blanc -10 for lovers

(b1-01)  (b1-02)  (b1-03)  (b1-04)  (b1-05)  (b1-06)  (b1-07)  (b1-08)  (b1-09)  (b1-10)
    
   

05  【 並んだ影 】

 俺は生活班員であることに、最近やっと誇りを持てるようになった。
 それは、先輩である平田さんや、幕之内さんが。艦長たちが命がけで敵と
交戦しているのと同じように、命がけで飯を作り、班員を叱咤し、朝早くから
夜遅くまで、隊員たちの生活を維持するために働いていることを知ったから。
 だから俺は。
 まずそこで一人前になろうと、心に決めた――もちろん、専門で学んで
きたことも合間を縫って鍛え続けなくてはならないから。
寝てる暇なんて、ないぞ、ほんと。

 生活班長は、全新人たちの憧れの的だ。
 美人で、優しくて、よく気が付いて――。最初に俺の名前を覚えていてく
れたことを知ってからは舞い上がってしまったんだけれど。
「ばぁか。乗組員のことを把握してフォローするのが生活班の仕事だろ?
全員のデータくらい頭に入ってるのは当たり前じゃないかよ」
と同僚の雷電に言われてしまって、そうか、とちょっと落ち込んだけれど。
それでも、毎日一緒に居られて、毎日その仕事ぶりを横で眺めていられる
のは、役得というものだ。
だから。
最初に「女の下でなんか働けるか!」と言って、艦長と殴り合いになったの
を、なんとか謝りたいと思っているんだけれど――班長にも。艦長にもだ。
 なんだか今さら、という気もして。

 きりっとして、いつもクールな横顔も素敵だが、それが笑うとなんともいえず
可愛い。
それはそうだ。
歴戦の戦士だといっても、たった幾つか年上なだけじゃないか。
まだ20代前半の……それに育ちも良さそうなんだよなぁ。
あの人が、イスカンダルまで行って、それにあのデスラーと撃ち合ったなんて、
信じられないよ。…というくらい魅力的だ。

 班長は、島副長と話しているのをよく見かける。最初は島さんの彼女かとも
思った――島さんには笑われちゃったけどさ。
多くは高嶺の花だと思って、遠巻きにするだけだけど、何人かがフリーなの
かと思って、あれこれアタックしたらしい。
玉砕報告は、逐一同期から伝わってくるから。
だってさ。同期で彼女に興味持たないのって、揚羽くらいだもんな。…あいつ、
どっかオカしいんじゃないか?
(揚羽の独り言――俺ぁ戦闘機乗ってる方がいい。それに、名前目当てに
近づいてくる女で不自由したことはないから、女は正直いって今のトコうんざ
り、なんだよ。それより艦長や加藤隊長に認められる働きのできる戦闘機
乗りになって、一日も早く、ヤマト戦闘機隊として恥ずかしくない男になり
たい、ってとこさ)だそうだ。



古代艦長と班長が婚約者フィアンセ同士だっていうのは、ごく最近まで誰もが
気づかなかった。旧クルーの間では周知で、南部先輩さんなんかは「あいつらが
イチャイチャしてないとヤマトらしくない」とまで言い切ってくれて。
「艦内でイチャイチャなんて…」と咎めると、「そういう雰囲気なのよ。目線と
か、ちょっとした空気とか」と言われ。
「お前、しばらく第一艦橋に居てみろ、よくわかるからな」と相原先輩さんまでが
言う。まぁ今回はあまり艦橋に艦長はいないから、それもなんだかちょっと、
なんだよな、とよくわからないため息をついて顔を見合わす相原先輩と南部
先輩は。はぁそんなものですか。
…ここの幹部の人たちってほんと、不思議な人たちだ。

 だがそう言われたって。
 森班長と話している艦長はよく見かけるけれど、いたってクールで、普通。
どう見ても恋人同士には見えない。……でも時々、俺は気づいてしまった。
班長が辛そうで。もしかして片思いなのかな、とヒトゴトながら心配で。
――だからこそ、僕だって、立候補したいと思ってしまう。
いや…マズいことに。だんだん本気になってくるのがわかるから。
 艦長――ちょっと班長に冷たすぎません? 本当に婚約者なんですか。

 そう言った若いもいたらしいけど。
 艦長は、きょとんとした顔をして、次にふっと笑ったそうだ。
「お前、良い度胸してるな――喧嘩ならいつでも買うぞ」
…って。そんな艦長って居るのか? まぁ乗艦初日に艦長と殴り合いした
俺もことは言えないんだけど。
古代艦長って、喧嘩好きなのかしらん? ううむ。わからない人だ。


 「あぁ! 16時までに第二艦橋に弁当届けないといけなかったんだ!」
ワープ1時間前までに食事は済ませておかなければならない。
特に事後忙殺されて食うヒマなどなくなる航海班の人たちには、これは必須
の俺たちの仕事。
――5人分の弁当を抱えて第二艦橋へ走り込み、汗を拭きながら食堂へ戻
ろうとした俺は、ふと目の前を行く後姿に、思わず足を止めた。
…別に隠れる必要もないんだけれど。
 側面展望室。
 見れば、艦長と、班長だった。
 ファイルを見ながらなにやら打ち合わせ――だけれど。
その後、班長が、ふと窓の外をみやり、目線をやると。
艦長がそれに、すっと横へ立って、同じ方向を見た。
すと伸ばした班長の手をとって。それに重ね、寄り添う。
シルエットが、重なった。
 班長の栗色の髪が、艦長のクセのある髪と一つになった蔭が、見えた。
 何を見ているんだろう――窓の外には暗い宇宙空間と…その先に微かに
白く、白色銀河。そして手前遠くには赤色巨星があると、先ほど聞いたば
かりだ。――それを、見ているのだろうか?
 肩を抱くようにして、微かにそれにもたれかかっている班長の。
並んだ影を見ていると。
なんともいえない気持ちになった。
安心したように。言葉も交わさずに。……ただ星を見つめる二人。
僅かの時間。

 二人の経てきた年月は――その4年。平穏とはいえない。
死地を潜り抜け、共に戦ってきた二人。俺には到底入っていけない世界。
でも班長。俺はやっぱり貴女が好きですよ。
艦長も好きですけれど――幸せになっていただきたいけれど。
だからその前に、艦長を超えられるような一人前の戦士にならなくちゃ。
…道は遠いけれど。

《ワープ、20分前。各人部署に着け――》
 島副長の深い声が、艦内放送で響いた。
 いけね。
 見つからないようにさっと引いて。急ぎ調理場に戻る。
準備もいろいろ済ませて、生活班へ戻らなければ。
ワープが終れば探査艇も出る。そうすれば俺も行かなければならない。

 ヤマトは銀河系中央へ向け、星の海の中を航行中だ――。

Fin


−−A.D.2203年『宇宙戦艦ヤマト3』
土門竜介、古代進&森ユキ in ヤマト艦内
count-002,20 May 2006
 
←お題dix扉へ  ↑4へ  ↓6へ  ↓noirへ  →三日月小箱へ
inserted by FC2 system