善き日々−三本の枝

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【善き日々−三本の枝】

−−A.D. 2219年頃、地球。
パラレル・ワールドの古代&ユキ(7)
拓海たくみくんの学生生活
これ以前の物語は
「絆」 「晴天の霹靂」でどうぞ

本編は「善き日々−過ぎ行く時を」の続きです

:お題2006−No.36「三本の枝」より後篇


(1)


 波乱の(?)訓練学校祭も終わり、俺たちは4年生――最上級生になった。

 最上級生になると、がぜん演習が増えてくる。ここまでに基礎の単位を取得して
おく、なんてことは当たり前で、そうでないやつぁどんどん落第していくし、落第して
2回それを繰り返したら退学――クビだ。
だけどまぁ基礎しっかりやっておけば、もともとそういうやつばっかの学校のはずだ
からさ。さすがにそんなに辞めていく人間はいなかった。やめたとしたってまだ10代、
転校して高校生になったり専門学校行ったり、いくらでもやり直しはきく。
 俺――森拓海は、予定通り航法科の優等生として、なんとか日々の生活をこなし、
いろいろなライセンスも取って、一応、地上走るのと大気圏飛ぶのと宇宙に出るの
と…なんとなくあらゆる機種の艦やら乗り物やらをこなせるように(理論上は)なって
いて。
あとは。――訓練学校、別名士官学校の役割といえば。
 これで戦闘しなきゃいけないんだよね。
 俺は秋生や哲郎に釣られるような格好で、何故か戦闘機のライセンスまで取得す
るに至っていた。古代の親父はそれを知ると激励メールを送って寄越して、
「島は俺と同じくらい戦闘機コスモゼロを操ったぞ」なんて書いてきた。――あの 親父は超能力
者か。なんでわかるんだよ。
いや、やるからには徹底してやってやる。島さんができたことなら全部。だって、俺の
目標ってば島さんなんだからさ。親父じゃなくって。
同期の山崎はじめは、俺が戦闘機のライセンス取るのを 「歓迎っつか 一緒にオシゴト
できて嬉しいけどなぁー」
「なんか文句あんのか?」と、これは玉村務。
「俺の拓海くんが危ない目に遭うのはなぁ。戦艦で操縦桿握ってるなら俺たち護って
やるのにさ」…とまた危ない発言をしていた。
確かに、ヤツと一緒に飛ぶのは楽しそうだけどな…ついてけるわけねーだろっての。

 さて春の一大イベントといえば、“合同訓練”というのがある。
上級生の中で選ばれた100名ほど――つまり4年生はほぼ全員、3年生から幾ら
か――が練習訓練用の艦に乗って、実際に戦艦生活をする中で演習を行ない、また
授業もするというものだ。
毎年必ずあるというわけじゃないのだが、今年は行なわれる予定で、なんと――その
艦長兼責任者が。


「おい拓海。――『あかつき』の今回の艦長、親父さんだってな」
わざわざ昼休みに俺の机の処に寄ってきて、つついていったのは同期で同じ専攻の
谷。余計なお世話だ、放っておいてくれ、俺は顔上げて片目だけで挨拶するとまた、
突っ伏した。
「拓海ちゃんはご機嫌斜めだとよ」
専攻が変わっても、昼休みが存在するような日は必ず拓海のところへやってきて暇
つぶししている飛行機科訓練生・山崎源が、隣の机に腰掛けたまま谷をみやってそ
う言った。その隣には砲術科のくせにやってくる玉村務。幾ら昼間が別になった
(専科の授業ばっかになったってこと)からって、そんなツルんで来なくったって
寮に帰りゃ同室なんだけどなぁ。
――だから拓海くんは愛人持ち、なんて言われちゃうんだよ。
「いいじゃねーか。親父の艦だからどうだ、なんて言ってるわけじゃないんだぜ、俺」
ちぇっという顔をしながら、俺は親交を深めにきただけだ。そんなに邪険にしなく
ても、という谷である。
――艦長じゃねーよ、顧問だ。
ぼそりと拓海はつぶやくように言った。へ? と問い返す3人。
「艦長ってわけじゃなくて。艦長は立てて、よこでごちゃごちゃ言う係。お目付け
役ってのか教官に専念するっていうのか――そういうんだってさ」
顔を上げて、皆の勘違いを訂正してやる。
「古代艦長の指揮で仕事できるなんて、幸せだな、と思ってたんだけどね」と玉村。
「――お前それ。入隊して1航海終わってから言えたら尊敬してやる」
拓海は、古代進の息子としてのキャリアはまだ1年経つか経たないか、ではあったが、
“その仲間や親友、部下たち”とは生まれた時からの付き合いだ。今はそれでも年齢が
進んでずいぶん穏やかになったと言われるが、20代でヤマトに乗っていた頃は、そりゃ
凄かったらしい。それでも、今でも1航海目は皆、目を回すというから。現在は禁止
されるに至った“16時間連続訓練”、受けた人間多いんだよね、俺の周り。
 航海士だろうが通信士だろうが、戦闘員非戦闘員関係なく行なわれる訓練の激烈さ
は、一緒に長距離航海に出た者にしかわからないんだろう。
だけど、どうなんだろう。
――同じ艦に乗艦して、その指揮ぶりを拝見したいと思っていたのは、実は拓海も同じ
だったりもしたのだ。
 「模範演技、くらいやってくれるかもよ」と山崎が言えば
「そーだな。よほど艦長が頼りなければ、だけど?」
「艦長、だれだ」「教官せんせいたちの誰かだろ?」
「――本職、呼んでこないのか?」皆、気になるだけに姦しい。
「う〜ん、その年によるみたいだけど」情報通の玉村がそう言った。
ともあれ、これが決まると、担当部署の発表や内容が知らされるまで皆、なんとなく
ざわざわとした気分になる。実戦配備で、年齢もキャリアも関係ない上に、卒業生が
参加することも多いため、学校での訓練のようなわけにはいかない。
 「シミュと違って、“失敗したら赤字が出ておしまい”ってわけにはいかねーしな」
「そりゃそうだわ。一貫の終わりとはいかないけど」
――何か事故があると、教官たちの責任になる。もちろんその期全員の連帯責任も。
「ともかく、チームが発表になったら、よろしくだぜ」
「そうだな」
いずれにせよ、古代の親父が艦橋に乗っかってることは確かだ。
――とはいえ俺が第一航海士をゲットできるかどうかもわかんないけどね、まだ。




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