>YAMATO・3−Shingetsu World:三日月小箱百題2006-No.62より




- moon light sonata -


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−−『宇宙戦艦ヤマト・完結編』後
:2006年お題 No.62「月影」2
A.D.2206年頃、地球


【はじめに】
このお話は『宇宙戦艦ヤマト』をベースにしてはいますが
まったくの創作です。
“新月world”のオリジナル・キャラクターが中心の
ヤマト後の世界の話となり、
さらには相当にバイオレンス(な感じ)ですので、
そういった一切が少しでもお好きでない方は、
近づかない方がよろしいかと存じます。


話は全くのオリジナルの「収容所惑星」の前段番外編であり
この後、新月worldで活躍する古河大地が“そう”呼ばれるようになった
理由の一つでもある、とご理解いただけましたら幸いです。
また佐々葉子を中心に、相当に作者の趣味に走っていますので
それでもよい、という方のみ、本文へどうぞ。


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= 1 =



 ひっ。
 男は自分の頬に違和感を感じて振り向いた。何かが掠めたと思って手をやると、 べっとりとついたもの……血か?
そう思った途端、闇の中から見据えた光る目を見出したのだ。
 「誰だっ、そこに居るのは」
「――誰だ? どうでもいいでしょう、そんなこと」
「その声……お前。――古河か? 中尉」
低い場所から聞こえてきた声は、それには答えずその影からするりと前へ出てきた。
 ぞっとするものを感じた。
「お待ちしてましたよ」――およそ部下とは思えない。通常のこの男とは……まるで 少年のような表情の持ち主、その男と同一人物とは思えなかった。 ぞっとするものがその口調に含まれ、そうして目の奥の光は、 彼がついぞ見かけたことのなかったものだ。
 (……こいつ――まさか)
 元の宇宙戦艦ヤマトの攻撃隊員だったことは知っていた。それはそうだ。 自分の下に配属された中から数名、この隊のものがあった。火星と月に配分された者とは 別の扱いとなり、そのことそのものをどう考えたらいいかはわかりにくい差配だったのだ。
 戦艦が出来る。――それに搭乗するための間の1年半から2年のことだとも言われたが、 そんな“預かり”はこちらだとて迷惑だ。 だが、実懇にしているルートからは"メリットもあるぞ"と含められてもいた。
 確かに人材の質としては一級だった。仕事に手抜きというものを知らず、また コミュニケート能力も高い。実績をひけらかすこともなければ、人あしらいも上手い。
……ただ、クセがある。特にこの男と――ほかにも幾人か。
 まぁメリット・デメリットはあるのは当然だ。それが官僚機構というものであり、 それをうまく使いこなしてこその本部だろうと彼は割り切っている。そうして、 彼の性向このみにとって大きなメリットが一つ付いていた。


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 「え? 女ですか?」
名前だけ聞いたことのある元ヤマトの戦乙女・佐々葉子。一説によると美人だといわれ、 別の噂ではそうではないという。顔に大きな傷があり、これは月基地での来襲時に 負ったものだといって、目の下から覆うそれを気にしなければプロポーションも 目鼻立ちも抜群だと、ある筋から聞いた。
 そう。
 この男――中條は仕事はできるのだ。だが。――「女は女」それ以外のものではなかった。 仕事のできる女もいたし、美人も、体のいい女もいる。だがそれはそれ、これはこれだ。 そうして、落とし甲斐のある女、というのは――人が羨むものであることが条件。 さらには仕事ができて美人ならもっと良い……恋人がいる? それはイイ女なら当然だろうな。


 そうして着任してきた佐々を見た時に、彼は、ほぉという驚きを露にした。
(思った以上だな――)
要するに、たいへん好み――のタイプの一人だったのである。
 自分の下について仕事をする、つまり機会は幾らでもあるだろう。と、彼は内心ほくそえんだ。

 着任報告で面通ししたあと、すぐに彼はいろいろな情報を集めてみたが―― 氷の人形アイス・ドール……ふうん。それもまた一興。 恋人はどうやら月基地副指令補の加藤か。ヤマトの若造だな。
――兄の三郎ならまだしも(中條は加藤三郎に面識があった)、弟か。 それはそれ、傍にいるわけではないという有利は利用しない手はない。


 そうして、佐々葉子は、日々のストレスに晒されることとなった。


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 過去にあった、飛嶋准将とはまったく別の意味でやっかいな相手だった。 秋波は送ってくるが、パワーハラスメントになるような言動はしない。プライヴェートでは それらしきことを匂わせるが、無理強いはしなかった。
 飛嶋准将はやっかいではあったがわかりやすく、男たちに信望される部分があるだけに (個人的には構われたくなかったが)人間としてけっしてキライな相手ではなかった。 仕事を結果として(方法に問題はあったとしても)良い方に導くための努力は惜しまなかったし、 その点で部下としてついていけないわけではなかった。
 もちろん、この中條という男も精力的という意味では人後に落ちない。 見掛けは優男だったとしても、だ。


 (自信のある男がやりそうなことだ――)
 無視したり、キツい目を向けると、上官に対しそれはなんだ、というようなことはきっちり責めてくる。 権威主義と官僚主義は身についている。それによって懲罰を喰らったこともあった。
――佐々は自分を案外平気だと思っていたが、次第にストレスを抱えるようになり、 ある時、シミュレーションで実機に乗った際に、小さな事故を起こしてしまったのだ。
 それを、たまたまコントロールボックスに入っていた古河はつぶさに見ていた。


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 着任したのは共に、である。
 最初から気に食わないやつ――古河の本能がそう告げたが、なんら弱点・問題点は 見つけられなかった。普通に業務をこなし、多少は人気があるのだろうが、気障でイヤなヤツ。 古河の周りにはいないタイプだったので、積極的に下に付こうという気もなかった。 だが直属の上官になった。しかも佐々とは同じ仕事をさせてもらえなかった。 すれ違いの日々が続く。

 仕事に手は抜かなかったが、古代や宮本と比べようという方がどうかしているだろう。
 しばらくの間、といわれ――内勤の多い仕事だったが、佐々と部隊は一緒だったため 文句も言わなかった。何かの前哨だろう、と。どうせそうだろうと――古河も、 佐々も思っていたのだ。そしてまたそれは大きく間違いというわけではなかった。


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