陽は輝く… −departure−

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【陽は輝く… −departure−】

−−A.D. 2221年頃、地球/パラレル・ワールドA
加藤哲郎てつお篇・2
これ以前の物語は 「絆」 「晴天の霹靂」
「善き日々−過ぎ行く時を」 でどうぞ


(1)


 配属が決まり、辞令が下りる。
秋生が行ってしまってから、やはりなにかどこかがもがれたようで、それぞれ自立
しているつもりだったのに、俺って相当あいつに頼ってたんだなと思う加藤哲郎で
ある。
 繰上げ卒業――だから同い歳で、同じようなキャリアだというのに、1年差が
ついてしまう――そんなのもちょっと冗談じゃないぞ気分ではあるが。
いいさ、どこかで取り返してやる……そんな風にも思い、やっぱり戦闘機を選べば
よかったかな、とつながりの切れたような今だからこそそんな気分にもなって、親
たちや秋生と違い、大砲撃ちの道なんか選んでしまったのは、もしかしたら子ど
もっぽい反発だったのかもしれないとすら思うようになっていた。
 だが俺は、シューティングが好きだ。体動かしてなんぼ、の小型の銃器から、戦
艦1隻やっつけちまえるような大きな武器エモノまで。また、自動装填で連続して
広域をフォローする大きなものから、一対一で対峙すべくスナイパーの仕事も。
これが一番自分に向いているような気もして……その、1対1の。相手と自分が
対峙できるものが。
存在を殺し、待って、相手に迫り、一発百中で対象を撃ち抜くことが。
その精神的なストイックさと超絶の技術が必要とされる専門性が。
 だけどそれは戦争――こんな宇宙時代の、戦艦や惑星戦では現実的ではない。
俺は古代さんみたいに、戦闘機にも乗れ、ファイターとして白兵戦もこなすことの
できる戦闘指揮官を目指すのだと――いつの間にか周りからも期待され、自分もそ
れに応えようとしてきた。それもまた、嫌いじゃないと思う。
秋生みたいに素直な男じゃないけどな――。

 そして新人の訓練研修の最中、プレアデスが寄航した。




 新人同士は基本的に皆同期だから、あちこちから集まってまたあちこちに配属され
ていく連中は数か月また数週間の研修期間でもけっこう仲良くなる。
本部の事務系の研修は3週間。それを終えていよいよ配属先の前に最終研修だ、と
いう日、食堂に溜まっていた俺たちの処へスラリとしたあいつが現れた。
ふっと空気が変わったように思う――俺の気の所為せいだって皆言うけれど。
俺にはわかるさ……現に、音を立てたわけでもなく、気配を殺すことだって一人前
以上のあいつが入ってきた途端、俺は振り向いたからだ。
(秋――)
 目に入ったのは、防衛軍の宇宙空軍パイロットの制服を着け、相変わらずクール
な表情でまっすぐこっちへ歩み寄ろうとしていたヤツの姿だった。
俺は声が出なくて。
すっと右手をこめかみの横に上げ敬礼する姿が決まっていて、俺の目線に気づいた
同期の連中も注目する中、近寄ってきた秋生に、俺は思わず抱きついていた。

「秋――お前っ……」
言葉にならなかった。
 そんな俺の背をやつはぽんぽん、と軽く叩いて、一瞬抱くと、
「相変わらずだな、哲」
とそう言って穏やかに笑う。
俺は、恥ずかしい話だが、涙が浮かんでいることも知っていたし、情けない顔をし
ていたと思う。
「お前――泣くなよ、皆の前でみっともないぞ?」
俺ははっと気づいて、今さらながら、だがきりっと敬礼をした。
「山本准尉? ――お久しぶりであります」
と言ってみたが、それはぷふっと吹き出された。
「そこまできっちりやんなくていいよ」そう言って笑い、そして傍らに俺たちを見
つつテーブルについている仲間たちをさっと見ると、もう一度視線を返した。

 「元気そうだな――配属、おめでとう」
「あぁ……お前も活躍してんだろ」
「どうかな……だがまぁ、艦隊勤務だ。なんとかやってるよ」
 姿を見ればこの1年の差は大きいと思う。外宇宙を回遊する外周艦隊。その戦闘
機隊は宮本暁を隊長として抱く古代進司令の艦だ。副官は古河大地。
その中でがんばっているんだと風の噂に聞いていた――逢うのはほぼ、1年ぶり。
 秋――秋生。
そうして俺は、こいつにどれだけ会いたいと思い、共にありたいと思っていたかに
気づいてしまったんだ。…だが。いつまでも子どもじゃない。再会したからって、
一緒にいられるわけはない。また出発し、またそれぞれがそれぞれの場所で、厳しい
戦いを日々しなくてはならないのは、当たり前のことだった。





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