小さな城−辺境の小矮星ほし

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【小さな城−辺境の小矮星ほし

−−A.D.2218年頃
:お題2005−No.13「小さな城」




=Prologue =

 (どこ……ママ? どこにいるの)
怖くて、体が動かなくて、闇の中、目を開けてあたりを見回した。
(どこ? ……ねぇママ、怖いよ)
暗いわけではなかったと思う。目を覚まし、突然、1人だということが身に沁
みた時、声を出すのも怖くて大声で叫ぶこともできず。
ただ暗闇で目を開けて怯えていた。
涙が出てくるけど、ベッドから下り、動くのも怖くって……。隣の部屋に寝て
いるはずの母親の気配がない。
(どこ、行っちゃったの――)
勇気を振り絞って、布団から滑り降りると、床にとんと足をつけた。
そろりそろりとベッドから机伝いに壁に触って、小さな部屋の入り口から顔を
出す。
連絡通路は暗く、やはりその部屋には人の気配がなかった。
 「ママ……どこ?」
ついに声が出た。
その声は暗闇に吸い込まれるように消えて、心細さはより増した。
ま、ま……ついに、そこに座り込み、泣き出すと、体の震えも止まらなかった。
10分近く――驚いた母親が駆けつけて抱きしめ、ほお擦りしながら冷えた体
をあっためてくれるまで。
 だがそうして心細い想いをしたあとは、温かい母親の腕にくるまれて、大輔
は幸せだった。
(ママ――お母さん。どこにも行かないで。ここは、暗くて、冷たいんだ)
 どうしたの? 怖かったのね――もう大丈夫よ。ごめんなさいね、ちょっと
呼ばれてあっちのお部屋に行ってたから。
――怖くないのよ…宇宙の明かりは優しいでしょう?
ほら。


 加藤大輔ははっと目を覚ますと、枕もとの明かりをつけ、ベッドに腰を起こ
した。
(なんとまぁ。ガキの頃の夢なんか見ちゃったなぁ)
くすりと笑い、しんとした夜の空気を回り中に感じる。
(参ったな。俺、もしかしてガキの頃と同じように寂しいんだろうか?)

その時包まれた温かさと、ふいと抱き上げられた感触を覚えている。
抱えられてそのまま通路に出た。
大輔の部屋の前はさすがにそうではなかったが、続きの母親の部屋の先は壁
がカットされ外が見える場所があった。彼は寂しくなるとよく星の海を眺めて
いたんだそうで、胸に抱えたまま彼女はその位置まで移動した。
「見える? 地球はきれいでしょう?――」
青い地球が宇宙そらの一部分を覆い、その美しさは比類がなかった。
暗い空もきれいだったけれど――それを眺めている母親の横顔はもっときれい
だったような気がする。摺り寄せてくれる頬の滑らかさが、大輔にとって母の
記憶だったのかもしれない――それが今では。
あ〜んな厳しい親、いないぜ、とか思ってしまうのだが。

大輔はするりとベッドを抜け出すと、上着を羽織って通路に出た。
腕の時計を見ると――初夜直か。まだ夜半直にならない(午後11時ごろ)。
(母さん――当直だっけな)
あと1時間くらいは戻ってこないだろう。
――目の前には建設中のコロニーの荒涼とした景色が広がっていたが、その
向こうに、大きく緑色に光る惑星ほしの姿がある。
その惑星は美しさよりも重力の重みを感じさせる星だった。
 地球が、懐かしいのかもしれない――宇宙育ちの自分でも。
青い空と、大気の風が、なにか無性に懐かしかった。



 
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