air icon 幸運の神ラッキー

CHAPTER-07 (017) (011) (092) (052) (042) (077: 1 /2 /3 /4 /5 /6)




moonpiece clip

= 5 =
 大演習終了のあと、艦長の――いつの間に着替えたのかするりと艦長服で涼しげに立って
いた古代進の――簡単な言葉を得て、全員休憩、解散。となった夜。
「お疲れさ〜んっ」「おうおうっ、がんばったな〜っ」
食堂に集まって皆が盛り上がっている。バテてそのままベッドへ直行した者もいるにはいた
が、汗を流し、さっぱりすると戦闘の興奮もあってすぐに眠る気にならない者も多いのだ。
 今日一日だけはゆっくり休め、明日からは戦闘宙域に出航だからな、といわれた。士官連
中の姿もぽつぽつと見え、人の溢れている食堂内である。

 「よう」皆と少し離れてほぅ、と何となく宇宙そらを眺めていた風間の肩を叩く者がいる。
ポン、と肩に手を置くのを見上げると、宮本隊長補佐だった。
後ろにグラスを二つ持って佐々さんもいる。
「活躍したみたいだな」彼は相変わらず厚顔な感じだが、佐々さんは少し表情が緩んでいて
――そういえばこのヒトたち仲良いな。いつも一緒にいるイメージがある、と思ったのは内
緒だ。
「頑張ったね、いちお、合格点、ってとこ」
 勝手に同じテーブルに2人は座り、はい、と佐々がグラスを寄越した。
 恐縮して受け取ると「まぁ一杯やろう?」と見られて、その一瞬の目にドキりとした風間
である。
 カチリ、とグラスを3人で合わせる。
「古代と一緒に銃撃戦、やったんだって?」可笑しそうに佐々が言い、
「なかなか的確な指示だったぞ?」宮本が肘をついて言う。……ヴォイスコーダでも聴いた
のだろう。
 「南部が褒めてたな――あんま天狗になっても困るからこれ以上言わんが」
「もともとこいつは天狗なんだ。多少踏みつけても構わんぞ」佐々さんがひどいことを言い、
何なんですかもぅ、と思わず睨み返してしまった。
 くす、とお二人は笑い、「なんかこういうとこ誰かさんに似てるな」
「古河?」「あぁ…」
古河って昨日も名前が出てた――あぁ。あの戦闘機隊兼騎兵隊みたいな人。たしか古代
さん直属の遊軍だ。
「気ぃ強くて結構だ――古代も、お慕い申し上げてます、みたいのばっかりじゃもたねぇか
らな」宮本さんが言って、それじゃぁ俺は何だ。期待されてるってこと? と思った。
 「俺は――現場なんぞ好きじゃありません」
いや、本当は戦艦に乗るのは好きだ。キツかったけど演習だって体を動かすのだって嫌いじ
ゃないんだ、本当は。だけど、自分の分じゃない――それに、目標がブレるのはイヤだし。
「ふふん」「ほぉ」
そう言って二人ともが目で笑うのがイヤな感じ。本当ですってば。
あんたたちみたいに“生涯一戦闘機乗り”なんて、そりゃカッコいいかもしれませんけどね、
莫迦みたいです。
 だが、実際。やれてたんだろうか?
   細かく頭の中で足し引きしてみると――細かい失点もいくらかやったが、あとで挽回した。
指示は悪くなかったと思う、だけどその都度、豊橋さんや南部さん、……悔しいけど艦長に
助けられてはいる。え〜と…。

 「有能な指揮官が一人でも二人でも増えてくれるのは、こちとら大歓迎だからな」
「そうそう。阿呆だったり現場知らない人間がやたら増えてくれても、すっ飛んで行くこっち
の身が保たない」と佐々さんが言った。「なぁに、そんな時は、勝手にやらせてもらうだけだ
けど」ふん、といった表情でグラスを口に運ぶ。
「俺は古代の艦しか乗らねーぞ? 本部に席あるんだからな」と宮本さんが言って
「あんたはそれでいいでしょうけど? 皆がそう言ったらどうなるのよ。ちっとは偉くなっ
てもらわんと困るんだけど?」佐々が言う口調が親しげで、思わず風間は見てしまった。
 「どうした? 不満そうだな」
宮本さん、それは違う――風間も皆と“共に修羅場を”潜り抜けた今、この艦の士官連中が
どんな仕事の仕方をしているかも想像できたし、その能力の高さも理解しているつもりだ。
そこまで頑なではない、という自負もある。
「なんとかやれそうか?」佐々がグラスを置いてまっすぐ見つめていた。
「は、えぇ」風間も見返し、そこに強い意思を込めすぎて睨み返すように見えたかもしれ
ない。
――やれるか? だって。やってみせる。
くい、と手許のグラスから残りの酒を放り込んだ。
 「おし、その意気だ」どん、と背中を宮本さんに叩かれて、げほ、とむせた。
あははっと2人は笑って――いい艦だぞ、と佐々が言うのに、へ? と風間。
「戦闘に突入すればわかる――いやもうきっとわかっているだろうな、お前のことだ」
お前のことだって……なんか俺。
さて、ゆっくり休むか。明日からは準備もあるから、朝から忙しいぞと宮本が言って、あぁ
そうだなと佐々も立ち上がる。ゆっくり休め、と言った言葉がなんとなく優しく感じて呆け
ていると、2人はそのままいくらかの面々に挨拶をして食堂を出ていった。
―― あ? 思わず邪推してしまった風間だったが……どうなんだろう。昔馴染みだよな、
佐々さんて有名な恋人が確か、いたんじゃなかったっけ、など。
酒が回ったんだろうか? 頭がぐるぐるしてくる前に部屋に引き上げよう。
その日一日の成果も、検証してみなくっちゃ……そんなことを思いながら――だが実際は。
床についたとたん、ぐっすりと墜落睡眠してしまった風間巳希だった。


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= 6 =
 それから2日後。
 実際に戦闘に入ってからの顛末は、詳しく語る必要を風間は感じない。

 風間巳希が驚いたことに――それは訓練ほど厳しくもなく、ただ実弾を撃ち、相手があっ
て、実際に宇宙の空間で爆発が起こり――そういうことだ。
シミュレーションより難しくなく、まるで決められたことをこなすようにスムーズに、人々
は動き、リレーションしてそれぞれの任務を果たした。それだけのことだった。
ただし艦載機隊の出番はあまりなかった。しかも「撃破するな」、という小難しい指示が
出て……相手が地球人だから、だそうで、そんな難しいこといわれましても、と文句を言い
ながらも、宮本−佐々コンビはそれをひょうとやってのけ、部下どもにも徹底したのだから
“天才の誉れ高き連中”はあながち標題だけでもなかったのかもしれない。

 だから派手な艦隊戦があったわけではない。
 メインは隠密行動の方で、衛星上で行なったシミュレーションの通り……ほとんどそのまま
の状況が展開され、俺たちは基地を確保したうえ――想定と違ったのは、敵を捕虜に取らな
ければならなかったことと、さすがに古代艦長自ら先陣を切るというわけにはいかなかった
こと。……加えて、これは当然のことだが、別の要素が加わっていた部分に変数が発生した
――だが豊橋さんらの動きを見ると、それも想定済みだったという風にも思えた。

 奇妙にシミュレーションどおりに進んで行く戦闘は現実味がなく、もしかしたら自分もゲー
ムのコマの一つになったのではないかというような錯覚に陥る。
 だが現実には俺は、詰め所でコマを動かし指示をする代わりに現場の真っ只中にいて、
大声を張り上げながら銃を片手にインカムを頼りに走り回り、あまっさえ自分で指揮さえとっ
ていた。――これは、何だ? どういうことだ???

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 で、その“イレギュラー”部分は、また驚きの連続だった。
 敵基地潜入――驚いたことに地形や位置関係までほぼ想定どおり、ただ壁の材質やその
他が異なっただけで。俺がその穴倉でバックアップを取ったのも、同じ――もう少し時間が
かかったことと、先頭を仕切ったひとが異なっただけ。
……艦長・古代進は想定地上戦でも抜群の力を持つ。その俊敏な動きと銃の腕前は賞賛
に値する――のだと誰かが言っていた。その目の前で見せ付けられた豊橋さんらとのリレー
ションを、一人欠けたのままで賄えるのか。あまりストーリー通りに進むとそれが不安だっ
たのは正直なところ。
 豊橋さんが 「行くぞ、バックアップを!」と言って飛び出し、
「待ってください、一人じゃ危険……」誰か追え、と声をかけようとした途端、そうして危うく
と思われた瞬間、その壁を突き崩して味方が現れた。
がぁん、と壁ごとぶちやぶり、バラバラとなだれ込んできた先頭にその人はいた。
……名前だけを聞いていた古河大地ふるかわ だいち中尉――先行した潜入部隊。そして古河さんは、
古代さんが担っていた役割のまま豊橋さんと合流すると、あらかじめ打ち合わせができて
いたとでもいうように、隊の人々がわれわれと共に追う中、先頭を突っ切り2人して攻め込
んでいったのだった。
 豊橋さんは古代艦長との時のように軽口を交わすことこそなかったが、抜群のリレーショ
ンで――そして、その突撃した先からは確かな反応がすぐに返り――戦闘はあっという間
に終わった。
『引き上げる――援護を!』そうインカムに伝えられた時、俺は演習と同じように
「バックアップ!! 銃撃、やめるなっ!! 全員、注意して退却」
と叫んでいた。
 そうだ。シミュレーションと違うことがもう一つあった。6時間どころか、4時間で終わった
ことだった。

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