Tea Time

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−−Between YAMATO3 and Final・2203年
〜お題 No.45〜
   
【Tea Time】   

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 太陽は、もとの大きさを取り戻し、地球は灼熱地獄から救われた――。

 まだ空気の状態は完全ではないし、地下都市にいた方が、より快適な環境が
供されているというのに、軍人民間問わず、人々は地上へ戻りたがった。
比較的早く整備の終わった一般士官用の独身官舎の(彼らはほかに住むところ
がない)、次に整備の終わった士官官舎エリアに、佐々は早々に戻ってきていた。
 ヤマトが地球に着艦して2週間。
 出発前に、以前住んでいた場所から士官エリアへ移っていた。
 古代やユキの住んでいる家族用、士官用の集合住宅に加え、望めば小さなメゾ
ネットの独立家屋も与えられたため、佐々はそちらを求め、住んでいる。
 ところが――加藤四郎の官舎も近い。
 失念していたが、彼もデザリウム戦の功績で准尉から二階級特進し、コスモ
タイガー隊を率いるのに必要な尉官となっている。現在は、佐々と地位としては同様
の、中尉だ。だから。
近い地区を選んで士官官舎に入ってくるのは予想されたこと。
だからといって偶然とはいえ、これは近すぎるだろう――。
(ついでに言えば、古代やユキの家も、相原の家も、そこそこには近いのだが。)

 とどのつまり
(そんなつもりはないんだけれど――)
シャルバートから帰ってきてから、一緒に過ごす日が多い。
というのも、四郎がすぐに、“こっち”へ帰ってきてしまうから。
「何度言ったらわかるんだっ! ここはあんたん家じゃない、自分ちへ帰れっ!」
何度怒鳴って追い返しても同じである。
「葉子さ〜ん、そんなこと言わずに、入れてよ」
と、情けない声を出しつつ、しっかりメゲないやつなのは前と変わらない。
 要するに、帰宅するなら自宅へ帰れというだけなのだが。なにせ、四郎の官舎へ
帰る“通り途”に、ほとんどブレもせずある佐々の官舎。主道を逸れて、脇の小道を
入るだけ。気持ちはわからないでもない。
だが佐々は、そういうのは嫌いだ。
「ダメ。ともかくいっぺん家に帰れ!」

いずれにせよ、10分もしないうちに電話がかかってくるか、本人が現れて
「葉子さん、飯、行きましょう」ということになるのだから。
断るのも面倒くさいし、食事は一人でするよりは二人の方が楽しい――。
今日も、先ほど家の前で門前払いを食らった四郎が、着替えてやってきて、
「よ〜こさん」とにこやかにドアの外に立っていた。

 モニター画面の受話器を外して、一つため息をつくと。
「……入れ」
諦めたような顔は外のモニターには写らないから、葉子がどんな表情をしているかは
四郎にはわからない。もちろん、そんなことはどうでもいいことで、四郎にしてみれば、
入れてもらえれば、それだけで結果オーライなのであろう。
 「食材買ってきましたからぁ」と相変わらず元気だ。
いったい何時(いつ)そんな時間があったんだか。

 実は四郎は料理が得意だったりする。大人数で育ったせいか、末っ子の器用さ
なのか
「兄貴がいた頃も僕、けっこう料理作ってたんですよ。時には母のよりも評判良かった
りしたし」――とはいえ、新鮮な食材などさほどたくさん揃うわけではない。
インスタントや人工素材にバイオ栽培のものを取り混ぜて、なんとか形に見せるのも
現代人の食生活の一つの技なのであろう。……そんなところもけっこう器用だ。
 端から見れば、仲良く台所に立っている姿はどう見ても立派な恋人同士なのだが、
当人たちにはまるでその自覚はなかった。
 軍人は自分のことは自分でできるのが基本である。糧食を作れない者はいないし、
美味しいものを食べようという気力があるかどうかは個人差があるが、それも軍務の
一つと考えなければならないことすらあるからだ。
――食べ物の心配をしなくてよい、という時代は、この数年、ないに等しい。
だからこそ、食事を採る、ということは、またそれを楽しめるということは、平和の
象徴のようで、それは誰もがそう思っていた。
  

 
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