宇宙そらを見つめて

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【木星の月− 宇宙そらを見つめて】

−−パラレルワールド・A
島大介の場合(2)
:お題2005-No.45「木星の月」

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= Prologue =

 「…ま、さん」
遠くから声がする。
「しま、さん。――島さん!」
え。は、はいっ! 私の、こと? ぽっと赤くなる。
 眞菜実は驚いて、ファイル棚の前ではっと我に返った。
あ――いけないっ!! データの照合をしなければ。頼まれてたのは急ぎだったか。
「眞菜実っ。何ぼーっとしてんのよ。自分の夫の名前で呼ばれて赤くなるなんて、
いい加減にしないとまたからかいの種よ」
友人の寿美枝――科学技官である、に、後ろからファイルでぽん、と肩を叩かれて
やっと、「島」が自分を呼んでいるのだと気付いた。
「島さん」といわれるたびにいまだまだ、ドキッとしてしまう。
島大介の姿を探してしまうのだ。
 「んもぅっ。寿美枝――意地悪ねっ。仕事上は私は多賀航法士であって、島じゃ
ありません」と抗議するも、
「い〜じゃないの。同姓結婚なんでしょ? 愛しのダンナさまの苗字が、いくら此
処じゃ有名でカリスマだからって、いい加減慣れなさいな」
……そんなこと言ったって。の眞菜実なのである。

 川端寿美枝と眞菜実は訓練学校の同期だった。とはいえ2人ともにフルコース組
ではない。2年間の一般訓練を終えたあと、非戦闘員コースを選びさらに選科へ進
んだ。この平和の時代では多くはなかったが、大学の研究コースを取りつつ軍の別
科も併学し続けて、その功績を認められ、航法士としてだけでなく戦艦に乗り込め
る航海士の資格も持っている。寿美枝は科学士官だったが、真田副長官に憧れて
やはり同じような途を辿り、
「平和な世の中に変わった女だな」と言われた仲である。
 卒業後、配属が別れた。地球で最も遠い旅、時には外周艦隊より外へ行く第10
輸送艦隊に希望通り配属された眞菜実と、ブラジリアの科学省本部で数あるライ
バルを押しのけて真田の直属だった向坂の研究室に入った寿美枝。数年の勤務
を経て、眞菜実の転属を機にこの月航路で一緒になったというわけだ。
なぜ、希望通り、地球一といわれるカリスマ航海士で艦長の島大介の艦を降りた
か――それは眞菜実が島を射止め(?)結婚したから。
同じ艦で働くには様々な条件が揃わないと難しかったし、また家庭と地球の家を
守りたいと地球ベースの短期航路を希望した所為もある。
――ほとんど希望のままが通り、しかもやりがいのある仕事を与えられたのは、
島大介の実力ちからといえるだろう。
ちょうど同じ頃、寿美枝も宇宙での実践が必要とこの艦に乗り込んできていた。

 「多賀、多賀航法士。――どこにいる」
「あ、副航海長」
お髭の素敵な同艦の副航海長がデータバンクの2人の処へやってきて、声をか
けた。
「サボってんじゃないぞ、もうじきワープだ。先ほど頼んだ資料、どうだ?」
サボってなんかいませ〜ん、と2人ながらに答えて、
「あとアウトプットするだけですが、データでモバイルに送った方が良いですか?」
少し手を伸ばして上方部にあったパネルを操作する。
「手早いな」「いえ…データの在り処くらいは把握していないと」
するりと言うが、それができる航法士官がどのくらいいるか――。
「さすがだな、それは島のお仕込みかな」副航海長が、おかしそうにそう言うと、
まっ、と言って眞菜実はまた頬を染めた。その様子はかわいらしい――なんと
いってもまだ21歳。花の盛りである。
「副航海長。こっちも揃いましたよ」
寿美枝がもう一方のデータを出し、サンプルをケースに入れたまま手渡した。
「あぁ。助かるよ――ううむ」
両方のデータを見比べる。寿美枝と眞菜実はその上官ごしに顔を見合わせた。
 「よし。とりあえずあと30分後にワープだ」
「ワープ明け地点は」
「――火星の外、仰角60度、方位S2Wの赤緯30という処か」
「了解しました――さっそく調整に入ります」

 こんなシーンがどこかであったな……眞菜実はふと、星の海を見返してそれを思
い出した。初めて島大介に逢ったのも、月軌道外から火星へ向かう小ワープの空
間だったわ…。
 その時、眞菜実は、大失敗をしたのだった。



 
このページの背景は「一実のお城」様です

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