>YAMATO'−Shingetsu World:三日月小箱百題2006-No.49より



butterfly clip紫陽花あじさいの空


・・贖罪・・



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「三日月小箱百題2006-No.49・購い」より
(from 2006, Nov)


【紫陽花の空 贖罪あがない


bluemoon clip


= 1 =



 休暇で兄貴が帰ってくると、僕はそれに合わせるようになるべく実家へ戻ろうとした。訓 練学校に寮はあって、本当なら1年間は同じ寮で顔つき合わせていられるはずだったのに、 兄貴は“繰り上げ卒業”なんかしてしまって、とっとと前線へ出ていったから。だから僕は 兄貴と同時に学校に存在したおぼえなんか、ほとんど、無い。


 それは仕方の無いことだった。――ガミラスの遊星爆弾が降ってきて、そのために戦地へ 行き、それと闘うことを選んだ僕ら兄弟。いや兄たちの戦い方はそれぞれで、大兄さんは僕 がまだ小さかった頃にすでに太陽系から外へ出ていってしまって居なかったし、二郎兄さん は自分の考えがあって、戦艦の航海士になった。「何も大砲撃って敵さん打ち落とすだけが地 球を守るってことじゃないだろう?」そう言って、ざりざりと僕のいがぐり頭を撫でるのが 好きだったけど、すぐに僕はデカくなって兄さんの背に追いついてしまったから、そうでき なくなったのが残念だ、と笑っていたっけ。その頃には、最前線の補給艦の一等航海士とし て、戦場のど真ん中を突っ切る仕事をしており、案の定、戦火が激しくなってきた時に、ガ ミラスの最前線艦隊に狙い撃ちされて全滅したのだった。


 そうして僕は――すぐ上の兄貴、三郎兄さんの後を追っかけていきたかった。
年が近かったこともある。兄貴は面倒見がよくて、うしろからくっついて走り回る僕を邪険 にしながらも構ってくれ、小さい頃から兄さんたちの遊びにも連れていってくれた。
「お前は面白いからな。妙なとこ、頭のいいガキだ」
そう言って笑っていたけど。
 五つ上の兄さんたちの遊びに混ざって対等に勝つには、やっぱり子どもはそれなりに考えな くちゃいけない。僕はいつでもちょっとずつ工夫したし、それがズルにならないように気を つけた。そうやって陣取り合戦でも、追いかけっこでも、ゲームでも、原っぱでのボール遊 びでも、それなりに邪魔にならないように。でも忘れられないように立ち回って、僕は兄さ んやその友人たちと遊びまわるのがとても好きだった。


 だから……僕が訓練学校を受けたいと言い、戦闘機科を追うと言った時に、初めて兄さん は真面目に言ったんだ。
「――しろ。お前、俺の後ばっか追っかけてくんなよ。もう自分で歩け。上3人共軍人なっ たからってな、なにもお前まで来るこたぁないんだぞ」
ガミラスとの戦いが激しくなり、人々は地下都市への移住を始めていた時期だ。
 実際、家を護り家族の支えになるには、民間で居た方がよかっただろう。父さんも母さんも 何も言いはしなかったが、すでに3人も奉職しているのだ。一人ぐらい残ってほしいと思っ ているのはよくわかったし、桂義姉さんにはハッキリそう言われた。
 でも、僕の決心は変わらない。
 「――戦闘機に乗りたいんだ。青い空、もう一度取り戻して飛びたい。そのために、俺だっ て、出来ることをする。兄ちゃんの後、追っかけてるだけじゃないよ」


 13歳――古代も、島さんも。そして相原さんや太田さんにも。それぞれにそれぞれの事情 があっただろうけれど。“ともかく空飛びてぇ”と言って最初は民間の航宙機の学校に行って いた兄貴と、戦時中にその時期を迎え、最初から軍人を目指した僕とは、志向が違っていた。 ――きっと兄貴は。平和な時代なら戦闘機に乗ろうなんて思わなかったに違いない。
 戦神。天才ファイター。古代の両翼――。
 様々に呼び倣わされた“天翔る翼”加藤三郎。だけどそれは時代の生み出した異才だっただろう。 ……そうして僕は。もし兄貴が普通の航空パイロットになっていたらやはり後を追ってそっちに 行っていたかもしれないけれど。僕は……僕こそが、戦闘機を求めていたのかもしれなかった。
 兄貴――平和主義で、優しくて。乱暴で何も考えていないみたいに明るかった兄さんが、 本当に求めていたのは。
“青い空は俺たちが取り戻してやる。だからお前は、自由に。平和な空の下を、飛べ” それは本心だったんだろうと、今なら、わかるのだ。


star icon


――加藤四郎・戦闘機パイロット。俺は一生、戦闘機に乗り続ける。
兄さん、あんたの分までもだ。
平和になっても、戦いの無い世の中になっても。もはやこのコクピットから、 逃れたいとは思わない。



 
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