air icon 目覚めて、地上で。
・・・おじさま・・・


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xmas tree


= 4 =

 (ススム叔父様には、ユキさんがいる――)
美しく、優しい。キリッとしていて仕事も出来、患者さんにも慕われているし、ドクターにも信頼されている。 ……あれで戦闘時には、男の人と同じくらい勇ましく戦ってきたのだ、というから、驚くべき女性である。
(そうよ――ヤマトの人たちだって、みんな。そう……)
それは、デザリウムとの戦いの時に心底よくわかった。
 ユキさんへの皆の信頼とか、深い気持ちとか。
 私じゃ代わりなんか出来ない、凄い人なんだって――。


 でも。
 私は叔父様が好き。――私に残された、ただ一人のひと



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 今日は少し遅くなるからな、と言い置いて、古代進は出かけていった。
自分が此処に来てから古代は出勤もあまりしていない。名目は“機密事項(=サーシャのこと)のため”ということだったが、 有給休暇消化で事足りる。だいたいにおいて古代は働きすぎだったのだ (ヤマトの幹部乗組員全員にいえることではあったが)。
 だがたまには顔を出さないわけにはいかず、本部のライン勤務ではないにせよ古代にも、 部署もあれば部下も上司も居るのである。――この事態がどのくらい続けられるのかはわからないが、 週に1〜2度は出頭する必要があった。
 そんな時、古代は心なしかうきうきとしているようにも見える。
(考えすぎ、かしら――)
サーシャの鋭い勘は、その向こうにあるものを推察する。
婚約者であるはずの森ユキが、官舎じたくを全く訪れる様子もないのも妙だった。
来ても入れてあげるとは限らないけど、とサーシャはココロの中で思う。
 (どうやって、ユキさんから叔父様をこちらに向かせるか、だわよね…)
幼いながらも真剣に考えてみるサーシャである。
――考えれば考えるほど、“無理”と理性は言うが、感情はついていかない。 自分と2人のときはあれだけ優しいススムである。自分のために、ほかのこともすべて断って、 ほとんど毎日のように傍に居てくれる。……そのススムが、自分よりほかの女の人を好きだなんて…… 俄かには信じられないサーシャなのだ。


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 「ユキっ!」
「古代くんっ」
午後の陽を浴びて、本部の裏手にある遊歩道で、2人は久しぶりに顔を合わせた。
 ユキは秘書を務めながらも現在は中央病院での勤務の方が多忙だったし、 古代はそのようなわけでほとんど出頭していない。互いに逢いたくてたまらなかったものの、 サーシャが同居するようになってからはユキが古代の自宅に来るわけにもいかず、 離れて戦った時間を埋めたくともそうもいかない。心は結ばれているとはいえ、 埋めたい時間や想いは深かった。
 木々の陰が人目を遮り、2人は引かれるように近寄ると深く抱き合った。
 互いの首と腰に手を回し頬を撫で、そうしてゆっくりと唇を交わす。


 「ユキ……ゆき。元気だったか?」
ようやく腕を解いて古代がゆきの顔を見る。その笑顔を見るたびに、 森ユキはどれだけこの相手に自分が惹かれているか自覚するのだった。
「――古代、くん…」
古代の瞳が笑み崩れて、もう一度、ちゅ、と軽いキスを唇の横に呉れた。
 「――元気そうだ。少し細くなった気もするけどね」と、手を動かしてみせて、
「まぁっ」とユキは頬を染めた。


 「サーシャちゃんは、元気なの?」
「あぁ。元気元気。毎日なんだか楽しそうに、いろいろ失敗してるよ」
敷地の外へ向かうだらりとした坂道を下りながら、くふくふと古代は笑う。 だがその眉間には皺が刻まれていた。
 「――そのこと、なんだがなぁ……」「えぇ」
「いつまでもこのまま、っていうわけにはいかない――だろ?」
「そうね…」


 古代はサーシャの“告白”を覚えていた。
実父を亡くしたという衝撃が後押ししたとしても、真田から聞いていた自分へのイメージの増幅だったとしても。 若い娘が陥りがちな錯覚からくる擬似恋愛だとしても――である。
 ユキにしばらく連絡や訪ねてきてくれることを遠慮してもらったのもそのためだし (、とはいえユキはユキであまりの多忙に、“仕事帰りに訪問する”などというのはこの時期、 とても無理ではあったが――夜になれば逢えたが、それこそ現状では“無理な注文”だった) 少し冷却期間を置けば、現実にも目覚めるだろう、と考えていたのだ。
 だが。
(どうも、逆効果な気も……するなぁ)
ううむ。と立ち止まってしまった古代をユキは怪訝な顔で覗き込んだ。
 「ねぇ……あの。こだい、くん?」
「あ、あぁ……そうだったな。今日は久しぶりに食事でもしようって午後、半休が取れたんだ。 あんまりゆっくりできないのは辛いけど」
「えぇ…」
 弾けるような笑顔――ユキのこの表情を見ると、自分がどれだけこの女性おんな を求めているか古代は自覚する。それは、姪で、血が繋がった、愛しい娘――サーシャに向ける想いとはまた、 まったく別の感情であり慟哭である。
 「ユキ……」
横を歩いていた女の手首をぐい、とつかみ引き寄せると、古代はまたぐっと彼女を腕の中に抱え込んだ。
「こだいくん…」
 「ユキ――もう、離さない。君が、大切だ…」「こだいくん…」
二人の影は、午後の日の中、そうしてしばらく動かなかった。




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