夜明け前 −before dawn−

 

.仲間 01


− ☆ −

 「おう古代、今日の午後、航法科と合同訓練。――久々だなぁ、島。よろしくな」
食堂で一緒にいた進と大介の処へ、加藤三郎が来てどっかりと前に座りながらそう言った。
こいつはどう座っても“どっか”という感じになる。
デカいからなぁ。
――最初の“お嬢ちゃん”“ちっこいの”から昇格して、進も大介もそれなりに大きく伸び
ていたが、加藤や南部……それに相原もに比べるとやはり小柄感が否めない。

 鶴見も一緒だった。

 それよりも、驚いたな。
「どうした、三郎。熱でもあんのか」
大介がそう言って三郎を見た。
進を“古代”と呼んだのは1年生の最初であった頃――以来だったからだ。

 「なぁ。俺たち名前で呼び合うのよそうぜ」
目の前の飯をけっこうな勢いでパクつきながら、目だけ上げて加藤三郎は言った。
「俺は、これからお前らのことは古代、島と呼ぶ。お前らもそうしろ」
な、と横の鶴見を見る。
 どうしたんだよ? 進がきょとんと見ると。

「卒業したらすぐに戦地だ。――もしかしたらお前ら、俺たちの上官になるかもしれない。
そうでなかったとしても、友だちやってるわけにゃいかんだろ」
真面目な顔して。
 進と大介は食いかけの食事を前に、目を見合わせた。

 そうだな。

と言ったのは大介である。
 職場に行けば、そうなるのは普通の社会でも当たり前だ。俺たち、軍人なんだし――訓
練学校だって末端組織なんだから、公私分けるのは当たり前か。

 生死をわける緊張したシーンでも、だ。
誰何すること、呼ばれること、指示すること。――仕事の中にそれが圧倒的に多いのが、
軍隊というところだと、もう彼らは知っている。
たいていは階級や役職で呼ばれることの方が多いにしても。

 「わかった、俺らもそうするよ」
「できれば。――お互いもそうしてくれると、嬉しいんだがな」
加藤の目は何故か真剣に島を見ていた。

(お前ぇらは、おそらく。指揮官になる――お前ら同士が甘ったれてちゃいけないんだ)

 (そういえば、最初から南部は名前で呼びかけたことがないな…)
相原がずっと敬語なのは性分なのかもしれないし。
鶴見のことを名前呼びしないのは加藤も俺も、兄弟に同じ名のやつがいるからだし。

 こくり、と古代進は頷いた。
「はやく、飯。食っちまおうぜ。午後の予習、したいんでな」

そう言ってまた、涼しい顔で飯を食い始めた。

 


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