地球連邦図書館 宇宙の果て分室>第6回BOOKFAIR Valentineは星の果てにも

air icon 甘くすっぱい宇宙そらほし

・・The Valentine Day inn the Colony, 2207・・

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 古代艦が寄航すると、拠点は一気に華やかになる。
 古代進自身のイメージの所為もあるが、その隊員たちの秀麗で軍人として洗練された立ち居振る舞いは、 他艦隊と一線を画す……と(噂では)言われている。艦隊というのは業務内容や派遣先、 艦長や隊員たちの規律・性質などによって色濃い個性を持っているのだ。 第7外周艦隊がその最年少司令・古代進のイメージを帯びるのは仕方ないだろう。 中にはいろいろ、いろいろな者もいるのではあるが。
 隊員たちが下船すると、手の空いてる者は野次馬よろしく群がり、 声をかける宇宙帰りの男たちに目線を送ったり手を振って迎える者もいる。 もちろん親しい者たちもいた。


 佐々や古河はその一群にこそ加わらなかったものの、 基地機動隊に居ない間はもともとはこの艦隊所属の2人である。 下船してくる面々は知己だらけだったりもするので、出迎えに宙港へ行っていた。
 「おう、佐々――古河。元気そうだな」
「おー、お2人さん。しばらくやっかいになるぜ」
「まだ此処にいたのか? 早く戻ってこいよ」
「飲みに行こうぜ」……様々に声を掛け合い、束の間の下船を楽しむ隊員たち。
 その後ろから艦長・古代進が降り立つと、ざわめきはピークに達し、さらには彼がすいと立つと一瞬、 静寂が覆った。……その程度にはカリスマでもある。
 すいと片手を挙げ、2人を見つけた古代である。目線が合い、それが緩む。
 古河は無表情のまま、ぴ、と敬礼をし、佐々は大きく手を振った。


 「それにしてもなんだな。こんな時期に基地にいると、タイヘンだよ、お前」
佐々がくすくすと笑いながら古代と並んで歩き、古代も「…まぁな」と答えた。 自分がそれ・・で不機嫌になっていたことなど見せない。 後ろからついて歩きながら吹き出しそうになって、佐々に睨まれた古河である。
 「ん? 何か?」解せない表情の古代。
「いや、なんでもないさ。司令がお待ちだ、こっちだよ――」
佐々に案内されて、奥へ歩み入る古代だ。


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 「ということでな。ダンナさまは無事着いたぞ。おめでとう、ユキ」
自室の通信パネルから、昼間の不機嫌は忘れたように地球へ通信を送っている佐々葉子である。 パネルの向こうには親友殿の姿。
『……えぇ。先ほど到着の連絡があったわ』
「相変わらずイイ男だな、古代は。基地の女連中が皆、目、ハートにして出迎えてた」
少しいじめたい気分になってそんなレポートを。ユキの頬が画面の中で少しぴくり、 としたような気がする。
「――ま、バレンタインを此処で過ごすことだしな。浮気のスキなぞないように、 よっく・・・見張っといてやるから安心しなよ」
ニヤ二ヤとからかう口調になるのは仕方ない。 ユキは少しおめかししており、このあと古代とLove Loveな通信を交わすつもりであるのは明白だったからだ (艦隊で航行中は私信は許されないため、基地に到着したときが僅かなランデブーの時間なのだ)。
『葉子っ!』
頬を染めて怒るユキはなかなかかわいらしく、葉子でなくともからかいたくなるというものである。
『……う、浮気なんてっ。いいのよ、好きにしなさいっていつも言ってるわよ』
心にもない科白。ぷふ、と葉子は吹き出し、
「ユキって古代のことになると妙にかわいいのな」
と自分も楽しげな表情になった。
 ところで。と言うユキである。
『――今年は50、確かに発注したわよ。おそらく明日の朝には着くと思う』
「……毎回、済まないね」
『あらいいのよ』余裕を取り戻し、取り繕うという風情の森ユキ。
『……それにしても。毎回少しずつ増えてるのは、貴女も人気ありってことで、喜ばしい限りだわ』
「なにが、だよ…」途端にがっくりした声になる佐々。「面倒なだけじゃないか」
『そんなこと言わないのよ。日ごろの感謝と――それに、女として魅力的だってことじゃない?  誇ってもいいわ』
「ただの義理チョコだ」
『――だから。だめよ、そういうこと言っては』
ユキはこうなると途端にお姉さんぶるところが可笑しい。
 『そういえば、今年は加藤くんは……またイオなの?』
イオ基地での大騒ぎはユキの耳にも届いて、さんざんからかわれた2人である。 二度と繰り返したいとは思わないが…。
「そっちの方が詳しいんじゃないか? 地球にいるだろ」
『あ、あらそうね』昨日逢った処だった。どこへ出発なのかまではチェックしてなかったユキである。 地球で待機――珍しいこともあるものだわ。それでザワついてるのね、本部は。
『――大丈夫よ。こっちもよっく見張っといてあげるから』
ふん、と葉子は少し顔を赤くして画面の中の親友を睨んだ。
「い、いいよ。……そのまま何もなければ休みだそうだから……明後日には、会えるし」
最後は小さな声になって、少し照れたのを知られたくないと思ったが、 そんなことを見逃す森ユキでもない。
 『あら。それは楽しみね――まぁ此処から其処までそんなに遠くないものね。 せいぜい甘えて過ごしなさいな。じゃ、ね』
 ぷちん、と音を立てるようにして画面は切れ、なんだよ、あの女。葉子はちょっと照れたまま、 そこに取り残されたのだった。


 バレンタインデーを翌々日に控えて、この宇宙時代。相手のいる恋人同士も、 成す術もないこともたくさんあるのだ。


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