この作品は、2008年、「第三艦橋」様の開設4周年のお祝いにお送りした(送りつけた?)作品です。
おかげさまでキレイに掲載していただきましたが、最近、お姿をお見かけしませんので、こちらから強引に
アクセスに行ってみる道を作ってみることにしました。
“新月world”的には、「パラレルE」ということになります。テレサが生還し、デザリウム戦直後のお話です。

air icon ある3月の出来事

・・The White Day in the Earth, 2203・・
= プロローグ=

 その現象が現れた時、相原義一が当番に当たっていたというのは、僥倖ぎょうこうだったというべきなのだろう。 気づいて、対応できた――それは当人たち、微かに息づいていた生命線をつなぎとめるのに、 辛うじて間に合ったというだけのことだったのだから。


宇宙空間は、ひどく希薄な物質が満ちるだけの空間だ。
 その“希薄”さは、ほとんど“何も無い”と同義なほど。地球を含めた惑星上での、大気やその他の物質と比べれば、 ひどく……ぽっかりと。何も、無い。
その、「無」のはずの空間に突然、微かな光があった。
 その空間に染み出すようにふわりと浮き出、だんだんにぼんやりと、まるで陽炎のように。 そしてそれは徐々にヒトの形を成す。くるりと空中に丸まったまま、 まるで幼子のように膝を抱きかかえた姿で――いやまるで、母親の胎内にあるかのごとく、まるまったまま、 長い髪もひどく掠れた印象のまま。
 その様子を誰かが見たわけではない。地球人が――いやその時、宇宙観測艇の艦橋にいた相原通信士が、 微弱な、地球上のあらゆるハイパー通信とは異なるシステムの通信を傍受しなければ、 それは気づかれぬまま打ち捨てられたかもしれなかったからだ。


 「副長! ……こ、これは…」
(相原義一はこの小さな船では副長を兼任していた)。
「……」
インカムを被りなおすと、彼は真剣な面持ちでレンジを合わせはじめた。
(! ま、まさか…)。
 聞き覚えのあるパルス。電波とも、ハイパー通信波とも、精神波とも違う。……聞き覚えのある、俺たちの運命すら変えてしまった、 あの、パルスに。…似ている。
 その通信エネルギーを取り込みながら、
「連絡っ! 地上の、防衛軍本部の――特務室。ホットラインを開けっ」背後を振り返りもせず、指示を飛ばした。
――藤堂長官に。そこに続く直通ラインを。古代守参謀に。
「艇長っ! 近付きます」「相原っ、何を…」
「一刻を争うかもしれません。地球の指示があり次第、動けるように…」
彼が強硬な発言をすることは珍しかった。
そして、驚くべき事実が発覚し――彼らは。地球人は、間に合ったのだ。
彼らを救った女神――テレサが、生還するのを、迎えることに。




space clip




= 1 =

 バタバタと通路を駆ける音がした。
「お静かにっ! ここは、病院ですよっ!!」
 看護師が、咎めるように通り過ぎようとした男たちに声をかけた。
「それにそちらはっ!」
 「す、すみません」1人が律儀に立ち止まり侘びを言った。「申し訳ありませんが、特別室は、どこですか」
「貴方は……」
険しい顔をして見返す師長らしき女性の背後にはすっと立つ銃を持った警備兵が2人。
 「――地球防衛軍、内惑星第8輸送艦隊所属、島大介と申します」
彼は胸ポケットから身分証を出し、提示した。
「許可はいただいています、収容した患者は、どちらですか」
 「そちらは?」「同本部特務セクション中央通信室室長、相原義一」
看護師がジロりと見る間に、警備兵の1人がどこかへ連絡を入れたのだろう。頷いて「こちらだ」と通してくれた。


  「おう、来たか…」
佐渡酒造が、待っていた。ガラス張りの部屋には入れないのかもしれなかった。
「本当、なんですか。……彼女が、無事で。此処に…」
動揺を抑えようと努力しているのはわかるが、島の顔は蒼白で、表面に見えるほど冷静ではないことがわかる。 本人の救出に立ち会い、すでにその経過の全てを知っている相原ですら、実際に面会するのは初めてで、 「今日は会えると聞いてきたんですが」と佐渡に言った。
 「もうじき、ユキも来る。その頃には目覚めるじゃろう―― 一時いちどきに長い時間は無理じゃが、 とりあえず、会えると思う。今日は、な」
佐渡は深い想いの篭った目で、島大介を見た。唇を震わせながらも、微かに頷く島である。


star icon


瞼の白さが目に、痛い。
長い睫が震えるように揺れて、その女性はゆっくりと目を開いた。
(?)
ゆっくりと目を開け、まだ焦点が合わないそれを動かすと、ひた、とその目を島に向けた。
「しま、さん……? わたし…」
 微かながらも、あの頃、宇宙空間で聞いていた“声(VOICE)”ではない。生身の、人の声。 わずかに唇が動いて、震える声がそこから漏れた。
「テレサ――」
島はかたわらの椅子に座ると、その手を取った。
ゆっくりと見詰め合う2人である。
「……蘇ったんだね、生きていて……よかった」
声が震え、言葉にならなかった。
 「わ、た……し? 此処は?」
「――地球だよ。地球の、ヤマトの所属している軍病院。見つけたのは、ヤマトの仲間だ」
「そう、ですか…」
ほぉというように息を吐いて、また、大義そうに目を閉じる。
島の手を指で軽く掴みながら、その感触だけを頼りにするかのように。
「――生きて……いたのですね」
ガトランティスが光の中に閉じ、四散したイメージがある。
真っ白な光。ズォーダーの強烈な意思の、飛散と崩壊。帝国の瓦解。
皆、確かに意識で捉えた――そして私は。飛ばされた意識と共に、島さんを捉えた。
時空を――おそらく。禁忌を、超えて。それは、三度みたび
「テレサ? ――眠ったのか」
柔らかく島の声がした。  [続きを読む…]



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