晴天の霹靂

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【晴天の霹靂・前篇】

−−A.D. 2219年、地球。
パラレル・A 拓海くんシリーズ2
SY-お題No.95「ラブシュープリーム」
「絆−父と子」の続きに当たります



(1)

「えぇっ!」
拓海たくみ15歳は、通信機を前に、今年何度目かの大声を上げた。
「おい拓海どうした――」後ろで順番待ちしていた同僚が、「早く回せよ〜」
といいながらも突っ込む。「あ、はい」と返して。
「もー、僕知らない。ともかく、体大事にして。無理しないでね。父さんなかなか帰れないんだから」
 がしゃん、と通信機を切った拓海は、ぼぉっとして心此処にあらず。
 おい、たくみ〜。実家いえで何かあったのかよ〜。えーそりゃ大ニュースだぜ、
なんだなんだ、と取り巻く同期生や先輩たちを押しのけ。
「ええい、うるさいっ。放っておいてくれっ!」
まったく、あの夫婦は。
結婚した途端、いったい何度、俺のこの繊細な神経を脅かしてくれれば気が済むんだっ。
だいたいもとはといえばあの“偉大な”親父様がいけないっ。
あーんな殊勝な顔して、「君とは本当の親子になりたいんだ」なんて下手したでに出てくるから、
油断したら。
ほんっとうに、油断のならないやつだった! 
母さんはもうメロメロだけど、俺までその手に乗ると思ったら大間違いだぞっ。
……ま、そりゃ。少しは。頼りになって、なにかあってもすっごく公正で、
尊敬するかっていわれりゃそらまーその。
……いや! 親父としちゃーダメ! 俺ぁまだ認めちゃいないぞっ。
 だいったい2人ともいい歳して。いったい母さんいくつだと思ってんだよ。
もう37だぜ。丸高もいいとこだってのに――「弟か妹が生まれるかもしれないのぉ」だとぉっ!
母さんだって中央病院の重鎮なんだ。今さら子どもなんかっ!! 俺に子守しろってのか。
じょおっだんじゃないぞー。
だって、子どもが出来たってことは……頭の中には妄想の渦。
もちろん、子どもなんて出来なくたって夫婦なら、あーしてこーして…○×◆△∵◎※
というくらいの知識はあるけどー。あーやだやだ。よりによってあの母さんが、
あんなヤツと。
――そりゃまぁ、いい男だってのは認めるけど。
なんたって。俺たちの商売からすりゃぁ大先輩、訓練学校史に燦然と輝く名だから
な――古代進、ってのは。
 あーまた連中にからかわれるのかー。
親のことでからかわれるのは勘弁してほしいよな。


 「なぁ、お前、兄貴になるんだって?」
昼休み。ほこほこの陽をあびて、少し休憩、をむさぼっていた拓海の処へ、
やって来ました背の高い相棒、山崎ハジメ
「うるせー、ほっとけ」
いったいどこから聞いてくんだよ、そんなこと、というくらい早耳のこいつは、
俺の自称・親友である。まぁ気のいいヤツで、正直もんで優秀、ってとこは気に入ってる
から、俺もそれは認めていて、まぁ親友同士といってもかまわない。
「再婚とはいえ、元ヤマトの伝説――お熱いこったな」と口が悪いのはいただけないが。
「お前――自分の両親そういう風に言われてみろよ、けっこうヤだぜ」
と顔を上げて反撃。
「そーそ。まぁ15年ぶりの再会……しかも第15艦隊大破の悲劇のヒーローってんで
また週刊誌とか大喜び」
玉村つとむまでが現れてまぜっかえす。
「いったいいつの話だよそれもう半年以上前――」

 森拓海の母親、森ユキが古代進と再婚したのは半年前。
拓海がこの宇宙戦士訓練学校に入学して1年目のことだ。
――古代進の伝説、といえばヤマトの名とともに永久に輝く星、である。少なくとも
宇宙戦士を目指す者にとっては。だがそれが、母親の再婚相手として身近に振ってくる
とすれば、またまったく話は別。
再会はドラマチックに作り上げられ、いつの間にか勝手なストーリーが出回った。
拓海もなんだかいろいろな人に付け回されたが、それはすでに全寮制の訓練学校と、
防衛軍の一部になっていた身が守ってくれた。機密保持――という名目である。
 「どうよ。その“偉大な”親父様との生活は」
そういえば。
興味津々、といった目で周りにいる同級生たち。
「イヤー別に、普通だけど」
「普通って、血つながってないだろー。それに相手はあの、ヤマトの古代だしな」
と完全に興味本位だ。……いややっぱりこの連中にしたって、あの人の私生活なんて
知りたいに決まってる。イメージどおりなんだろうか、それとも…なんてね。
「うん〜、普通のおじさん。…てか、歳の離れたお兄さんみたいな感じ。まぁうち、
お袋ともそんな感じだけどさ、俺。――優しいけどね――性格悪い」
「え、どーいう意味だよそれ」
「それだけじゃわかんねーぞ」
「うん……どういうのかな」ここは真面目な拓海くんはフと考えてみた。
言葉を惜しまないでいよう、と努力しているのがわかる。
離れている時間が長い――そして長く離れてしまったからか。思ったことを、わかって
くれと預けるのでなく、なるべく言葉にして理解してもらおうと尽くしているのはよく
わかった。母さんに対しても、俺にも。
だから必然、キザっちい科白が多くなるんだ――これって、きっと艦隊の部下にもそ
うなんだろうな。部下の人たちなんかは「寡黙でコワモテ」と言われてるらしいけど。
けっこうよくしゃべる人だなというのが意外だったんだ。
 「あ、それに。おでん好きだよ」
「おでんー?」
なんともそれが意外だったらしくて。「料理得意だし」
それは1人暮らしが長ければさもあらん。
「いやそういうレベルじゃなくってさ。本当に上手いんだ、今度飯食いに来いよ」
「えぇ本当か?」あ、しまった。と内心は思ったが……まぁ今度寄航した時聞いてみよう。
とまぁなんだかんだ言っても親父自慢の気分がないではない拓海なのである。




 「そういやーそろそろ新入生顔わかってきた?」
「あぁ――そろそろ“挨拶周り”の時期だな」
「今年どうよ」「おもしれーのがいるらしいぜ」
「どこに」「いくらか聞いてるけど」
そういった情報には学生会の役員をしている玉村が強い。
「明日あたり部屋挨拶に来るだろうから、その時教えてやるよ」と言った。



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