空は蒼、地球は碧。


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= 参 =



 卒業前の数日間、本来なら先輩として引継ぎをしたり示唆することもあったかもしれない。 だが初めて会った古代進はそういうタチではなかったし、山本もそうだ。いやむしろ、 最初に格納庫のコスモ・ゼロ型の前で顔を合わせた時、
 「――俺の"ご指導"なんざ要らねぇな? 自分でやってみ」
そう言って放り出した。何故なら山本はその段階ですでに古代の資質を見抜いていたのだし、 自分とは違うアプローチでこの新機種を馴染ませていくに違いないことを感じていたからにすぎない (実際、古代はすでに図面とシミュで自分なりの操縦法をマスターしてもいた)。
 反面、関係ないさという思いもある。 どこか心に引っかかっていたその男を敢えて無視した――関わっては深くなってしまうかもしれない、 その危惧があったのかもしれない。
 所詮この先自分は戦地へ出ていく。ただ一瞬すれ違うのみ、と。
山本明は、学生時代を共に過ごした盟友であり恋情を交わす中でもあった親友・三村勝とも、 この時すでに別れを告げていた。
 去って――戦いに、行くのだ。
希望などあるかどうかわからない未来の、それでも微かな光を求めて。


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 そうして山本明が本当の意味で古代進と出逢ったのは、そのふね宇宙戦艦ヤマトに乗艦した時だった。


 ヤマトには2機種の艦載機が搭載されていた。
 コスモ・ゼロとブラックタイガーである。
――古代は最初から、コスモ・ゼロを指揮機として扱い、おそらくその目的で搭載された機は、 プロトタイプよりも数段クセのある機体となって其処にあった。
 艦載機隊は地下都市からの出発組と火星合流の二組があったが、山本は地下都市組――ただし 乗っていた戦艦から松本とただ2人の転属組だ。繰上げ卒業をして特別訓練を経て、 "新卒"でやってきた古代や加藤たちとは係累が違っていた。


 パレードのあと各艦内を点検し部署と配置、各リーダーとの顔合わせの中、 格納庫へ行くと古代進が居た。戦闘班長だという。
儀礼的な挨拶は抜きだった。古代の体からは緊迫感が発しており、自然、直截なやり取りになる。
 「山本――そう呼ばせてもらうが、いいですね」
先輩ではあるが部下だ、とその目が言っていた。強い目線は戦闘リーダーの第一条件だなと山本は思う。 ――二つ下のエリート、それは乗艦前から基礎知識として知っていた。加藤三郎とは知己だったので、 事前に幾らかの情報を得ていたのだ。加藤がえらく買っていることも知っていたし、 親友とでもいうような仲だとも知っていた。
 「あぁ――はい。貴方が上官だ」
 山本明はぴ、と敬礼をすると古代進に対した。
その時彼はまだ、ブラックタイガーチームの黒服を身に付けていない。戦闘班の共通服ともいえる 白地に赤線の入ったもので、その理由は、明らかだった。
 「山本隊員――貴君はコスモ・ゼロを扱える。そうだな」
「はい――ご存知の通り」
現在、ヤマトに装填されているゼロは2機。ブラックタイガーほどの重量感と起爆性はないが、 パワーとスピードでは上を行く。また機動性も高い。
「俺の副官としてゼロで飛ぶか、BTに転向して加藤の補佐をするか――どちらがいい」
「……」
山本はぐ、と詰まった。まだヤマトの様子などわからない。本当にこの艦で謎の敵と 戦えるのか、イスカンダルなどという星が本当にあるのか、ですらも。
 「俺は期待している――それに、実は頼りにもしている」
格納庫にはパラパラと人が集まり始めていた。 その連中に聞かれたくないように古代はすっと顔を寄せた。
 間近で見るとその若さは尚一層に胸を突いた。――18歳になったばかり。美少年ともいえる顔立ち、 ハシバミ色の瞳。暗い色を宿してはいたが、その光は意思の光だ。
「……この中で実戦で敵機と交戦して生き残ってきたのはあんたと松本だけだ。もちろん 火星からベテラン組も合流するが、そっちも実戦に出た人間は何人も居ない」
皆、死んだからな――という言葉を古代が呑み込んだのがわかった。
 くいとつかんでいた服を離して古代はふぅ、と息をついた。
緊張、しているのかもしれなかった。肩に力が入っている――仕方もなかろう。 この重要なポジションに就いているのだ。そうして命を預かって、駆け抜けなければならない。
 山本はふっと新たな思いでこの、二つ年下の上官になる男を見直した。


 しばらく様子を見よう――とりあえずはBTにも慣れてくれ。
そう言われて与えられたBTは弐番機だった。
(小隊を率いろということか)と合点する。
……以前乗っていたR68型はBTと原型を同じにし別の発展をした兄弟のようなものだったから、 それはさほど難しくなかろうと山本は思う。問題なのは――BTとゼロの感触があまりに違うことだ。
ダブルでこなせるだろうか? 不安があるわけではないが、 力を120%発揮できないのも本意ではない。そうして、古代の期待に応えて不安を埋めてやりたいと、 何故か思うのだった。


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