新月倉庫YAMATO'−Shingetsu World:三日月小箱百題2006-No.78より

ship icon 数多あまたの星と


(1) (2) (3)





最初に、【ご注意】です。
オリジナル・キャラクター(佐々葉子)と島大介の話です。
2人がいい雰囲気(に見えるだけで別に何もありませんが)なので
そういうものがお嫌いな方、またオリキャラそのものが苦手な方、
お好きなキャラクターのイメージが壊れたり違うのが気持ちよくない方は
すみやかにページを閉じて、お忘れください。


ファンによる勝手な解釈です。
「それでよろしい」という方のみ、自己責任にて、続きをお読みくださいね。


それでは、お読みになる方は
短いお話ですが、どうぞお楽しみください。



【on the way to the Earth '2200】
:三日月小箱百題2006-No.78「星守」
『宇宙戦艦ヤマト』より




【気になるひと−−数多あまたの星と】


fish clip


= 1 =


 ごぉん、ごぉん……と時折、機関の音が響く艦底近くの通路。側面にある細い通路 は、艦尾へつながり、居住区の下を這って資材置き場や収納倉庫などがその先にある。 格納庫にもつながっていたが、走り抜けるには不便なためBT隊員で此処を利用する 者はさほど多くない。艦内を走る時に訓練コースに入れる程度だ。
 その側道に小さな展望室があった。もとは後方監視用の部屋で、硬貨テクタイトの 窓が上半分を覆う空間。そこに島大介は、時折やってくる。
――機関の力強い鼓動を聞いているのも好きだったし、去ってきた星を見ながらその 航路を思うことは少しの誇りを満たしてくれる。前人未到といわれた航路……自分た ちで切り拓き、ヤマトを牽引してきた航路を僅かながらも実感することができるからだ。
 特にイスカンダルを折り返し、目的物だったコスモクリーナーDのパーツを抱えて 地球へ向かおうとしている今、その航路は具体的なものである。この先にイスカンダ ルがあり、そこは自分たちが出発してきた場所だと思うと、特別な感慨があるのだった。


 そうして島大介には現在、別の物思いもある。――この旅のごく初期の頃……そう だ、再び近づいてきつつある運命のバラン星あたりで振り切ったはずの想いだったはずだ。
(……)
島はいつものように、その穏やかな黒い双眸で星の海を見上げた。
 コトン。
 微かな音がして、はっと入り口の方を見やる。といっても距離がそんなにあるわけ ではない。ひょい、と頭が見え隠れして、次の瞬間、するりと細い全身が現れた。 (佐々?――?)
 第一艦橋や第二艦橋にほとんど詰めっきりの航海長にしてみれば、めったに逢うこ とがない艦底をベースに外回りの仕事をする戦闘機隊員たち。だがたった2人の女性 隊員だ。伊勢と佐々はそれでなくとも両極端に目立つ人間だったので、島も最初から 意識はしていた。隊長である加藤は年は上だが訓練学校の同期で、親友というのに近 い親しい間柄だ。その加藤が可愛がっている(という風に見える)女。いつの間にか 話すようになったのは何がきっかけだったか覚えていない。だが話してみると案外、 話が合うことに気づき、イスカンダルの短くはない滞在の間にはわりあい親しく話す ようになっていた。
だからといって特別な感情を相手ささに持っているわけではない。そういう風に 意識するにはまだ、島には現実の想いが胸の裡にあった。


 「島?」
ひょこ、という感じで現れた佐々は、両手に紙コップを持っていた。
「なんだ? これ俺に?」こくりと頷く。
「さっき見かけたからさ――どうせ明日まで非番なんでしょ? 一杯やろうと思って 持ってきた」――美味しいわけはない自販機。いやこれは食堂で幕さんにきちんと淹 れてもらったんだな。ありたがくいただいてこくりと飲み込むと、旨いっと思わずも らした島である。疲れを取るにはこれが一番だ、なんて思い、感謝して佐々に笑いかける。
 よかった。そう言って頭一つ小柄な彼女は見上げるようにして笑った。それが妙に 印象的に思われた島である。
(なんだかかわいーんだよな、この女性ひと。年上のはずなんだけどね。)
 戦闘員としても十分コワモテだった。搭乗した最初の頃は、すれ違ってもニコリと もしない、軽く会釈するか簡易の敬礼をする程度――と男どもにも遠巻きにされてい た。皆、“ヤマトの女神”森ユキという存在が強烈だっただけに――その優しい微笑み にヤラれた男たちが多いだけに、極端に対照的な彼女は印象が強い。ましてや美人だ ――頬の傷さえなければ。無表情でなによりも目が笑わない女だなと島は思っていた。
 だがいつごろからだったろう。いくつかの戦いを経て、熱いマインドの持ち主と知 るようになり、それはBT隊や砲術の男連中を中心にいつの間にか周知となっていった。 今の佐々を“気難しい女”だというやつは居ない。まぁ ちょっかいかけて殴られたり投げ飛ばされたりした男どもがその分、増えていて。 彼女自身は相変わらず独りでいるのが好きのようだったが――平気で近寄せるのといえば 隊長&副官の山本と、宮本さんだけ。そして…。


 「なぁ、どうした?」急に黙りこくってじっと見ていたことに気づいてその声に島 ははっと佐々を見返した。ちょっと頬が赤い。
「――なんか、ついてる?」
天然ぼけなのか真剣にそんなことを言われると、ちょっとどぎまぎしてしまう。
「いや――」そう首を振ると、
「ふん」と口元で笑って、窓辺に並んだ。彼女も珈琲を口に運ぶ。「……それなら、いい」
あまり口数が多いわけじゃないんだろう。イスカンダルではけっこう話した気がしたがな。 あれはあの惑星ほしの開放された空気の所為だったか…。
 島は佐々の横顔を盗み見た。
 左側から見ると、やけどの跡が見えないためか、かなりの美形だとわかる。まっすぐ な瞳、通った鼻筋。鋭角な線を描く顎やするりとしたうなじ。唇の形。
――だが、あまり“美人”という風に捕らえる者がいないのは、その性格キャラ の所為なのだろうか?
 (この、佐々がねぇ……)
島が思うのは、親友であり現在はちょっぴり上官でもある古代進のこと。
佐々は、古代に惚れている――絶対に表に出そうとはしなけれども、どうもあいつを 好きらしい、と島は悟っていた。
 言動が反対に出る。意識するからだ。そうして古代の後ろにいる彼女は、生き生き と仕事をしていた。たとえそれが砲弾やエネルギー波を潜り抜ける戦場の宇宙空間で も、イスカンダルの平和で静かな夜でも。
 だが、古代進には現在いま――彼女ゆきが居る。


star icon




 
←新月の館  ↓次へ  →新月annex倉庫・扉

Atelier's_linkbanner

背景画像 by「Silverry moon light」様

copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2010. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system