新月の館annex 【パラレルAの世界】>サーシャ-澪編>KY百題-No.40「おじさま」より


air icon 目覚めて、地上で。
・・・おじさま・・・


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【おじさま−−目覚めて、地上で。】


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 おじさま?
 好き。――ねぇ、どうして? 叔父様はサーシャが嫌い?
 お願い……私はこの星の方がいい。地球人じゃない私には、此処の方がいいの。
 叔父様。ススム――少しでも私を好きなら、追ってこないで。



 そうせつと訴えた黄金きんの髪の少女。
 俺は受け入れてやるべきだったのだろうか?


 正直に言おう。……惹かれていたのだ。彼女ゆきと出会って以来、初めて。
 禁忌と知り、だが唯一の血のつながった女性おんな――その愛しさを、 誰に説明できよう?
 大切だった兄さん。その忘れ形見。総てが始まったあの声を持つ女神、
 かの星の自愛の女神との忘れ形見――黄金の髪の少女が、この腕の中に居た。


 だが、今はもういい。
 俺は道を戻ることはしまい――奇跡が置き、そうして命は回天した。
 そうして、その奇跡を起こしたのは……若く熱い魂と、柔らかな、 未来を信じる心だったのだから。



古代進&森雪百題 No.40「おじさま」
−−パラレル・ワールドA/A.D.2205年頃、地球にて
= 1 =



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 まぶしい光が目に降り注いだような気がして、彼女はゆっくり目を開けた。 まだどこか苦しいような気がして、空気の感じと、手足の重さが馴染まない気分だ。
 (ここは、どこ?――)
 懇々と眠り続けたあと、私はどこへ行ったのだったろう?
 幼い頃から見守ってくれた腕の中に身を投げかけて、ほっとして。笑った目に、 涙でいっぱいの男の人の顔が飛び込んだ。……あぁ、しろ兄ちゃん? 四郎くん? ヘンよ、 また泣いてる。あは。……そう思ったあと、意識が無くなった。


 「……シャ。サーシャ……澪ちゃん。目が、覚めたのかい?」
 輪郭と声がぼんやりとわかってきて、その続きのような顔が目の前に現れると、 真田澪=サーシャは目を覚ました。意識が急に戻ってくる。あら? 私。どうしたの?
 気を失うまで見ていた心配そうな顔が、そのまんま目の前にある。
 あ、あら。でもちょっと違うわね――少し柔らかく笑ってる。しろ兄ちゃん、泣いてないし。 ……そう思った途端、くすくすと笑いが漏れて、澪は今度こそはっきりと目を覚ました。
 「だ、大丈夫か? 頭、、、」
 目を覚ました途端に笑ったのがいけなかったのか、加藤四郎はそういうとなお一層心配そうな顔になって、 澪の額に手を当てた。大きな手――見かけよりずっと大きくて、がっちししていて。 それで肉厚で、指が長いの――知ってるんだから。
 なんだかちょっと頭があったかくなって、安心して、また目を閉じた。
 あ、あら? それで、私。ここは、どこ?
 かぱ、と起き上がろうとしてズキ、とどこかが反応し、びくりとしてそのまま固まった。
「あ、澪ちゃん。まだ急に動いちゃいけないよ――すぐに看護師さんが来るからね」
加藤四郎は慌てて携帯電話を取り出すと、落っことしそうになりながら
「はい、はい――目が覚めました。はい。元気そうです…はい、あ。すみません、 またご報告しますので。は」
そう言って慌てて胸ポケットにカード式の携帯を押し込もうとしたが。
 「こぉら、加藤くん。此処は病棟よ!? そんなものは禁止、って子どもでも知ってるでしょ?  報告ならいくらでもこちらからするから――ね」
「は、はいっ。申しわけありません、慌ててて……ですがあの方がもう、本当に」
「わかっているわよ――真田さん……貴女のお義理とう様はもう、本当に心配して心配して ……科学局が仕事にならないくらいだってのは有名ですからね」
その声の方に驚いて目を向けると、そこには白衣の天使――看護師姿の、本当に美しい女性が立っていた。
「……澪さん。目が覚めたのね? もう、大丈夫よ。でも急に動いたりして無理してはいけないわ」
――誰? この人。
 だがサーシャ=真田澪にはすでに彼女が誰かはわかっていたのだ。
「森……ユキさん? 進叔父様の……」
「まぁ。光栄ね――初めまして。森、ユキです」
その途端、サーシャ――いやここではしばらくの間、真田澪と呼ぼう。澪はそのまままたくったりとベッドに伏してしまった。 疲れた――と思うような気がして。


 ゆるり、と空気が和らぐ気がした。
ふんわりとした匂いが鼻のあたりをかすめて閉じた目に心地よい。 シーツを掛けなおしてくれた手。そうして気配はふいと遠のくとカーテンを引く音がして明かりが遮られ、ほっとした空気で和む。
 「ゆっくりおやすみなさい――澪さん。……もう大丈夫よ」
最後のは傍で固まっていた加藤四郎へ向けられた言葉かもしれず、その、美しく心地よい声に、 ふうとまた気が緩みながらも、なんだか涙が出そうな気分がしたサーシャである。
(――ユキさん。叔父様の……ススムの、婚約者フィアンセ…)


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 あはは、と明るい笑い声がして、サーシャは自分の大好きな人たちに囲まれて笑っていた。 数日後のことである。
「いやぁ、本当にすぐに来たかったんだがな――なにやかやと、な」
サーシャは照れるように笑いながらもホッとした表情を崩さない義父=真田志郎を、 少し困ったような笑顔で見つめていた。
「どうしたの? 澪ちゃん。僕ら、うるさすぎるかな……」
加藤四郎が心配そうに声をかけるのも、ううん、と無理にでも笑おうとした。 ……しろ兄ちゃん、お義父さま。そうして、いつも優しく看護をしてくれるキレイなユキさん。
 でも――。
 「あぁ古代はな」真田がふと気づいたように言った。「まだ、家に帰ることもできんでな。 亡くなった部下たちも多いから――その、なんだな」
こくりとサーシャは頷いた。
「いろいろ、後始末も、あるのね?」
あぁ、と真田は言い、包み込むような表情で彼女をまた見た。
「――引け次第、此処に寄る、と言っていた。心配するな、古代は元気だぞ」
「そう……」その横顔に、四郎の胸がツクんと痛んだ。 サーシャの胸の裡に複雑なものがあるのを知っているのは、加藤四郎だけである。
 「――古代くんなら、本当に貴女を心配していますよ。一日に何度も、 連絡してきて様子を聞いてくるんですから。早く逢いたくて元気な顔を見たいのよね」
(――それだけなのかしら? 一日に何度も連絡してくるのは……)
婚約者なのだから当然、連絡くらい取っていても当たり前だ。ううん、それだけじゃなくて…。
 「そういえばユキ。あれから逢ってるのか? 古代とは」
真田のお義父さまがふっとユキさんを見てそう言い、 忙しく点滴の袋を動かしていたユキさんの白い手が止まって頬が少し上気した。
「え? え、えぇ……古代くんも忙しいですから」
 サーシャはヤマトが地上に降りた時、真っ先に古代が下ろされ、 英雄の丘で待つユキの許へ走っていったことは知らなかった。 別れ別れで戦い続けなければならなかった恋人同士。 一刻も早く逢わせてやりたいという幹部乗組員たちの心と――今回ばかりは、 それをありがたく受け取った古代。幸か不幸か、意識を失ったままポッドに入れられ、 安静を保ちながら搬送されたサーシャの知らないことだったのだ。


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 命が助かっただけでありがたい――古代進はそう思った。
 もはやこれ以上、肉親を失い、大切な者たちを失うのは勘弁してほしかった。
ユキが地上に落とされた時、すべては終わったと一瞬は思い、それを乗り越えて戦おうとした時に、 心のどこかが抜け落ちたと思ったのだ。
 兄・守が死んだ――いや。正確には“死”ではないとしても、仲間たちも、前の戦いでは多くが失われ、 戻って来なかったのだ。
 澪が――サーシャが。可愛い姪が、自分を慕ってくれる血のつながった女が、 地球のためであろうがヤマトが生き残るためであろうが、失われずに済んだことは本当に感謝した。


 「おじさまっ!!」
 古代が病室へ入った時、サーシャがいち早く察して声を発し、 その声に真田と加藤四郎が入り口を振り返った。ユキがするりと座を外し、 軽く会釈して部屋を出ていった。 ふわりと傍を通った時に、彼女の匂いがして、一瞬、古代はそれを目で追ったが、 ユキは振り返ることなく廊下へ出ていった。――気を利かせたに違いなかった。
 サーシャの声とともにそのぱぁっと輝くような笑顔は、彼女の金の髪を揺らし、 暗い病室に光を撒いたようだった。加藤四郎はそれをまぶしいと感じ、 サーシャの表情にまた胸をツクんと刺すものがあったように思った。
 そうして古代進は、失われずに手の中に残った僅かの愛しい者――ただ一人の血のつながった姪と、 再会したのである。
 自分の腕の中で嬉しそうに笑う姪が、深い憂いを秘めていることに気づかないまま。


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この作品は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の同人創作ものです。

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