夜明け前 −before dawn−

 

飛行機乗りファイターたち 02


− ☆ −

 「加藤ってさ。三郎・・ってくらいだから男3人兄弟か?」
毎日のようにいろんなこと話していて、加藤もとてもオープンなヤツだが。
案外、人の話を引き出すのは上手いくせに、自分のことは
あまり言ってなかったというような三郎である。
 進は今さらながらに、無神経にも見えかねない三郎の“聞き上手”と
気配り具合に気づいてもいた。

(−−こいつはきっと、いリーダーになる…)

そんな風にも思う。
 腕だけじゃなく。人柄だけじゃなく。なんとなく。

 「あん? あぁ。−−上に2人だが、実は下にもいるんだ」
「四郎っての?」
「そ」
そう言って笑った。
「さぞかし賑やかな家なんだろうね」
 羨ましいという風情を見せて進が言うと、三郎はかすかに首を振って。

 「まぁな−−以前はそういう時期もあったさ」

その瞳がいつもと違っていたので
「え? どなたか亡くした?」と訊ねてしまった。
 ふっと笑って、あぁ、と三郎は頷く。

 「兄貴かぁ…宇宙の藻屑よ−− 一番上がさ、大砲撃ちで戦艦乗りだった
けど……けっこう偉くなった処で、開発師団のリーダーで外宇宙。
いったい帰ってこれるのか、いつ戻ってくるのか、おっ死んぢまったのか
よくわからん」
 「……」
 「二番目は、どこの宇宙そら飛んでんだか……戦艦乗ってる」
 加藤三郎はちょっと自慢そうに鼻を触った。

 「大人しくて頭のいい、自慢の兄貴でさ−−戦艦乗りなんかになったのが
家族中信じられなかったさ。戦闘員じゃなくて、航海士だけどな。
 こんな時期だから、補給ラインも命がけだから。俺もひやひやしてるけど
たまぁに帰ってくるな。……今度結婚するようなこと言ってたし。
だがこんな時代だろ? 遠慮深い兄貴やつだからな」

 「親父は宙港の工場労働者だ−−パイプとか動線の専門家だしな、地上の宙港が
閉鎖されてからは地下都市建設に呼び出されて、ほとんど帰ってこなかった。
空気のパルプ、浄化装置、電気やエネルギーの道通…俺らにはわからんけど」

 そうか。

「一番下はまだ中学入ったばっかだ」

 「ただし、兄貴の嫁さんと子どもが家にいるんだよな」
 「え?」と進が驚いたのを可笑しそうに。
義姉ねぇさんと、四郎だろ。甥と姪。父親と母親。…まぁけっこう賑やかな家かもな」
 「そうなのか」進はにこりと笑った。

 「親両方ともぜんぜん軍人じゃないんだけど」三郎は続けた。
「爺さんの血が濃かったらしくてな−−爺さんは前の戦役の航空機パイロットだ。
太陽系開拓の艦載機乗りで、けっこう実績あった人でよ。……宇宙そらで死んだ」
 「そうか…」

 俺も−−どうせ、死ぬなら。宇宙そらで死にてぇ。
 いや、俺は生き延びてやるって思ってるけどさ。
 このまま、地球に囲い込まれて叩かれっぱなしは、イヤだ。
戦艦に乗って−−戦艦が無いなら艦載機で及ばぬ限りでも…行ってやる。

 加藤……。
 待ってるやつがいるからな……末の弟のためにだけでも死ねない。
 四郎くん?
 あぁ−−最近、戦闘機乗りになりたい、なんていいだしやがってさ。
親には黙ってるみたいだが俺にゃぁお見通しよ。
だが−−俺で打ち止めにしたい。
俺たちが地球の空、取り戻して……あいつらには、青い空、戦闘機なんかじゃなくて
飛ばせてやりたい−−そう思わんか、進。

 ・・・あぁ。

 進は思った。

 俺と、こいつとの違い。
 −−守るべきものが、あるか、無いか。
 未練が残るから無い方がいい、そういう人もいるけど。
ある方が、強いんだ。−−絶対に、やり遂げる。生きて戦って、勝つ。
俺にはそこまでの確信も希望も持てない…。

 


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