>YAMATO・3−Shingetsu World:三日月小箱百題2005-No.15より




いつもと違う朝。


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−−『宇宙戦艦ヤマトIII』
:2005年お題 No.15「長い髪」


【はじめに】
このお話は、TVアニメ『宇宙戦艦ヤマト3』をベースにした創作で
南部康雄くんの話ですが、親族一同ほか微妙に“新月world設定”です。
オリジナル・キャラクターや本編と異なる(かもしれない)設定等が
お嫌いな方は、お読みにならないよう、速やかにご退艦ください。


では、それでもよろしい方のみ、下記へどうぞ。


draw clip


= 1 =



 「お兄様。もうお出かけになりますの?」
 官舎から一度家に戻っていた。出航前のいつものこと。 予定より早くドッグ入りすることにした日の朝、出かけると両親に挨拶をしに二階へ上がったところを妹につかまった。
「――あぁ。古代が艦長になる。できれば早めに来てくれとの仰せだ」
南部康雄 は階下に降りようとしながら手すりのところで少し憂い顔に見える妹を見上げる。
 「お兄様……」とんとん、と降りてきて並んだ。
「まだよろしいでしょう? ――ご用意ができてらっしゃるなら少しお話しませんか」
と玄関脇のゲストルームに引っ張り込まれた。カランカランと鈴を鳴らしてお茶を、 とオーダーする仕草が、少し急いている、と南部に思わせた。


 ゆったりと、朝飲むには少しキツめのアールグレイを喉に流し込みながら、 南部は美樹 を見ていた。――かわいい妹だ。賢くて、強くて。 元気になって本当に嬉しいと思っている。ふだんあまり構ってはやらなくとも、 イスカンダルから戻って無事だと知った時、どれほど嬉しかったことか。 デザリウムで占拠された時、どれだけ心配だったことか――まぁ親父がうまくやるだろうとは思っていたが。

 「古代さんって、古代進さん? ヤマトでご一緒だった?」
あぁと南部は頷いた。
「――美樹。今回は訓練航海です――さほど危険なこともないし……地球の危機と いうわけでもない。すぐに帰ってきますよ」
南部は家族にだけ見せるゆったりとした笑みで妹に対した。
「それで古代さんが艦長に? 艦長の訓練、ということかしら――まだお若い、 お兄様と同い年なのでしょう? それで主力級の戦艦の艦長なんて凄いですわね」
「そういうこともあるかもしれないね」
南部はあくまで穏やかに言った。だが妹の方は美しい顔をキッとキツくして
「嘘ですわ」と言った。
「……美樹」


 ヤマトの第3代艦長には古代 進 が就任していた。――“ヤマトの古代”これが 如何に一般の伝説であろうと、異例の抜擢であることには違いない。23歳の艦長。 ――そのために島と真田さんの2人が副長に付く。副長の方が先に任命された、 というのだからあの人たちらしいが、実質ヤマトは三人の合議制で動かされることになるのだろう と推測はつく。
 その古代から早速の打診があり、こういう次第だから戦闘班の方はよろしく頼むと改めて言われ、 人選には共に慎重を要したし、訓練学校にも行って動き回った。 だが“繰上げ卒業”してまでの訓練航海……というのは、
(勘の鋭い人たちにとっては少々ムリのある言い訳でしたね)――と、南部は思うのだ。


 「お兄様――お兄様のお立場では言えないこともおありでしょうから、詳しくはお聞きしませんわ。 でも、嘘はよろしくなくてよ」
「美樹……何が、嘘だというんだい?」
「――『すぐに帰ってきます』」と妹はまっすぐ兄の目を見つめた。 「……1年後は“すぐ”とは言わないでしょう?」
「おまえ……何を」
わたくしにも、目や耳はあります」
じっと見つめる美樹を“随分大人になったものだ”と南部は改めて感心して眺めた。


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 南部康雄は三人兄弟の真ん中である。五つ年上の長女・真樹とこの四つ離れた妹の美樹。 この妹はガミラスとの戦いの折に放射能に冒されて入院し、ヤマトが戻らなければ 確実に命を落としていた。地下都市時代の苦しさを兄を信じることで乗り切ったのだ。 だから彼女にとってヤマトは、兄の艦、それ以上に“地球を救ってくれた”艦だけではない艦だ。
 今年、上級学校の最上級生である。そろそろ就職活動もしているらしいが、いかんせん “お嬢様”たちの進路の決め方は自分には理解の範疇を超える、と南部は思っている。


 姉・真樹は、早々に事業の跡継ぎを放棄した自分のためと――それに自らのためもあって 同志ともいえる実業家に嫁ぎ、2人で現在は南部重工公社を盛り立てて辣腕を振るう。 二度の大戦を潜り抜け、生き残ったのだから大したものだと弟は思うのだ。


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 「揚羽のご長男がお乗りになるそうね」
 カタリとカップを置いて美樹はまた兄を見つめた。その所作と白い指は“大富豪の 令嬢”の名に恥じない品を整えている。だが口調は直截だ。
南部は内心で驚いた。――もちろん南部の耳にもその件は入ってきていたが、美樹 の情報網は侮れない。……父か叔父ルートだろうか? それにしてもそこに彼女の個 人的な興味が附帯されていることは想像に難くない。


 揚羽は訓練学校からは太鼓判を押された人材だ。実力・知力・性質共に一級である。 だが実際に乗れるかどうかはわからないと古代にも言われている。訓練学校で教えて いた古河によれば期では最優秀、首席を土門竜介と争い、戦闘機科ではダントツのト ップだったと聞くが――。
蝶人ちょうと さんじゃぁな――あそこも一人息子だったろう)
歳の離れた妹がいたかもしれない――あと、従兄弟がいたな、と南部の記憶力はこう いったことには確かである。
 だがそれを何故、美樹が知っている?
 くふ、と彼女は少し表情を緩めた。
「――女学校のネットワークもあなどれませんのよ。お家同士のご婚姻の話などもあ りますでしょう? 武さんはまだお若いですけれども18で訓練学校を卒業されたら 事業のお勉強も始めることになっていて、もうお婿さん候補に、って思っておられる 方々も多いようですから」
「……だろうな」その辺の“常識”は南部にもある。


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