【宇宙要塞第13号】より



window icon 兄たち。...the only two...


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 『ぐわぁっ…』
 という、搭乗者の叫び声が聞こえたような気がして、古代進は思わず顔を背 けそうになったのをぐ、と堪え、画面を注意深く見つめ直した。
 眼前で部下の死を目にするのは二度目だ。一度目は冥王星で、決死隊として 乗り込んだ砲の設置場所で、黒こげになってあいつが死んだ。今度はこうして ……単なる哨戒だったはずだ。動揺するのは、もう済んだことだ。あいつの命 を無駄にしないためにも……俺にはしなければならないことがある。
 「どうです、わかっていただけましたか? 爆発の異常さが」
眼前の残酷な画像に微塵も動かされた様子も見えない技術班長の冷静な声が した。「……どうだ、古代?」
まるでテストをする教官のような口調に反発を覚えながらも、冷静になれ、と 自分をたしなめる。……わざとではない。冷たいわけではないんだろう、これ がこの人の、いつもの口調なのだ。何事にも動かされない、常に物事の先を見 切っており、そうして冷静なのだ。分析し、解析し、読み……そして、相手を 倒すためのものを、確実に作り上げる。冷徹な技術班長。時折、この体の中に、 オイルの血でも流れているのではないか…そんな錯覚に陥ることすらある。
 古代進は、その作り出すものが、敵を倒すだけではなく「自分たちの身を守 るためのもの」防御にも心を砕いていることを、知ってはいたのに、心の中で 無視した。その広範な知識と、深い見識には驚くし、素直に尊敬もするけれど ――彼が、兄さんの。親友だったなんて、いまだに俺には信じられない。この 人が俺を見る時の、何か言いたそうな目つきも、目線に気づいて振り返った時 の、わざとらしい目のそらし方も。


 何か、気に入らないことでもあるのか? 俺が、若輩者のくせに偉そうだと か? そういうことか。
 今でも忘れない……木星の、浮遊大陸でのことだ。波動砲を試す意味もあっ た。敵基地を倒すことも必要だった……いまここで、ヤマトを見られ、通報さ れるわけにはいかなかった、ということは誰にでもわかる。だから俺は、波動 砲を撃ったのだ……そしてこの人のセリフ。
「古代くん。……われわれは許されないことをしたのではないか? 基地を 叩けばよかったはずだ。浮遊大陸ごと吹き飛ばす必要が、あったのか?」
 何を、言いたい!? 島が横で腕を掴んで止めなかったら、俺は殴り掛かって いたかもしれなかった。……その問いは俺の中にもあったんだ。あまりにも 巨大な力――下手をすれば、惑星ごと吹き飛ばしてしまいかねない破壊力。 それでは、あの謎の敵と同じになってしまうのではないか。人類が持っては いけない力なのではないか…とね。
 だが。アンタにだけには言われたくなかったよ。この武器を作ったのはアンタ だろう。発案し、主砲に搭載したのもアンタたちのチームだ。俺が知らないは ずもなかろう。だからこそか? だがね、真田さん。


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 瞑想は一瞬のことで、古代進は我に返った。今は注意力を最大限にするべき 時間ときだった。う〜んと唸って画像を反芻した。
「そうだ、もう一度見よう」継ぎ目が外れた、と言った自分の科白に、真田 が頷いて反応した。よく出来ました、というよりは、裏づけを取った、という ように、それは思われた。


 言葉の裏に、何があったのかはわからない。ほどなく作戦が指示され、 真田技術班長は、ひどく短い時間で、「シームレス機」なるものを艦内工場で組 み上げていた。マグネトロンウェーブというのだそうだ。強力な磁気を発する要塞 島。罠とはわかっているが、行く手を塞ぐこの要塞を無視しては、このままで はヤマトはワープもできず、破壊をただ待つだけになってしまうのだった。
 艦長の命を受けて、要塞島を破壊することになったのは当然だった。
 「処理」をしろ、ということは当然、破壊するか取り除くか機能停止にする ことだ。シームレス機とやらを使って要塞へ近づくしかなかった。彼はそれをしごく 当然の顔をして受け止めていて、さっさとヘルメットと宇宙服を用意すると、 先に格納庫へ降りていこうとしたのである。


 「艦長、是非、僕も行かせてください」言った言葉に他意はなかった。
 目の前に何度も、引き剥がされ捻れて散った偵察機の残像が蘇る。真田のことだ、 万全には違いなかろうが、彼は戦闘員ではない。そして古代は、ほかの人間に、 ましてや部下たちに任せるつもりは毛頭なかった。特攻なら任せとけってんだ。
 ところが「俺だけじゃ、不足だというのか?」と言われて、え? と思わず 振り返ってしまった。 ……もちろん冥王星の時も行動を共にしていたし、彼が居なければ機械の相手 は手に余る、ということもわかる。だが、特攻になると真田を出す、ということ に躊躇しない艦長も艦長だが、それを当然の如く最前線に居ようとする技術班長も 技術班長だ。古代にしてみれば、工場に腰を落ち着けて図面を引いているだけでなく 一緒に現場に出てって共に命の綱渡りをする真田だからこそ信頼もできようという ものだが、そこに何か、真田の危うい処も感じていた。けっして、魔法のように 何でもこなしてしまうからではない。攻撃でもあったら、どうするつもりなんだ?
 (−−命知らずって言やぁ聞こえはいいけどな……)
自分の命を考慮していないようにも思える。それも“計算”と確率のうちだと? あるいは 素晴らしい自信家なのか? 運命の女神でもついているとでも!?
「……貴方を二人目にしたくない」
それは、正直に口から出た科白だった。


 作戦に入ったら、負けることは考えない、と決めている。
それが機械相手だろうと人間相手だろうと、宇宙人相手だろうと、だ。帰って 来られないかもしれない、そんなことも考えない。俺はただひたすら、作戦を 遂行し、任務を果たし、生きて帰ることを考えるだけだ。そして、一緒に行っ た者がいれば、それが誰であろうと、連れて帰る。そういうことだ。


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 格納庫で先に来ていた真田さんとシームレス機を見た。
 データを表示しながら火を入れていると、真田が前部座席に滑り込む。
(今回は俺はオマケってことだな…)いざという時の戦闘要員。真田が 自分で飛ぼうとして最初から設計したということなのだと理解する。
 (複座のゼロと、ほぼ同じか…)仕様を点検する。武器は搭載されていない。
 向坂副班長の言葉を耳に入れながら、目は表示を追い、コスモ・ゼロとほぼ 同じ仕様だと了解した。が。

 「班長に、気をつけてあげてくれ…」
突然、後部座席の自分に近づき、つぶやくように耳元に放り込まれた向坂の科白 に、え? と問い返す間もなく、フードは閉まった。
「発進!」
がたがたと揺れ始めたヤマトの腹から、俺たちは悪魔の島へ向かった。


 「こいつをもう少し早く作って欲しかったぜ」
失われた部下の残骸の横を通り過ぎた時に、思わず口から漏れてしまった言葉。 そう言った自分の能天気な言葉に、真田から返ってきたのは沈黙だった。 「どうしたんだい? 真田さん」……俺は失策を悟った。工場でそれらしきこと をつぶやいてしまった時の工作班員たちの目。誰よりもそれを痛感しているのは 班員たちで、そうして彼らは戦いの嵐の中、常に不眠不休で努力し続けて いるのだ。おそらく、人使いの荒い班長の下で。
 気まずい思いを隠せず、気持ちを切り替えることにする。俺は黙って目の前に 迫った要塞島へ目を向け、警戒態勢に頭を切り替えて集中した。

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★TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』をベースにした二次創作(同人)です。

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