あり得ないって、こんなの。
な、なんでこんな微小矮衛星に雪や嵐があるんだよっ!
 人類が太陽系を手中に納め、主な惑星や衛星には基地が置かれた……といっても、このあ
たりの宙域はまだわからないことだらけだ。観測天文台が置かれ、日々、研究が進められて
いたり、時には研究船が派遣されたりもするが、すべてが解明されているとはいえない。も
ちろん宇宙は日々、変転しているからでもある。

 6時間以内に敵(想定)基地内の機動装置を爆破して帰還する――準備1時間、バッファ
1時間。つまり予定どおり“8時間の上陸作戦”というわけ。
上陸部隊の隊長副官だって!? やったろうじゃないか。
――風間巳希、この時点で相当逞しい精神状態になっていることに気づいていない。
とほほ、という気分は相変わらずあったが、もともと負けん気は強いし、プライドもある。
エリートの面目だってある。くっそぉ、本部に戻ったら憶えてろよっ!!
 誰に向かって言うのでもない、それに戻れる保証があるかどうかも神のみぞ知る――この
場合の“神”=古代進、なのではあるが――という風間の状況である。

 行軍は思ったよりキツかった。
(――っくしょう! 学生(がっこ)時代にこんなの幾らでもやったろっ! それに配属前研修
でもこなしたはずだ…)自分に腹が立つ。
何が衰えているんだろう? それはかなり情け無いぞ、という風間。実は様々な条件が古代
風実戦想定なので、少しずつ厳しい、ということには気づいていない。彼はそれでもよくや
っており、上陸部隊隊長・豊橋について、それでもなんとか味方を引っ張って問題の岩壁ま
でたどり着いていた。
 『酸素大丈夫か? ――過呼吸おこさんようにな』
豊橋はガタイも大きくモロに騎兵っぽいが、実際は砲術士官のNo.2である。ヤマトの頃か
ら古代や南部と共に働いた生き残り組で相当なツワモノのはずだが、身近に接してみるとな
んだか印象のとても柔らかい人で、拍子抜けした。もちろん命令を出す時はオーラが切り替
わって迫力ものだし、動きは大きな体のわりにやけに敏捷で、圧倒されることしばし。重火
器なども軽々とかついで、その射撃の正確さにはキモを巻いた。
 『お前も、そこから撃ってみろ――あの白い塔、見えるな』インカムを伝わってきこえて
くる声。「はい」だがあまりに遠い――いくら大気が薄くてものがはっきり見えるからって。
『その上から二番目の赤い点、わかるか?』わかるわけねーだろ……とと。そうか、こうや
れば見える――「はい」『そこの下に起動装置があるそうだ。現在、塔の裏側にV隊が回って
いる、援護するぞ』「は、はい……」『俺がバックアップするから――構えろ』
はい、という余裕もなく、背中にしょった小型バズーカ――コスモガンの一種だ――を構え
なおす。焦点を合わせるとその塔がズームした。
 『3、2――Fireっ』それに合わせて発射した。
『よしっ! 一発目、行ったな?』ばらばらと人が駆け出し、口をあけた処に飛び込むのが
見えた。豊橋さんは何をするかと思うと数発を連射――(あ、あぶないっ! 味方がいるの
にっ)よく見ると周りの岩場からロボット兵が転がり落ちるのが見えた。
『敵さんだ――ということになっている。一つを行なったらそこから引き起こされる状況を
常に把握。バックアップの基本だぞ』「はい」――俺はこの人の言うことは、何故か素直に聞
けた。まぁ南部さんの言うことも、だけど。でも、あの人、言い方なんだかイヤミなんだよ
なぁ、丁寧口調が気になるし。

 俺たち援護部隊は先行部隊に追いつかなければならなかったので、かなりキツイ移動をこ
なしていた。
敵別働隊を引き寄せてはならない――だが、先行した部隊の助けが間に合わなければ、作戦
は成功したが全滅、というシミュ結果がはじき出されている。だから実際は必須で、急務だ。
 (――きしょうっ。もう、だめだ…)
急ぎの行軍して、バックアップの遠方からの射撃。さらにそこで銃撃戦。そして匍匐前進し
たあげく突撃しての移動、さらに壁越え――あぁ、わかっている。現場ではそんなの普通だ。
死にたくなければ――だけど。
 腕が痛い。いくらGが軽いとはいっても、氷雪の嵐吹きすさぶ中、岩壁に取り付き、それ
を銃器を持って越えようとというのだ。おまけにこの簡易宇宙服――さらに装備。動きにく
いったらない。……額に汗が滝のように流れて、体の中が自分の蒸気で蒸れようと、バイザ
ーを下ろした上から汗をぬぐうこともできなかった。
(……だい、たい、こんな、仕事――自分の分(ぶ)じゃないって)
半分泣きそうになりながら、筋肉痛で思うように動かない体をずり上げるようにして手で引
き上げる。疲れと緊張から来る弛緩――片方の手がすでに感覚をなくし、痺れ始めていた。
 (あっ――落ちるっ)
ふっと意識が遠のきそうになって、慌てて一方の命綱を巻き取ろうとしたところを、上から
がっしりした手が押さえた。
『――しっかり、しろ。自分の体くらい、引き上げられなくてどうするっ』
インカムから涼しげな声に弄られて見ると(え? 何故、艦長が)。
古代進だった。豊橋隊長はすでに先行している――ここで待っていた、ということか? ど
ういう人だよこの人。その古代に引き上げられながらさらに『下、見ろ――お前が落ちたら
下は死ぬぞ』え。と思い、首だけ曲げて見ると下から何人もが連なって岩壁を登ってきてい
るのだった。忘れていたわけではない……だが、ぞっとした。
 『――お前は、指揮官だ。その、役割を果たせ――』
岩の上まで引き上げたあと、四肢を付いている自分を見捨てて、その人はさっさと平らな場
所を向こうへ行ってしまった。ばらばらとあとから先任たちが上がってくるが、自分みたい
に情けなくぶっつぶれているヤツはほとんど、いなかった。
『――風間、立てよ。追いつかないとまたどやされるぞ』
ぽん、と篠原が通りがかりに背を叩き、仕方ねぇなぁと助け起こそうとするのを振り払って、
自分でふらつきながら立ち上がる。
(ち、くしょう……)……あんな。あんなヤツに負けるなんて。
どうせ別艇で降りてきたんだろうが――戦闘服着てたな。まさか、自分も参加するのか?

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 模範演技、というつもりはなかったに違いない。 だが、本当に古代進はそのまま演習の中に入り、豊橋大尉と2人して先頭を走って、敵基地
想定の山へ潜った。
――山の岩壁を利用した半地下基地。ロボット兵が襲い来る処を、強引に攻め込む。
すでに作戦の半分は成功しており、あとは全員――どれだけの兵力を生きて連れて帰れるか。
それと時間――艦の出発時刻までに戻れなければ、それで作戦は失敗なのだ。

 古代と豊橋のリレーションは見惚れるほど凄かった。
「風間。後ろは任せる」そう言い置くと、有無を言わさず古代が飛び出し、豊橋が追う。
(――なんだよ、あんたたち、指揮官じゃねーのか)
しかし、任されてしまった風間にも、考えている暇はなかった。
 「バックアップ! 全員、各個に撃て!」「篠原、水木、三室っ。右翼から援護――行けっ」
「笹野、伊東――浜谷さん先頭願います、左翼保持っ」
次々と思いつく限りの指示を出し、自分も低く構えて撃てるものを撃った。
そして――よし。行くぞっ。
片手をかざし、少し待って――銃撃の合間を縫い、前へっ。
コスモガンを構えて飛び出す。
「続けっ!!」――自分にそんな熱いエネルギーがあるとは思わなかった。

 飛び込んだ場所は、凝った仕掛けがなされていた。
その中を飛びまわる古代艦長と豊橋大尉は、むしろ楽しそうでもある。
『豊橋っ、そっちだ』『おうっ古代、カモンっ!!』――息、合いすぎだろ。
 「――あと、30秒、引き上げますよ、爆破準備完了」
耳から入る情報を上官2人に伝えると、
『よく言った』『おう!』戦闘しながら合図を寄越し、
一斉に全員が引き始める。
「だめだっ、銃撃やめるな、続けてっ」
退却の隙を狙われるのが最も危ない――俺たちは最後までやらなくては。
……初歩の、初歩だろうって、お前ら。

 そうして作戦は――ぎりぎり6時間で、終わりを告げた。


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