宇宙図書館>第5回 BOOKFAIR Xmas&お正月>新月の館 tales
  :二字熟語のお題2008-No.33 静寂 より:2009年「Holy night:in Spacecruiser Yamato」続き


air icon Silent night
・・・on the Earth・・・


(1) (2)



【聖なる夜に−Silent night, on the Earth】


 Xmasになると、あの時を思い出すことがある。
ふねは宇宙の只中にあり、 ただひたすらあの惑星ほしを目指した。
地上の夜は、静かで、月がきれいだ――。


xmas tree


お題2007-2ji No.33「静寂」より
−−A.D.2213年頃、地球にて



xmas icon


 「わぁ〜いぃぃっ!!」
「きゃぁぁっ!」
どたたたたたっ、とつむじ風が部屋の中を走り抜けていった。
「待て〜っ。いい子にしてないと、追い出しちまうぞ。こらぁっ!!」
先に走っていったのは少年たち3人。 後ろからこれまた真剣に追っかけてきたのはこの家のあるじである。
 「あら、まぁまぁ」
女主人の方はクッキング手袋をしたまま鍋蓋を持って、リビングの方へやってくると 「こらっ! 埃が立つでしょ。悪戯もいい加減になさいっ!」
と駆けていった向こうの部屋へ向けて一括。すると戸口で振り返った少年では無い方も、 困った顔して立ち止まって、ごめんと言った。
 「まぁったく。古代くんっ、貴方まで一緒になって本気で騒がないのよ」
めっ、と怖い顔をして奥様に睨まれると、さすがの鬼艦長・古代進も形無しである。
 その様子を横に、サラダボウルを木勺でかき回していた佐々葉子は笑って
「ユキ。そのくらいにしとけ。……だいたいウチの息子がいけないんだ」
つとボウルを置いて立ち上がると、
「こらっ! 大輔」と怒鳴った。
「ごめんなさ〜い」という、全然反省もしていない声が部屋の向こうから返ってきて、 まぁったく、と3人、顔を見合わせる。


 久しぶりに会ったから嬉しくて仕方ないのだろう、というのはわかる。古代進ユキ佐々葉子と息子の加藤大輔。もうじきその父親・加藤四郎もやってくるはずだった。 古代家の次男坊・聖樹と大輔は気が合うのか、逢えばしょっ中いたずらばかりして、 元気に走り回っている。――ふだん、その両親ともなかなか会えないのだが。
 特殊な家庭環境の2組だ。だが稀にこうして互いに訪問し合い、旧交を温める。
 「あら? 守は?」ユキが夫に問いかけると、
「あぁ――奥でなんか作ってるよ。今日の趣向なんだろ」
と笑って、見ないふりするのも親の務めさと言った。
それは楽しみだなと佐々が笑い、あの子ったらとユキも笑う。
 「加藤は遅くなるのか? 確か今日、戻ってくるんだったよな?」 と古代が言って、佐々は頷いた。
「宙港から手続きだけしたら直行するって言ってた。すっ飛んでくるよきっと」
 佐々にしても、加藤と会えるのは数週間ぶりなのである。それも彼が、
「Xmasは絶対に地上で迎えてやるっ!」
と上官・同僚脅しすかしてのことだから、知らぬはこの人たちばかりなり、の今夜なのだ。


 「それにしてもクリスマス・イブなんてなぁ」「そうね」と進とユキが言えば、
「お前らだって久々の地上だろ? そんな日にお邪魔していいのか」と葉子は言い、 2人は顔を見合わせた。目が笑っている。
「――あっら。いまさら新婚でもあるまいし、どうせ子どもたちも大喜びだわ。 2人でしっとり、はまた改めて、ね」とウインクせんばかりの奥様に夫は顔をちょっと赤くし、 親友は呆れて目をぱちくりした。
 「あいっかわらずだな、お前ら」
「うふ」強いのは森ユキである。


xmas icon


 「マぁマ〜、入っていい?」
大輔のおずおずっとした声がして、リビングの入り口を見ると、後ろに守が立って2人を中に促していた。
「あら、いらっしゃい。もうお夕飯できますからね」
大輔はぱっと嬉しそうに顔を輝かせると、ぱたぱたと走ってきて佐々の膝にとん、と触れた。 するりとソファの横に座ると嬉しそうに
「あ、このサラダ好き〜。食べていい?」
「ダメ。もうほんとにこの子は」葉子にぴしゃりと手を叩かれながらも嬉しそうである。
 大輔が部屋に走りこんだ途端、聖樹の表情がちょっと曇った。だが守がほら、 と言って2人で手を繋いで中へ入ってくる。
 「お、キレイに出来たな」父に褒められて、ちょっとおめかしした2人は大人しくテーブルの前に立った。


 「さぁ、パーティしましょ? 加藤くん何時だって?」
「1900(ひときゅーぜろぜろ)……のはずだが」
「まぁ」時計は18時55分を指している。
 「加藤のことだから遅れるようなら連絡があるだろ? 無いということは間に合うんじゃないかな。 俺は飯に遅れるような教育はしとらんからな」
「まぁ、進さんったら」
 その会話をきょとんとした顔をして聞いていた大輔は、母親の目線に出会うとニコッと笑って、 ご機嫌な様子になった。まだ地球に戻り小学校へ入ったばかりの5歳。わけはわからずとも、 楽しいのだ。仲良しの友だち、大好きな古代の伯父さんと小母さん。守お兄ちゃんと聖樹。 そうして大好きな母さんがいて、もうじき父さんにも逢えるんだから。


 残念ながら入港時の書類にトラブルがあったとかで、加藤四郎は間に合わないという連絡があった。
「ちぇー、つまらないなぁ」という大輔に、
「あとから来るんだから大丈夫よ。お父さんのお土産、楽しみにしてなさいね」とユキ。
「『ちぇー』なんて言葉、使うんじゃない」
と母にたしなめられる大輔である。
 「加藤の伯父さんに、早く逢いたい。いろいろ話してもらうんだ」楽しみにしているのは守である。
「そうだな、守も加藤に会うのは久しぶりだったな」
と父に言われ、にこりと見上げて笑う――聖樹は大人しい。あまり口数も多くなく、 悪戯盛りではあるが、会話に入ってくることはあまりなかった。


xmas icon


 子どもたちからの親たちへのプレゼントは、守からは戦艦のプラモデルだった。 守は器用な子で、
「こういうパーツとか売ってるんだよ、ヤマトのもあるんだ」
と言ってなかなかいろいろ集めたりもしているらしい。戦艦アクエリアスだったから立派だ。
 古代は大喜びで、守は「聖樹も一緒に作ったんだよ、な」と弟の方を見る。
「そうか、ありがとうな」古代が2人の頭を撫でると、聖樹はちょっとうるさそうに、 だが照れたような顔をした。
 大輔からは歌のプレゼント。葉子は芸事を見るのは好きだし自分でピアノを弾いたりするが、 (実は)音痴だったりするので、
「加藤に似てよかったな」を言われ、喜びながらもぶんむくれた母であった。 小学校で描いたのだそうな似顔絵も渡されたが、 これはなかなか似ていて妙な芸があると思う親なのである。
 「しかし、なんだな」
古代がぷふっと笑いながらその絵を眺めていわく。
「子どもの目にはそう見えるんだろうな」
「なんだよ〜」照れる母親である。何故なら、両親がとても仲良くそこには並んでいて、 たどたどしいながらも背景にはちゃんと艦載機が鎮座していたからだ。
 「だけどね、普通さ」葉子が言う。「母親の絵を描くってったらご家庭でふんわりしたエプロン姿とか、 そういうの描かないか?」
息子を膝に抱っこしながら文句を言うが、声は柔らかい。
「え〜? だってみんなそんなんなんだよ。一緒じゃ面白くないじゃんか」
と大輔は口をとがらせた。
「先生がね。『お母さんのイメージ?は』って訊くの。みんな、優しいとかやわらかいとか、 あったかいっていうんだけど、、、あったかいとか、おいしい(<料理のことだと思われる)とかはあるけど、 やっぱうちのおかーさんて『かっこいい』でしょ?」
 無邪気ににこにこという大輔は、やっぱり四郎の息子だと思い、思わず赤くなる母であった。


xmas icon




xmas lease


  ←新月の館  ↑宇宙図書館 ブックフェア  ↓次へ  ↑新月Xmas index 2009
Atelier's_linkbanner

背景画像 by「Atelier Black/White」様

この作品は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の同人創作ものです。

copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2009-2011. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system