地球連邦図書館 宇宙の果て分室>第6回BOOKFAIR バレンタイン/如月の訪ない
 島&テレサ in the パラレル・E

butterfly iconこの想いが届くなら

・・St.Valentine Day on the Earth, 2203/Parallel world・E・・



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 テレサが生気を取り戻したのはふとしたきっかけだった。
「え? 文字?」
「……はい」
こくりと頷いたテレサは、相変わらず無表情だったが、目に光があるような気がして、 ユキはそれに感謝した。
 「――地球には文字があるそうですが。私も覚えた方がよいような気がします」
迂闊だったなとユキは思う。もともと強力なテレパスである彼女テレサには、 識字能力は必要なかった。思考は念写でき、電脳に乗ってくるものは、 エネルギーとして脳に直接取り込むことができたからだ。
 「――私の能力ちから。ほとんど消えてしまっていますでしょう?」
小首をかしげて訊ねる様子は、質問でもなく主張でもなく。ただ事実だった。
「えぇ……貴女のために。良かったと思っているの」
それはユキの本音である。


 島を再生させ、ガトランティスと戦いを収め、さらには四散しかけた意思を、 中空からエネルギーとして取り込んで自身を再生させるのに10か月――なのだという。 時間の感覚や時空の存在そのものが違ったというが、通常空間で人間ひと として再生した彼女には、その時の記憶や感触は残っていない。
それはもう何度も確認されたことだった。
 「不思議、な――気がします」
テレサはそう言ってユキを見た。


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 簡単な文字の本と、書きかたを教え、子ども用のおもちゃのようなものを渡してみたが、 テレサはそれを喜び、無邪気に相対した。書いては消し、消しては書く。 鉛筆状のペンシルの持ち方もおぼつかないが、それはそれで楽しいらしかった。
 しかしやはりPCや電脳の方が相性が良いようである。――PCに向かいキーボードを叩く、 という動作はすぐに覚えてしまい、また電脳をつなぐと独特の感触でそこに没入していく。
 ただ、そちらは疲れが大きいのですぐにはできないにせよ――電子や電気のエネルギーは、 まだ何らかの影響を脳波に与えるとテレサは言った。


 「覗き込むとおかしな気分になりますね」
そう言うと画面から目を離してユキを見た。
「もう少し、いろいろ見せていただいてもいいですか?」
 そうして、害にならず軍や宇宙に関係がなく、 彼女が興味を持ちそうな地球の話題などをユキが選んでいて――チョコレートに当たったのである。


 不思議そうに訊ねるテレサに
「“バレンタイン”という時期なの。だからチョコレートが氾濫している」
どの店の先にもまるでニュースのようにそのものがアイコンされ、PRされていた。


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 ユキは翌日、チョコレートを買ってテレサに持って行った。 食事は通常のものに切り替えられていたため、多少の嗜好品も食べるようになっていたのだ。 味覚は若干地球人と違うようだが、テレザートで出された供応物の資料を許に、 真田や斎藤の知恵を借りて分析も済んでいる。 ――地球人の食べ物でテレサに毒や害になるものは無いらしい。


 「不思議な…味。ですね?」
プチ・チョコを口に入れてしばらく真面目に溶かしてみながら、テレサは言った。
「美味しい?」
ユキは務めて柔らかい口調で訊ねる。彼女自身も大好きで、 軍OLたちの人気でもあるブランドのチョコだった。
「はい。とっても」
にっこりとテレサは笑い、それはもしかしてユキが、彼女テレサ が地上へ戻って初めて見た笑顔だったかもしれなかった。
 「そ、それはよかったわ――」ユキは涙ぐみそうになった。「本当に、チョコって美味しいわよね。 女の子は皆、大好きだし――そうそう。だから、もうじき『バレンタイン・デー』なの」


 女の子が男の子にチョコレートを上げる日。
 日ごろの感謝を。少しの親しさを。友情の印に。憧れの先輩へ。
――そうして、本当は、恋の告白をするために。


 「本気の、特別。――ですか?」
にっこりとユキは微笑んだ。
「貴女、想いを伝えたいかたがあるんじゃなくって?」
「しま、さん……」
隠そうとか照れるとかいう発想はテレサには無い。 ――その感情がどういうものであれ、最も強い感情を彼女が向けているのは島大介である。 それは誰もが知っていた。
 「でも。島さんは、どうなのでしょうか――」
少しずついろいろなことがわかるにつけ、知能の高いテレサの脳には様々な情報からの解析も浮かぶ。 ――自分にはもう、何も残っていない。再生したことそのものが島への想いの強さの証であったが、 島はどうだろうか。あの時は、極限状況――現在は、そう。 地球人の、普通の表現で言えば、『日常』だ――。


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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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