善き日々−過ぎゆく時を

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【善き日々−過ぎゆく時を】

−−A.D. 2219年頃、地球。
パラレル・ワールドの古代&ユキ(7)
拓海たくみくんの学生生活
「絆」 「晴天の霹靂」の続き
:お題2006−No.36「三本の枝」より前篇


(1)

 山本秋生はあれから、少しは大人しくしているようだった。
怒鳴り込んできた隣校――北高の生徒会役員は、山崎と玉村が侘びを入れに行っ
て事なきを得たが、相手の生徒会連中がけっこう面白いんだ、など言って、なんだ
か仲良くなってきたらしい。なんでも、生徒会長の武井正信と、副会長の南部勇人
――この2人が“なかなかのヤツ”なんだそうで。…え、南部?
――「あぁ、ご想像の通りだよ。学校史に燦然と輝く元南部砲術長――お前のNew
親父っさんの懐刀といわれた南部康雄の息子だった」
「へぇ…」とはいえ、面識も無いし知り合いでも何でもない。
 「南部さんって参謀職引いたんだろ」その手の話には詳しい玉村務が山崎はじめ
問いかける。そういや山崎こいつも係累の1人なんだよな、と改めて思うけれど、
正史に登場する部分であまり派手な動きをしなかったヤマト最後の機関長の甥に
当たる彼にまでは、“ヤマトの子弟”という重荷は降りかかってこなかったらしい。
その山崎奨は本部の奥深く、次世代エンジン開発室というところに席があり、
技官とはいえ遥か上層部の1人だ。そして南部康雄は、現在、多くの慰留の声を
背に、古代の義父らとともに現在の基礎となっている地球の防衛システムの構築
が目処のたった処で退役し、南部重工業公社を継いでいた。現在は、NAMBUコン
グロマリットの総帥である。

「そんな処のお坊ちゃまが普通校か?」
ごろんと寝床に転がっていた斯道しどうが起き上がって興味なさそうに口を挟んだ。
「そーだな。私立の一流校行ってても不思議無いな」と玉村。
「ありゃ望んでそうしてるってタマさ。何か考えてんだろーよ。
お坊ちゃま学校行くだけが道じゃねぇよ」「まぁな」
「金持ちには金持ちの苦労があるってか」「そーかもね」


 「せーんぱいっ!」
昼休み、いつもの窓辺でうとうとしていると、ありがたくもない男の声が中庭から
駆けて来た。んあ?
寝ぼけ眼を上げると窓にへばりついている顔がある。
「山本くん――」「……あきみ、でいいっすよ」嫣然。
なんか下心でもあんのか? ってくらい愛想のよい笑いを見せると、こいつはやっ
ぱり相当な美少年だった。上から見下ろす俺たちも、男から見てもついかわいーと
か思ってしまう――これで、悪だくみしてんじゃなければ、だけどね。
いつものように机の向かいには山崎が座っており、背後から玉村が覗き込んでいた。
 「いつも――平和そうだね、拓海せんぱい」
 何!? 聞きようによっちゃ皮肉とも取れる。
確かに俺は平和なのが好きだし、暇な昼休みはたいていうとうと…この席が気持ち
いいんだよな、まったく。その分、オベンキョウはこれでもしっかりしてんだよっ。
こちとら君らと違って血統が良いわけじゃないですし、凡人だしな。
ふん、というのが顔に出たかな?
 「仲良いんだなぁ先輩たち。ねーねー、マジ愛人関係とか、じゃないっすよね」
ちょち真面目な顔をして秋生が言う。そ、それってこいつらとか? じょおっだん
じゃねぇっての。俺は母さんのようにしとやかで、優しくて、カワイイ女の子が好
きだっ!! そのわりに、今、彼女っていないけどさ――というのは心の中の声。…
…訓練学校に居て相手探すのなんて大変なんだよっ、みんなが秋生おまえじゃない
んだよ? と言いたい先輩であったりする。
「拓海先輩、明後日の放課後、暇くないです?」
唐突に秋生が言った。気色悪いくらい愛想がいい。
「あん? 明後日」…って土曜か。男とデートして何が楽しい。
 そこへ加藤哲郎が駆けてきた。
「おい、秋。油売ってる場合じゃねーぞ。あいつら、止めねーとさ」
もともと原因、俺らだろって。慌ててやってきて、腕を引っ張る加藤に、「ん、もう。
うるさいな。喧嘩ならやらせときゃいいだろ、どうせあいつらやりたくて僕らに
ちょっかいかけてくんだからさ」
と振り払って、またにっこりと拓海を見上げた。
 この2人こそいっつもツルんでる感じだ。
兄弟のように育ったといっても歳は半年ばかり秋生の方が上という同い歳。むしろ
親友というか、いつ見ても、科は違うくせにほとんど一緒に居る。――まぁ1年の間
は一般教養というか共通科目が多いからね、クラスが同じならそんなに振り分けの
授業はないけれど。
寮も同室――こいつらと相原のわたるの部屋、室長やってるのタイヘンだろーな。
そういうこともあって3年の先輩が2人入っているけど。これも飛行科と航海科の
秀才コンビで、さすがに部屋では3人はあまり悪さもしないらしい。――といって
も、どこにいるのか、2人はほとんど寝に帰るだけ、だそうだが。
 「土曜、って特に予定はないけどさ。土曜授業の日だろ、あまり遠出とかヤだぜ」
先回りする。
「いいじゃないですか。門限までには帰れるようにします」
「何だよいったい」
「お願いがあるんですよ…夜、部屋行きますから、その時に」
 おい、秋。早く来い――哲郎がさかんに声をかけるので。
あぁわかった、行くよ、と顔振り向いて。
「すみませんー、先輩がたっ! ちょっと秋生、こっちで必要なんで。お話中申し
訳ないっす!」――そう言って寄越すだけでも進歩なんだろう。

 「おい、拓海ぃ。どういう風の吹き回しだ、あの山本や加藤とさ」
「あぁ?」数人の同級生があいつらの去っていった方を指差しながら囲む。
入学早々の2人の悪がきぶりはこっちのクラス中に知れていて、学生会が頭を悩ま
せているというのは学年の知られた処だった。
「――付き合いってやつ?」
拓海は多くを語りたくなくて、両手をあげてそう言った。
「まぁ、そういうんで、何か問題起こしたら俺んとこ回ってくるようになってんの」
ため息。
――加藤の小父さんも小母さんも素敵な人だ。あの人たちに頼まれたらイヤって言
えねーし。それに、きっと2人とも親父からいろいろ言われたんだろーな。
あれ以来、礼を失することもない。やればできるじゃんか。ため息をつきながらそう
思う拓海である。――だけどね。いつまで続くやら。

 教科の方では成績はダントツで優秀だというのが前期試験の終わった段階でよく
わかった。一般教養はまぁ普通――もっとできるやつはいたけど、山本は2番だっ
た――専門教科になると、それに実技や体育は2人ともに遥かに他を引き離した成
績を叩き出している。
上位者の成績はどんどん公示されてしまうのが訓練学校ここでは普通なので、
別にそれは極秘事項でも何でもなかった。
「山本ってなぁ頭もいいんだな」「頭良くなきゃ、いろいろできねぇって」
「悪知恵ってやつ?」「そうかも」
「しっかし、おっそろしぃ学年だな」
 それは後期に入って、シミュレーション訓練が始まると、さらに驚きを増すこと
になるのだが、まだ平和な初夏の学校であった。





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