>YAMATO・3−Shingetsu World:三日月小箱百題2005-No.88より




還らぬ人〜Soldiers

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−−A.D.2203『宇宙戦艦ヤマトIII』
2005年御題-No.88「撃墜」または
dix「気がついてなかったなんて言わせない」より
「宙駆ける魚3・MISSION」番外短編

【還らぬ人〜Soldiers】

 
= Prologue =
 『やめろー!』

 空間を切り裂くようにその声が耳に飛び込んで、前を低く飛んでいた二つの光点が 急激にイレギュラーな動きをするのがわかった。
『来るな!! 大丈夫だ……』
最後の方はすでに聞き取れず、息を呑む間にその二つの光点は、先行していた さらに2機――鈍い動きで揺れながらも一定空域から抜け出せずにいた二つ解き放ち、交差する。
 四つの光点は一瞬でバラけたが、その一瞬の後。
何本もの光の束が、後続しカットインした一つに向け食い込み――四散した。

 触手を伸ばす光の渦とその1機の爆発を視認しながらも、飛びすさぶ3機に併走し
「散開!! この空域から離脱せよ!」
自分が部下たちに叫んだのは同時。
 その背後の空間から、圧倒的なエネルギーが一瞬の間の後に襲い、 あとには。チリ一つ残らぬ、ぽっかりした空間が残るのみ――。

 「全機、ヤマトへ帰投せよ――」
 感情を抑えたまま。
 戦闘機隊長・加藤四郎は、自らもその操縦桿を母艦へ向けた。
 何も残らぬ空域に、短く敬礼を返しながら。
(……山口)
 友の名を、心の中でつぶやいて。



 



airアイコン

(1)

 コンコン、と入り口をノックする音がする。
「戦闘機隊長・加藤です」
おう、入れとエントランスを開けると背の高い姿が現れた。
 報告が続いている。
『……戦闘空域を脱した。これより予定航路へ進路修正し、ワープ可能検討空域まで 自動操縦に切り替えます』
「よし。……艦橋も半舷で交代に入ってくれ。……島、お前も先に休めよ」
『了解! …艦長、あとで行く』
「あぁ。待ってるぞ」
ローカルスピーカでの艦橋とのやり取りが耳に入った。加藤四郎は入り口でそのまま、 悄然と立っている。

 「どうした、加藤。入れよ」
 古代進は向き直り、そら、とたまたま引き出していたテーブルの椅子を勧めた。
「はぁ…」
「もう、落ち着いたか?」
佐々は? と言外に言っている。
「あぁ。元気でシミュレーションルームに居る」
と答えると、ぷは、と古代は笑った。
「なんというか……たくましいな」
四郎も苦笑して。「あぁ、適わねぇよ」と言った。
 まぁ良かったよ、座れ。と言って。
そんなことで傷が癒せやしないのは二人共にとうに承知だ。だが。
いつまでも留まっていてはいけない――そう信じ、願い、前へ進まなければ。
その意思を持つ女だと信じられて幸いなのだ。
 「聞いたように戦闘はお仕舞いだ。…お前、一杯やってかないか」と誘う。
最近ないからな、と。それともほかに何か用事でも? と古代が問う。
その気持ちがありがたくて、それに少し飲みたい気分でもあった。
「ありがとう、ご相伴に預かる」
と言って座ると、古代はごそごそと操作盤の奥から日本酒を取り出した。
 「ありゃ、艦長。そんなもの隠してたのか」
「いやなに」と苦笑いして
「ユキに見つかると煩いからな」と片目をつぶる。

 ――ここで一人でいるとなぁ。
眠れないことがあるんだよ。星が見えるだろう……ヤマトの進む先も。
地球の時間は刻一刻と削られていき、人が死に、戦闘に巻き込まれ……可能性は どんどん少なくなっていき……迷わないといったら嘘になるな。と言った。
 ここだけの話だぞ。
お前だから言うんだからな、と古代は言って。
 「古代……」
四郎はその横顔に深い苦悩と孤独の影を見た。


 生活班員が夕食を届けてくれ去っていったあと。
少し滑らかになった口調で四郎は言った。
「古代――お前、いくつになったんだっけ?」
誕生日が自分と前後に近かったなと思った。
「俺か? 忘れちまったくらいだな」と自嘲気味の古代。「23だ−−。信じられねぇよな」 と言う。
「23か……」
普段、艦長として見上げている分には――僚機としてついて飛ぶ時には――そんなことも 忘れている。軍務に入ってわずか5年。その間、いかに重責を負い、 地球そのものの命運を負ってきたのだろう、この男は。
 「加藤は……19か」
20歳はたちになりましたよ」「そうか…」
 兄が死んだのが19の歳だった。
「兄貴の年齢を追い越しちまったな…」
同じことを考えていた。
「俺は……兄さんができなかったことを、やれているんだろうか」
お猪口を傾け、トンとテーブルに置いて四郎は言った。
「加藤――お前はお前、三郎は三郎だろう」古代も答えて。
「十分だ……俺はお前が隊長で良かったと思うよ」
大事な戦友だ、と、顔を上げて古代は加藤四郎を見た。
「古代…」

 1年前には。
 こんな風にタメ口を利きながら語り合うなんて考えられる相手ではなかった。
いつの間にか。共に飛び、共に部下を従えて――そして同じ娘を同じ戦いで葬り、いつの間にか。
加藤、古代と呼び合うようになり、古代の方も四郎の中に兄の影を見ることも なくなっていった。
 ――兄・三郎は大切な親友として古代の裡で眠っている。
けっして忘れることはない。命で購って、俺を守って死んでいったあいつのことは。
 だが。
四郎は今、そうして俺の目の前にいて、共に戦う仲間であり続ける。




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