新月倉庫>>ヤマトIII・艦内事情(Shingetsu World):三日月小箱百題2005-No.47より




lightアイコン深夜〜第一艦橋で

(1) (2)
    
   
   
【深夜〜第一艦橋で】

−−『宇宙戦艦ヤマト3』
:お題 No.47「メンテナンス」


 第一艦橋へ入ると、島が操舵パネルをオープンにしてスパナを握って
いた。
油だらけというか顔に黒いものをくっつけて何やら作業中。どうりで艦の動き
がローペースで、ふらふらしている。自動航行中か。
 エレベータの開く音に気づいたのか、顔を上げて「真田さん」と言う。
顔を上げた途端「あぶないぞ」という間もなく、小さな火花が飛んで、音ととも
に煙が上がった。慌てて飛んでいって様子を見る。
あ〜あ。何やったんだ、こいつ。
 島はけっしてメカに強い方ではない――もちろん弱いわけは無いが。
航海士は艦の操縦系統については熟知しているのが常識だし、何も助けの
ない宇宙は自分でメンテナンスや簡単な修理くらいは出来るのが理想的だ。
…だが。
何事につけマルチに成績の良かった島にも苦手はあるようで――理論は完
璧、だがその実践は“なかなかギリギリ”の成績だったと同期でその方面に
だけは抜群を誇った相原が言っていた。
「ヤマトの工作班は働き者の上に有能すぎて――最近、ますます苦手になっ
ちゃいましたよ」
いつだったか冗談のように島がそう言っていたことがある。
 だが操舵部分のチェックと操作パネルの通常メンテを島は自分で行ってい
る。大切にして、中をよく布で磨いていたりもするらしい――古代のコスモ・
ゼロ磨きと似たようなもんだな――。
それにヤマト以外の、ノーマルなタイプの戦艦や輸送艦の操作パネルくらい
はメンテナンスできるはずで。しかも、島がこよなく愛するヤマトの自席のパ
ネルなのだ。
だがヤマトは実験艦だったし物資が不足の極みに達していた頃の地球科学
と、イスカンダルから提供された超科学の極みの融合体。いまだに改造や
微調整を繰り返し、あまりにも独自の艦になってしまった――そのすべては
俺と山崎さんとの両方の知識を合わせて何とかフォローできるという程度に
は複雑だ。

 配線をとっさに引き抜いてみれば、劣化した金属が他に抵触していた。
島はそれを新素材に替えようとしていたようだ。
「この間の戦闘の時に無理したみたいで――レスポンスがコンマ2秒くらい
遅れるのが気になっていたんです」
その程度……島にとってはその程度ではないにしても、のことで、俺たちの
手を煩わせるほどのこともないと思ったようだった。だが昼間に何かやって
突発事件でも起きてもいけないし、延ばし延ばしになっていたのを、今やっ
と深夜の艦橋での作業、となったらしい。
 「気にしなくても言ってくれればすぐに直すのに」
と言うと、テレたような顔をして尻餅をついたまま床から見上げた。
真っ直ぐな視線と黒曜石の深い瞳は、女性なら“見つめられれば10秒”(で
落ちる)と言われている。穏やかで、深い表情。
……もうヤマトに乗って5年。4度目の大きな旅。
副長として自分の向うを張って危なげなく任務をこなす落ち着きは、最初
の頃に比べると安心感がある。大人になったなぁと思っていたが、時には
こんな顔もするんだな、と微笑ましい気分になって。
苦笑したのが顔に出たんだろう。
「何ですよ」と少し拗ねたような顔をした。――22歳、か。

「小さな傷や不調でも放っておけば大事故の原因になることもあるんだ…
まぁ今さらお前に言うことでもないけどな。俺たちをいつでも使ってくれて
いいんだからな。気を遣うなよ」
「…ありがとうございます」
床に座り込んだまま何してるんだ、というシチュエーションで、そんな話を。

この旅の間。
航海班と、それを補佐する技術班天文部・分析部は非常に忙しい。それが
互いにわかっているだけに、なるべくなら負担をかけまい、自分でできる
ことはやってしまおう…その気持ちは痛いほどにわかり合ってしまう。
それがまた、各班の責任を負うリーダーたる班長にかかっていくのだ。
ましてや航路を担う島大介副長の重さは。…もしかしたら、俺より大きな
プレッシャーを抱えているのかもしれない、こいつは。
肩に手を置いて、後は任せろ、と手を引き立ち上がろうとした途端

 ゴォン!

という衝撃があって艦体が大きく揺れた。
体勢が崩れて放り出されようとした島の体を抱き取るような格好になって、
椅子の背に止まる。揺れが断続的に続き、そこへユキが駆け込んできた。
 「どうしたのっ、島くん!」

は、と見て目を丸くし、立ち止まった。
え? と島大介は驚いて。自分と真田の様子に――あぁ、誤解を招いたか? 
ユキが赤くなるような様子で真田さんの腕の中に居た島大介である。
 「こ、これは、弾き飛ばされただけだ」
焦ったのか顔が赤くなって、ようやく体を離し、立ち上がる。真田さんはそ知
らぬふりをして、島の腕を取って床に立たせてくれ、手を離した。
急ぎ航海長はパネルへ寄って外を見た。
 外には大きな変化が現れていた。
「どうだ、島」
真田が肩越しに覗き込む。
「……マゼラニック・ストリームの延長でしょうかねぇ。小さな宇宙気流が起
きて、諸惑星や微小惑星が衝突したのでは…」
「それ以降は影響はないか」ユキを振り返って。
すでに探知を始めていたユキに問う真田である。
 「えぇ…強い流れはありません。今のは単発のようね」

 
←新月blog  ↑三日月御題2005-06・暫定目次  ↓次へ  →新月annex・扉


copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2005-2010. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system