YAMATO'−Shingetsu World:Parallel-Aの世界



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・・出立の日、義父ちちと・・


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「古代進と森雪の百題・No.74」
【初めての…】
(chapter−14 counter No.83)


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 コンコン、と軽いノックの音がし、
「たくみ。……拓海、入っていいか?」
と柔らかい口調の声に、「あぁ。どうぞ」と答えて 森拓海 は、手に持って眺めていた フォトフレームをパタンと机上に伏した。
 「――あぁ、何かやってたのか? ん?」
相変わらず柔らかな口調はこのひとの特徴で、心地よい空気に包まれる。 ふとその視線が手許に行ったのに気づいた拓海は、少し照れたように笑うと、
「隠すことでもないから…」
そう言って、伏せたそれをまた起こして義父――古代進 に開いて見せた。


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 「……お父さんと、お母さんだな」
向かいのベッドに腰掛けてそれを見た古代は、優しく瞳を綻ばせる。
あぁ。と答える息子も、こだわりがあるわけではない。
「――初めて、見たな。生まれたばかり?」
「うん。……初のお節句なんだって。古い習慣覚えてるよね、俺の親たち」……って いっても親の記憶なんか、無いけど。
 そうも言って、えへ、と笑う顔は、初めて古代が対面した3年前となんら変わること はないというのに。
 専科へ入り、上級へ上がり――日に日に逞しくなって。どちらかというとのんびり としていて本当に軍人なんぞ向くのかと思っていた拓海は、その本来の資質なのか、 大らかさはそのままにしたたかに、強く逞しくなって目の前に居る。“古代の息子”が プレッシャーになったとは思わない。それは、拓海自身が選んだ道であり、その仲間 たちや優れた師に育てられ、身内の欲目無しに一級の戦士――総合航海士官としてど この艦隊に送り出しても自慢ができるというものだ。


 「親って言ってもさ。……顔なんか全然覚えてないし。……父親は、少し。ほんの、 少しなんとなく、って思うこともあるんだ。でも森の母さんの声で、 『たくみ、たくみ――泣かないで』っていうのに、父さんの声がかぶるって程度で…」
 その手に抱かれた記憶も、温かい何の想い出も無い。父親は乗っていた戦艦が被爆し、 急性宇宙放射線病で、森ユキの目の前で死亡した。母親は宇宙戦士で、その1年前に 戦死している――そうして孤児になる前に、この子には森ユキという母親が出来ていた。 そうして今も、その母の許にいるのだ。
 「――とうさんの親御さんも、早くに亡くなったんでしょ?」
前に聞いた話だ――いやそうでなくとも、宇宙戦士で艦隊司令・古代進のプロフィー ルなど、誰でも知っている。13歳、中学生の頃。遊星爆弾の直撃に遭った関東日本の 三浦半島A村――その最初の被害者となった古代一家、そして親戚や幼馴染、近所の 人々、クラスメート。古代進は、兄以外の係累を、その一撃で一切失っているという ことを。
 「俺は……でもな。次男坊で、甘えっこだったからな。父の想い出も、母の想い出も あるよ、たくさんたくさん、な。それに、兄が居た――尊敬すべき、父でもあり母で もあり、俺の前に居て、ヤマトまでを導いてくれた人でもある」
「……父さん」
 その兄・古代守も、星間戦争の露と消えた。……そういえば、澪さんて、姪御さん なのに、どうして父さんと一緒に住まなかったんだろう??? その澪さんも今は、 加藤四郎さんと幸せに暮らしているけど。


 もう一度写真に2人して目を落とす。
 背の高い、穏やかな表情の男性が、小柄だがスラリとした、だがどことなくがっち りした体格の女性を後ろから庇うように立っている。女性は着ぐるみにくるまれた赤 ん坊を抱いていて、2人ともがとても幸せそうに笑っていた。――それが、手許に残 された唯一の写真。母のユキが大切に取っておいてくれたもの。1歳になるかならな いかの拓海……当時は広瀬拓海と、広瀬ゆたか美奈みな一家である。
――そういえば、ユキは、「広瀬」姓は名乗らなかったようだな。
――うん。一度は籍は入れたみたいだけど。僕の方が養子みたいな格好になったんだ。 あとから考えるとその方がいろいろ都合がよかったからみたいだけど。
 くすりとまた笑って、拓海は古代を見上げる。
 その表情は、14歳の頃と変わらないにしても、顔立ちは青年期の変化を得て、引き 締まり、彼の個性を表し始めている。


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 目を細めてその義理の息子を眺める古代の表情は、愛情に溢れていた。
 「どうしたの? 義父とうさん。何か急用だった?」
ふと思い出して拓海が問う。
「いや――もう入隊だな、と思って、な。……この家はいつでも君の家だし、いつで も帰ってこれる場所なんだから、とか言いたかったわけだ」
古代は少し照れたように、そう言って、拓海を見た。
 拓海の母・森ユキと古代進が再婚してこの家に住むようになった時、拓海はすでに 訓練学校に入学して寮生活を始めていた。だから実質の3年間、休みに戻る以外は、 時折、週末に帰ってくるだけで、実際にここで生活した期間は何か月も無い。
 「だけど不思議だね――」
「ん? なにが」
 古代さん、最初に言ったでしょう? 君が帰ってこれる家――家庭を作りたいんだ、 って。その通りになったよ。
 拓海は明日、入隊し、そのまま外周艦隊への配属が決まっている。短い研修期間の 間は本部や基地での仕事で、すぐに宇宙戦艦に乗るわけではないが、その後は元の古 代がそうであったように、地球を離れ、此処への帰港はそれこそ年に数度あれば多い 方だろう。
 だがそれを拓海は望んだのだ――僕は。宇宙の彼方へ飛ぶふねに 乗る。そうして、古代さんや母さんたち、島さんたちが作った航路を、意味あるものに したいんだ、と。


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