地球連邦図書館 宇宙の果て分室>第6回BOOKFAIR Valentineは星の果てにも

air icon 甘くすっぱい宇宙そらほし

・・The Valentine Day inn the Colony, 2207・・

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 翌日のひる前のこと。
 突然、エマージェンシーが基地中に鳴り響いた。
バレンタインを翌日に控えて、特に大きな演習も行事も無くほんわかとしていた基地内は、 突然、騒然とした雰囲気に包まれた。
 ヘルメットをつかみ、「何があった!?」と出撃準備をして佐々に駆け寄った古河に、 いいや、と首を振る上官。
『佐々大尉――すぐに中央管制へ来てくれ』
「了解」
顔を見合す古河と佐々。
「行って来る」そうして顔を上げて部屋の部下たちに示唆する。
「指示入れる。出撃・緊急体制にて各人、待機」
そう言うと、部屋を飛び出し、基地中央部へ向け走った。


 (オカシイ――なにかあれば通達が先のはずだ)
一瞬の遅れが命取りの軍隊。先に指示、そうして説明、さらに準備しながらの理由通達。 エマージェンシーならその順だ。呼び出しの暇があるのなら、そもそもエマージェンシーではない。 ……ウチじゃないのか? どこかの基地か? それとも……地球か!?


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 「佐々。来たわね――」
直属の上官が示すパネルを見て、佐々は一瞬、顔色が引くのがわかった。
「――ちょ、直接この基地は、出撃無し、ですか」
咄嗟につくろって事務的な口調で返す。うなずく上官も難しい表情である。
「また、金星とはね」
狙われすぎだ、と彼女は思う。2年前の悪夢のような時間。あの事件は思い出したくない。 ふと思いつき愕然とする。
「ま、まさか……」佐々の意図が汲めたのだろう、彼女は頷き言った。
「――その通り。近郊守備隊機動隊、第三部隊が先ほど発進した。 ちょうど地球へ帰還していたところだった……これも2年前と同じ、か。嬉しくない符号だな。 隊長は、加藤四郎」当然だ、と佐々は思った。


 金星のプラントが狙われ、エネルギー基地が未曾有の危機に晒された2年前の悪夢は、 まだ記憶に新しい。その時は、大車輪で活躍した艦載機隊/機動隊と、 現地駐在の技官たちの活躍で難を逃れたが、 案外の守備の脆さと現在の地球圏の欠点をさらけ出す結果になった。
 死なばもろとも――の様相もあるため、めったな者が手を出すことはないが、 異星からの攻撃には弱いし、地球圏がどうなってもよい、 など考える独立コロニーが発生すれば話は別だ。今回はいったい!?


 古代進が急ぎ足で部屋に現れ、近づいてきた。
「たいへんなことになったな」
「古代艦長――」上官――シン・ソナはそう言うと、「寄航時に慌しいことになった。 場合により休暇は取り消しいただくことになるかもしれん」
と古代に向け、彼も頷く。
「あぁ――すぐに乗組員は招集しておく。先ほど長官から連絡が入った」
 この基地に寄航しているとはいっても、古代の管轄は防衛軍本部である。 基地から示唆されて動くことはあり得ない。


 「古代艦長――」
佐々が声をかけると、古代の目がふ、と緩んだ。
「……安心しろ。加藤たちなら俺たちが援護するから。大丈夫だ」「古代…」
 此処から地球を挟んで対蹠点にある金星は、管轄外である。 佐々たちの機動隊は出撃が叶わない。ここで指示を待つしかないのである。
「古代、頼む」珍しく気弱を表情に出した(古代に見せただけだが)佐々に、 肩にぽんと手を置いて励ますようにした古代だった。


 刻々と様子がパネルに表示され、金星空域に先方隊が取り付いたと表示される。
 「――ソナ大尉」
「あぁ、佐々。お前は私と交代で此処に詰めて、地球からの情報を逐一チェックする。 隊の者たちが出撃することはないと思う。第二級戦闘配置にて、解散してよい」
「了解しました――あの」
「何か?」
「部下たちに事情を話してもよろしいでしょうか」
一瞬、大尉は躊躇した。次に古代と顔を見合わせ、頷く。
「…あぁ。いいだろう。あまり広範囲にしないように。判断は、任せる」
ソナ大尉の頭にも、古河以下数名。前回の金星作戦に関わったメンバーの顔が浮かんだに違いなかった。
 このコロニーの部隊は艦載機隊の精鋭拠点でもある。場合により、 古代の艦隊に搭載されて出撃するのもイレギュラーだがあってもよいかもしれなかった。


 「出撃準備に入る」
古代が身を翻し、佐々とソナは敬礼でそれに応えた。
「――古河の小隊、連れて行くか?」
「私も……」佐々がつい口に出したがそれには大尉が首を振った。
「佐々は残れ。古河の小隊6名、許可する。佐々から指示せよ」
「了解」
 佐々は古代と共に、一端、部屋を辞した。


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 事情を知った古河は自分の隊と何人かを選ぶ権限を与えられ、全権委任されて古代の指揮下に入った。
「――任せとけ。加藤は助けるから……前もそうだったろ?」
柔らかい表情で安心させるように佐々に言うのを、佐々は見上げてこくりと頷く。
「お前は此処で安心して見てりゃいい」
「あぁ……頼む。古代、古河――」
古代はタラップから頷いて手をかざした。


 戦艦アクエリアスは急遽、指揮下の2隻だけを伴い発進することになった。
ペガサスとイサス。 乗員も搭乗しない者はこの基地で待機し、艦のメンテナンスと資材の補給を続ける。
「留守中、頼むぞ」
副官の眞南がうなずき、請合ってみせた。


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 そうして古代たちは連続ワープで目的宙域に達した。



 
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