地球連邦図書館 宇宙の果て分室
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valentineThe Valentine's Day

・・勇気・・


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【Valentine Day 〜勇気】
:三日月御題 2005-No.25「勇気」

= 1 =



 相原義一通信主任参謀は、最近、悩んでいた。


 「どうしたんっすか、元気ないっすねぇ」
からかうように声をかけるのは、部下で同僚の徳川太助。本来なら機関部員兼 月基地の要員だが、たまたま地上勤務で本部なかに居る。
 仕事のことなら、ここで顔に出すほどメゲるわけはない。これでも、部屋を一つ任される 身だ。もともと素直な性質――内面が顔に出る――とはいえ、業務上必要とあれば いくらでもポーカーフェイスも厳しい顔もできる。
 「あぁ――お嬢さんのことでしょう」
といきなり合点がいったように、彼は言った。
 言い当てられてしまった方も、なかなか情けない気分であった。


 バレンタイン・デーが近づくと、そわそわするのは自分のことだったのは、もう遥か昔。 娘がいればその動向が気になるのは、親父としては当たり前のことではある。何だか いそいそとチョコレートらしきものをキッチンで、母親と一緒に作っているのを見れば、
「それ、僕の分もあるのかなぁ」
とさりげなく聞いたところで
「父さんにはいつもあるでしょ、楽しみに待っててね」という言葉でいなされた。
くすりと笑う妻の横顔に
「義理チョコじゃイヤだな」と言ってみたところで
「貴方は、私からのだけではだめですか」と真面目に言われても。
「あら、心配しなくても父さんと兄さんの分はあるわよ」と返された。
 お前なんかに貰わなくても、の兄と弟である。2人は2人ながらによくモテる。
 特に兄のわたる*は――古代さんとこの守くん**と 友人やっている相乗効果もあるのか、晶子に似た容姿のせいか、元来の優しさのせいか。 ともかく、親から見ても悔しいくらいモテるので。


choko clip


 それで、今年の「本命チョコ」は誰宛だったんだい?
 とその一連の大騒ぎイベント――職場でも自宅でも子どもたちの学校でも――が終焉したあと。
その夜にでも妻に尋ねてみれば。
 「それがね…」と妻は困った顔をして。
「絶対に、言ってくれないんですの」
 おや。加藤んちの大輔だいすけくんじゃなかったのか、と疑ってはみたものの。
南部んちの勇人はやとくんかな?
 同級生の3人は、エレメンタリー時代から仲が良い。
 大輔はちょっと甘えっ子で、あの両親の息子にしては優しい子だと思っていた。 だから女の子には人気があるみたいだったが――おおかたの予想を裏切って宇宙戦士 訓練校に入ってからは頑張っているみたいだな。雰囲気もすっかり変わり、なかなか男気が あって。親父に似てきた。
 「僕は、勇人くんの方がいいと思うんだけどな――」
「あら、貴方が決めることじゃありませんわ――それに」
それは、加藤くんが宇宙戦士志願だからでしょう? ……ご自分もそうで、息子がその道を 選んだ時も反対しなかったくせに、娘には苦労かけたくない、というわけですか、と言い当てられて。
 でもまだ学生ですわよ。恋愛も、遊びみたいなものかもしれませんわよ、と妻は言うのだ。
 だがね。
 古代さんがユキと逢った時、2人は18歳だった。
僕が君と逢った時だって、君はまだ17だっただろう?
祐子だってもう16だ。




 相原祐子が古代進に惚れていることを、知らないのは親と兄だけだった。


 それでまた呼び出されている幼馴染の身にもなれよ。
加藤大輔は、本日何度目かのため息をついた。
 教練のスケジュールは厳しいし、外出も制限されている。何かといえば臨時訓練もあるし 勉強だって大変なんだぞ、と、ぶつぶつ。
 専科に振り分けられる時期に来て、希望通りに行ったものの、最初が肝心。ここで抜きん 出なければ加藤大輔の名が泣くぜ、と思っている本人である。
――それにしても重い名前。苗字も、名も、だ。


 「大輔ぇ〜そんなこと言わないで教えてよ」
と。祐子が言う。
「お前、俺の立場、わかってんのかよ」
 一般を取得し、専科に分かれる年になってくれば、そろそろ宇宙戦士らしくなってくる。逢うたび 印象の変わる幼馴染に、もはや「祐子ちゃ〜ん」と同級生に泣かされて庇ってやった甘えっ子の 面影はない。
 体つきも男っぽくなってきたし、何より毎日のように訓練で鍛えられ始めた彼らと、ハードに続け られる様々な学問に。まずは目が違っていた。
高校の同級生の子たちがどうしても軟弱に思われて、そこに気持ちを向ける気にはなれない祐子である。
――それに彼女には、それなりの目標も、目的も、あったから。
ましてや、私の好きな人は……。


 「ねぇ…なんとか古代艦長さんと会えないの?」
「ムチャ言うなよ……」と大輔は、めり込む気分。
「いくら子どもの頃、可愛がってもらったからっていってもさ。此処へ入ったらまるで雲の上の人よ、 あの人は。訓練生と、艦隊総司令だぜ――ピラミッドのてっぺんと底辺くらい、違うの。だから、 自分でやんなさいって」と、言う。
 ユキさんに言えば、いつでも逢える。…だが。目的が目的なので、そんなわけにいかないのは さすがの大輔にも理解できていて。
 それにもう一方。確かに母親−−常に古代と行動を共にしている防衛軍士官である佐々に 頼めば、すぐに何とかなるかもしれない。だからといって、それには理由を説明しなければなら ず――ただでさえ忙しくて地上に居る時間の少ない古代さんの、家族と過ごす時間を取り上げる お願いなど、こちらからできるわけはない。
 でも……。
 と珍しく真剣にうつむいて、思いつめた表情の幼馴染なのである。
こいつ、こんな乙女らしい表情かおもするんだな、と驚いてしまって。
やっぱり祐子には弱い大輔なのだ。


 「なんとか……逢えるだけはやってみるけど。多少秘密がバレても、許せよ」
うん、仕方ないね、と祐子は言った。私は、本気なんだから、と。
「だが、承知しておけ――古代さんには、大切な女性ひとがいる。知ってるな」
それは誰でも知っている。もちろん、祐子だって。
「えぇ、もちろん――だから、話すだけ」
「なら、善し」




 加藤大輔から「13日17時30分、防衛軍近くのカフェ『トゥルテ』」という連絡が入ったのは それから数日後のことだった。
「さすがに14日というわけにはいかないからな、それで勘弁してくれ」
なんだかんだ言いながらも、防衛軍の中枢に居て機密に囲まれている人間に、こうやって簡単に コンタクトが取れてしまうのだから、大輔もそれなりに凄いといわれても仕方ない。――父の四郎 が月勤務が長く、母子家庭のように育ったことや、大輔の名が古代の親友・島から貰ったものだ ということ。そして母・佐々葉子と古代の業務上の親しさから、大輔にとって、進は“もう一人の父” とも呼べる存在ではある。
 だからこそ、訓練校へ入ってからは、むしろ遠のいていたのだが――古代の実子・聖樹のこと もあるのだから。それでも……。
 冥王星から海王星へのラインでつかまえた――これは彼らの個人的関係とは関係なく、大輔が 自身で扱える情報網だ。地球寄航前に押さえておけばスケジュールは空けてもらえる。私信は できないが、帰宅より先につかまえたのだ。


 大輔の方からコンタクトを取ることはめったになかった。が、連絡をすれば喜んで応じてくれる 古代でもある。その程度には、身近で特別な人間なのだ。
 「条件があってな――」
と大輔は祐子に言う。
「なんでも」
「悪いが、俺も立ち会いだ」
「えぇ?」とさすがに祐子はちょっと困った。
「理由を俺が言うわけにはいかないだろう――しばらくしたら席を外すから、それで勘弁してくれ」
 「大輔…」「いいだろ?」と優しい声音で。
なんだかんだいっても人が良いのか、それとも祐子には弱いのか。
「ありがとう――恩に着るわ」
「あぁ。デート1回で許してやるよ」
「まぁ。私は貴方のGFたちに夜道で襲われるのはイヤですからね」
……これが冗談にならない程度に本当(つまり、大輔もそれなりにモテる)のは、大輔自身にも自覚が あるようだった。相原祐子にとっても、加藤大輔はやはり特別な1人である。
そうしてもちろん、大輔にとって祐子は……たとえ今、互いに自覚がなくとも。




 久しぶりだなと店に入ってきたその人は、やはり人が集まるところではつい注目を集めてしまう 存在。軍服さえ着ていなければ目立たないのだが、仕事帰り、しかも庁舎の近くではそうも いかない。華やかで、独特のオーラを放つ古代進。
 だが防衛軍近くのこのカフェにしたのは、ある意味正解で、そのような風情の、多くの人々が 店内には居た。
 仕事の打ち合わせらしいビジネススーツと向かいの席に軍の制服を来た組み合わせや、 制服とワンピースの男女、仲間同士の待ち合わせや、そのほか…。かえって目立たないと いえばそうなのだろうと僕らは顔を見合わせる。
 「元気だったか?」
 僕と、祐子ちゃんを等分に見比べながら、古代さんは向かいの席に座った。
 壁を背にして、店内を見通せる場所を、そして遮蔽物――それは観葉植物だったのだ けれど――で直接顔が見られないように、とリクエストされていた通りに席を取った僕は、 その緊張の続く毎日を想像し、そこに共に居る自分たちがこれから切り出そうとする話題を 考えれば、申し訳ないような気もした。――酷いのは地上にいる時だけさ、といつも彼は 笑うけれども――


 「がんばっているようだな」
と、僕に向けた古代さんの顔は、厳しいながらも明るい目。航法科へ首席で通った。 そのことを言っているのか、先日の演習で、先輩たちを凌駕して僕と聖樹の組が勝ったこと を知っているのか――それとも、日頃の努力を想像してくれているのか。
……おそらく、どれもだろう。訓練校でのあれこれは、この人には筒抜けだから。
多くの教官が、この人の配下にあって、まるで神様のように彼を尊敬している。
「はい……名前を汚すわけにはいきません」
別にそのためにそうしているわけではないけれど。
ごく自分の自然な生きかたが、たまたま一致していただけだ。無理もしていない。だけれど、 口を次いで出たのはそんな言葉。
 「……あぁ。がんばれよ、期待している」
と本当に、静かな反応だったけれども、目の奥が本当に嬉しそうに輝いたのを見て、体が 熱くなるような思いを持った。


 こんな人だから――確かに。女だったら惚れても仕方ないかもしれない。男だって惚れる んだから…意味は違うけど。たとえ、愛する妻も子もいて。古代さんがそれ自身の命よりも、 ユキさんを愛していることを、誰もが知っていたとしても。


 「どうした? ん? お前から呼び出すのは珍しいな」と古代さんが言う。
「あ、気を遣うことはないからな。こうやって出て来れる時は時間があるんだから」
意外に気配りの人の古代さん。
 こんな処も好かれる所以なんだ。
「祐子ちゃんが用があるんだって? ユキに言って家で待っててくれた方がゆっくりできた んじゃないのか?」
 ところがそういうわけにはいかないんです古代さん。
 ――古代さんはそう言って、どのような用件か推し量ろうとしているのだ。
彼女が話しやすいように。もしかしたら……察していたのかもしれなかった。


 「父にはお会いになりました?」
目を上げて最初に彼女が言ったのは、そんな科白。
「あぁ。次の航海は一緒だからな。さっき報告に行ってきたところだ」と、言った。
そうか――久しぶりに相原−古代コンビなのか。もしかして大きな作戦なのかな?
 そう、ですか、とまた目を伏せてしまって。
 ん? と覗き込む目に。僕は祐子ちゃんをつついた。
機会はそんなにないぞ、という意味。
決心したように目を上げて――何かを言おうとした時に、古代さんが遮った。
「……ここじゃ言いにくい話か」
と少し真剣な目。かすかに祐子ちゃんが頷く気配。
 さっと席札を取って立ち上がり、IDカードを照らし支払いを済ませたかと思うと、
店の人に目顔で合図し、外へ向かう。
「あの、僕は席を外します」と言うと、少し考えて
 「……45分後。表の書店で」と言われた。
はいと言って、祐子ちゃんの目顔の挨拶に目線を返して、僕はその場を立ち去った。


 店を出た横に、細い路地があって。庭園と思われたその小ぶりの庭のレンガ沿いの 壁に沿って別棟があるのを、僕らも知らなかったし、多くの出入りする人も知らないの ではないだろうか。通りからもそれは巧妙に隠されていて、隠されていることがわからない ため警戒もされない作りである。
 さすがに軍の近くに店を構えるだけあって、不思議な店だった。


 僕は一人、表通りへ向かった。





(注)*兄・航(わたる)=相原家の長男。この時、訓練学校卒業直後で研修中の
   航海士官見習い
   **古代さんとこの守くん=古代進&ユキの長男・守。この時点で訓練学校卒業
   2年め、上級校へ進み傍ら実践経験を積みながら配属を待つ戦闘士官の卵



 
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