惜別 −未来へ−
−−A.D.2239年、地球
:二字熟語お題−No.39「惜別」 = Prologue = 大気圏を振り切った途端、目の前にぱぁっと無窮の空間が広がった。 上も下もわからない、星の海だ――。 まだ背にしてきた惑星の白く青い明かりは強烈に背後から照らし、眼前 も横もを支えてくれるような気もした。 ――何故、行くのだろうな。 何度も、自らに繰り返した問い。 (どうして、行かなければならないのですか) (いったい、何故――何が、不満で…) 不満など、なかった。 愛する者と、愛する息子――自分たちの手で、作り上げてきたもの。 地球そのもの。 大切な、仲間たち。 ――どれも。 失いたくない大切な、もの。 だが、俺は。――此処にはもう、長く居すぎたのだ。 この、地球に。 戦艦に乗り、宇宙を旅した年月に比べれば。 俺の心は――魂は安らぎを得、そして彼も旅立ち、俺は。……また1人になる。 (――いつかは。そう思っていたわ……) すまん。許してくれ――いや、許してくれなくてもいい。 忘れないでくれ――恨みも、愚痴も、何でも浴びせてくれればいい。 それごと、俺は持っていこう――お前の許から。 (暁さん? でも、私は幸せだったわよ。ずいぶん長いご滞在だったけど) 最後は少し笑いながらそう言いさえして、妻――芽衣は頬に軽く触れたのだ。 (父さん――やっぱり、行くんだね) (あぁ……) (そう――宇宙は、そんなに懐かしい?) (そうだな……苦しくて、寂しいことも多いな) (そう……またいつか、会おうよ。時間と、空間の果てで…) (そうだな、そんなこともあるだろうな) そう言うと、息子――YOUは突然、首にかじりついて、涙を流した。 慌てて抱き返すと。 「父さん。役者の涙なんて、信用しちゃいけない――」くすりと笑いながらそう いう様は、芽衣そっくりだった。 済まない――俺は、行く。 行かなければならない、と俺の中の何かが言うのだ。 さようなら。 幸せな長い時間を呉れた者たち――。 |