air icon 目覚めて、地上で。
・・・おじさま・・・


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 真田澪=古代サーシャは退院し、古代進の家に引き取られることになった。


 ヤマト修復まで本部勤務の古代は、東京メガロポリスの外れの士官官舎に住んでいる。 湘南地方の基地に勤める加藤四郎とはなかなか会えないね〜と澪は言い、 ブラジリアに自宅のある真田はもちろん遠いが、彼は基地近くにセカンドハウスを持っていた上、 基地内に泊り込むことも多い(研究室ともいう)ので、さほど遠くなるわけではない。
 しばらくは地球の環境になじむため、というのもあり、コーディネーターがつく予定だったが、 それは古代が断った。自分で面倒をみるから、というのだ。
「しばらく2人で暮らしたいんですよ。地球に慣れるためにも、俺たちがお互いに慣れるためにも、です」
笑顔でそう言う古代だったが、澪はそれを喜び、回りは複雑な想いでそれを受け容れた。


 言葉どおり、“ヤマトの修復”を口実に、古代は本部勤務を希望し、さらには、 溜まり溜まった休暇をさんざ利用して週に数日しか出勤しなかった。 あとは自宅でサーシャとの日々を送るのに費やしている――という噂だ。
 2人はめったに人前に姿を現さなかった。
 古代自身にもあったのだ――あのコダイマモルであった者の姿と、その実の娘。 哀れであり、また怒りと哀しみと、なんともいえない感情が自分の中に渦巻き、それも 整理しなければならなかった……サーシャ。君は俺が守る。……誰の手にも、渡すものか。


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 「叔父様ぁ〜〜♪ ススムっ! 朝よぉ、起きてっ♪」
古代の寝室に、ハートマークが付きそうな声を上げて入ってくると、シーツをばさりと剥ぎとり、 その家の主を起こした。声音とは裏腹に、けっこう乱暴な所作である。
 「ぶふっ。――朝、か? お、おはよ…」
ぱちぱちとまばたきをして、サッと引かれたカーテンの窓越しの光に目をしばたかせる。 外が見えるわけではないがベランダのように区切られた小さな一角は、壁越しに外の光が入ってくるのだ。 ビルの中層階にあるこの古代の官舎は、さすがに佐官用で、わりあい贅沢なつくりである。


 ぱふぱふとあたりを動き回って支度をし、嬉しそうに飛び回る金の髪の姪を見て、 古代はぼさぼさの髪をくしゃくしゃと手でかき回しながらため息をついた。
 「あの、なぁ……サーシャ」
「え? なぁに、ススム♪」
動作を止めて、顔を向ける。古代が話しかけてくるのが嬉しくて仕方ないのだ。
「その、な」
「え?」邪気の無い顔。
 「……その、“ススム”ってのはやめろ。俺は仮にも君の“叔父”だぞ?」
まったく。ユキにだってそんな風には呼ばせてないってのに。
「え? だめ? ……あらぁ。じゃぁ、“ススムさん”の方がいいかしら?」
 それでも、はい、と差し出された“目覚めの珈琲を”受け取り、一口飲むもブッと吹き出した。
――いや、その“ススムさん”を聞いたからだけではない。
「……さ、サーシャ」「なぁ・に?♪」
 「この珈琲、どうやって淹れたんだ?」
「あ、あら……どうって…普通に。粉をよそって、フィルター越して…教わった通りよ」
 「飲んでみたら?」
カップを差し出す。はぁい、と受け取って飲んでみると。
「??? 普通に、美味しいけど……」
古代はあちゃ、と頭に手をやった。――嗜好品は、こりゃ味覚から鍛えないとダメだ。
 「それにな」と古代。
 いちおう、俺だって若い男なんだぞ。いくら叔父でも、つつしみとかたしなみってもんがあるだろう。 男の寝室に入ってくるんじゃ、ないっ! め、と腕を腰に当てて睨んでみたが、 サーシャはきょとんとするだけで、その金の髪を微かに揺らした。
「あ、あら……だめ、なの? どうして?」
「どうしてでも、だめだ」
困ったような顔を見て、古代も言葉に詰まった。
 「――君のお義父様に習わなかったのか? 普通、地球の男女は、そういうことしないの。 サーシャだってもう良い歳をした娘なんだから……え、と。いくら生まれてからまだ2年経たないといっても、 地球推定年齢で17とかだろう? 気をつけなきゃいけないよ」
サーシャは上目遣いに古代を見上げた。
「……おじ様でも、だめ?」
古代は首を振る。
「ダメだ」


 みるみる涙が沸きあがってそれは両の瞳にきれいな真珠のように形を作った。
 「おと……うさまは。いつでも一緒にいてくださったわ。夜、一緒に眠ることもあったし。 私が寂しくて泣いていると、いつでも部屋に来ていいよ、と仰ったし…」
もちろん仕事場に入るのは厳しく禁じられていたが、とサーシャは内心付け加えたが。
 「そ、それは……だって君は」
その頃は赤ん坊だったり幼児だったりしただろう、と古代は言いたかったが、言葉が出ず、 ただぐしゃぐしゃと自分の頭をかいた。


 朝食の用意をしておいたわというので、無理して頑張り過ぎなくていい、と古代は言い、 着替えてリビングへ行った。
「いいかい。君がもう少し地球の生活に慣れたら俺と一緒に通勤することになるんだからな。 家のことは無理して自分でぜんぶやろうなんて思わなくていい。俺だって一人でずっとやってきたんだから、 半分半分だよ」
そんな風に言いながらリビングに行くと、、、、なんだこれは。
 テーブルの上を見て呆然としている古代に、サーシャは上目遣いにこう言った。
「あ、あら……やっぱり、なんだか、うまくいかなかった、かしら?」
困った顔になるのに、古代はくっくと笑った。
焦げた原型を留めない魚らしきもの、おにぎりらしきもの、、、ほか。
 ご飯を炊いて朝から調理したのか? まったく張り切りすぎだ、無理しなくていいんだから。 古代はそれでもサーシャの懸命さが微笑ましく、おいで、と言ってイスに座らせると、 その腕を取り、頭をよしよしと撫でた。
「サーシャ。本当に、無理しなくていいんだ。一緒に、いろいろ学んでいこう、な」
はい、と頷くサーシャである。
 (やっぱり……銃の扱いかたとか戦闘機の飛ばし方とか。対術の訓練やオペレーションなら、 なんとでもなるんだけどなぁ。……機械の設計とかも面白かったし。でも、普通の人が普通に暮らすのって、 本当に難しいのね)
小首をかしげて熟考するサーシャ。
 古代が見つめているのを見ると、内心でドキドキしながら、その動悸が聞こえなければいいと思い――でも。 叔父様、あの時“告白”したつもりだったんだけど、わかっているのかしら? そうも思って、 少し悲しくもなったサーシャである。


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この作品は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の同人創作ものです。

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