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in Spacecruiser Yamato


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【聖なる夜に−Holy night in Spacecruiser Yamato】


xmas tree




お題2007-2ji No.42「背中」
−−第14話『銀河の試練!! 西暦2200年の発進』より



 外には宇宙嵐が吹き荒れていた。
ふねはすでに2週間、此処に留まっている。 嵐は、止む気配はない――。



xmas icon


 「おう、終わったのか!?」
聞き慣れた声がして、加藤三郎は舷窓から通路へ目線を戻した。
「終わったのか、じゃねーよ。何で止めた立場の俺まで…格納庫掃除なんぞ」
「まぁいいじゃねーか、上の者が率先してやることで、下もついてくる、ってね」
「ぬかせ」
―― 一番ぶ〜ぶ〜文句垂れてたの、誰だったっけな、とその相棒・山本明の顔をねめ上げる。
「ひゃっひゃ。気にしない、気にしない。いいじゃないか、ストレス解消んなって」
 ほいよ、とシャンペンらしき気泡性の飲み物を、まがい物グラスに入れたものを手渡され、 酒か? と言いながら受け取る。乾杯、と、いったい何にか知らないがグラスの端を突き合 わせ(本当のグラスじゃないから音はしないが)、くい、と互いにそれを喉に含んだ。
 「しかしなんだな、キンってあの音がしないと酒飲んだ気ィしねぇ」
同じことを考えたのか、山本がそう言って
「艦内でガラスなんて貴重品で壊れやすいもんで日用品作るわけにゃいかねーだろ。非効率的だぞ」
「まぁな……つくづく食事ってのは文化で、贅沢品だよな」
 窓枠に腕を乗せかけるようにして山本が言った。旨そうに酒(これも、シャンパンもどきだ) を飲みながら言うのだから、本気で贅沢なわけではないだろうが。
「――お前ぇ、そういう食事してたんだろ、此処来る前さ」
 かねてから気になってたことを加藤三郎は口にした。
――こいつの出自。柄っぱちかと思ったらえらく教養の高そうな科白を吐いたり、極めつけの お坊ちゃまくんの南部と同じノリで話すこともある。戦災孤児だとか没落貴族だとか、いいように 言われていたがその一切を無視し、親友の自分だってよくは知らない。 楽器を弾いたり歌ったりすれば玄人はだしだということを知って驚いたくらいだ。それもギター とかじゃない、ヴァイオリンで、倉庫の隅にあったボロ楽器を向坂さんが修理してからは、 時々頼めば弾いてくれた。松本によれば訓練学校時代はそんなことも時々あったんだ そうだ――だが“同期”の松本からも聞き出せたのはその程度で…。


 「なぁに暗くなってんだ?」
ひょい、と目の前に凄絶に綺麗な顔が覗きこんで、同性ながらドキりとする。
おい、やめろって。
と顔を払いのけようとしたら、ひょいとけられてたたらを踏む。
ひゃはは、とまた笑いやがる。こんちくしょ。おめーのことだっての。


xmas icon


 「どのくらいで、止むのかな――」「さぁな」
そう言ってもう一度2人で並んで窓の外を遠く眺めたが、自嘲するようにヤツは言った。戦 闘して、いくらヤマトが強くって此処までなんとか生き延びてきた、といってもな。自然の 脅威の前には何の力もないんだな、俺たち……しかも、たったこれだけ宇宙のど真ん中に磁 気嵐が居座っているってだけでさ。
 ふいと上げた横顔が、印象深かった。
 「なぁ――今夜、Xmas Eveだって知ってた?」
「は?」クリスマス・イブ!? あぁそれでか。それでこんなシャンパンもどきが配られた。
ユキか。生活班長殿も気が利くな、と思う加藤。


 「地球の今頃――親父たち、やってんだろな」
は? と突然そういうことを言い出した山本に加藤は内心注目したが、表情を変えず並んで 窓の外を見た。ヤツが自分からそういうことを言い出すのは珍しかったんだ。
「やってるって、何をだ?」
あぁ、と山本は少しいつもと違った表情で、笑った。
――演奏、さ。Xmas Eveには、家族全員でピアノ五重奏、やる。俺がいなくなってからは ピアノ四重奏だな。
 は? 
 俺は思いっきり意外なことを聞いた気がしておもわずまじまじとヤツの顔を眺めてしまっ た。家族全員で、だとぉ?
 「こういう時代だ――たぶん。家族だけじゃなくて、皆、集まって……楽団の連中も、もし かしたら近所の人たちも。演奏したり、聴いたり……あの、地下都市の明かりの中で、皆、 祈ってるさ……」
優しい、優しい声で彼はそう言った。
 親父がチェロで、お袋がヴァイオリン。弟がヴィオラ、妹がピアノ。俺がヴァイオリンで 入ってピアノ五重奏――Xmas用の曲、覚えてっかな。
 ふんふん、と山本が口ずさみはじめたそれは、聞き覚えのあるようなないような旋律だった。





xmas lease


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TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説です。

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