MISSION

・・宙駆ける魚・3・・



(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)  


――コスモタイガー隊、A.D.2201年・地球。


そらね駆けるうお・3 MISSION】


star icon


ヤマトは還ってきた――。
護るべきものを生かすため、多くのものを失って。
希望のふね、奇跡と、それは呼ばれる――。


= 1 = 地球にて――ヤマト第二の旅からの帰還。



 白色彗星との悲惨な戦いを終え、ヤマトは帰還した――。


 地球は、ゆっくりと復興の道を歩みはじめる。
 二度の戦いの教訓を生かし、最初に着手されたのは地球防衛線の復活と人材の登用だった。
 地球防衛軍所属・宇宙戦艦ヤマトは、最大限の優先権を与えられ、 その復元とバージョンアップが図られた。また、戦いでボロボロに傷ついた人々は ……亡くなった者には手厚い遺族年金が支給され、出航の際の命令無視・謀反は不問に処され、 だが敢えて褒章を得ることもなく、ヤマトは静かに眠っている。
 戦いの記録については、乗組員が退院次第、 古代と真田を中心に詳細なレポートが提出されて、 地球市民はやっとその全貌を知るところとなった。


 だが、ヤマトの傷は深く、乗組員たちの傷も深く――だが彼らは絶望することなく、 強い意志をもって再び立ち上がろうとしていた。


 佐々葉子は、退院直後から本部基地にいた。このあと火星基地に赴任し、
傷が完治するまで宇宙戦士訓練学校の研修所にあたる火星基地で、 訓練生の仕上げを担当することになっていた。
 「本当はゆっくりと休みをやりたいんだが――」
任官が決まった時、上官からじきじきに辞令を受けつつそういわれた。
「古代も、島も、南部も。真田や相原だって、まだそんなにすぐ戦艦に乗って、 出かけられるような状態じゃないんだがね――本人たちの希望でもあるし、 治り次第、訓練航海に出ることになったよ」
「了解しています」
「君は、火星勤務だが――それでいいのだね」
「はい。古代さんにはすでに……」
腕が動かず、まだ前線に復帰できる状況ではないのも確かだった。
「了解している。……コスモタイガーは新人を登用する予定だ。これは暫定だが、 君はその次の航海に参加するメンバーの仕上げを手伝ってくれたまえ。 おそらくその時は一緒に乗ってもらうことになるだろうけどね」
「はい、望むところです。ありがとうございました」


 航宙機の操縦が思うようにできるようになるためにはまだ数週間かかるだろうと医者に言われた。 大気圏内やコスモハウンド程度ならオートパイロットと組み合わせて片手で動かすことも可能だが、 今無理をすると元の機能を取り戻せなくなると脅かされて、この際、 しばらくは地上勤務と教官職に専念することにしたのだ。
 じっとしているのは耐えられなかった――。
 加藤三郎を失った傷は深い。たとえ、誰もが、誰か大切な人を失っていたとしても。 たとえ地球が助かったとしても――佐々にとって、ただ一人の人は、 再び星の世界から還ってはこなかったのだから。


glass clip


 帰還後、久しぶりに哨戒機に同乗して地球をパトロールがてら空を翔んだ。
 まだ自分では運転できなかったため、コ・パイロット席に乗せてもらったのだ。
哨戒機には、生き残ったヤマト乗組員のうちの一人、宮本暁が同乗し、操縦した。


 「佐々よ――地球はだいぶ痛めつけられているな――」
宮本は若い隊士の多かったヤマトの中でも先任の一人で、落ち着いた武者である。 彼が生き残ってくれたことは本当に嬉しかった。佐々と同じように白兵戦で大怪我を負い、 片足の椀が吹き飛んだのだ。義関節を入れているが、まだ完治とはほど遠い。 ただし、腕は痛めなかったため(軽い怪我はもちろん負っていたが、骨折には至らず)、 義足の部分を装填すると、すぐに前線に復帰した強者つわものである。
 「えぇ――少しずつ建造も始まったようですけどね」
「失われた森林や湖はまた一からだな」
「せっかく一年経って青い地球が戻ってきていたのに……ね」
「あぁ…だがまたこうして地球の大気圏を飛ぶ日がくるなんてな」
「えぇ」


 宮本が今、何を考えているか佐々にはわかった。
 死んで行った仲間たち――飛んでいる時だけは彼らの魂を身近に感じられる。


 窓の外には、地球の美しい大気圏と、荒れ果てた地表、 そしてはるかな天空が広がっていた。


higan-bana clip




←【宙駆ける魚・2】へ  ↑目次  ↓次へ  →新月annex扉


tris's_linkbanner


▼『宙虎シリーズ』の、背景画像は、「トリスの市場」様からお借りしました。
残念ながら、素材サイトは閉じてしまわれましたが、佐々やBT/CTのイメージとともに
宙虎作品のイメージシンボルとして無くてはならないものとなり、作品のリニューアルにあたっても
そのまま使わせていただきました。この場を借りて、制作/デザインのお2人に末永く感謝いたします。
管理人 Ayano・拝

(カウンタ?)
copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2005-2011. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system