:三日月小箱「少し甘い二十之御題」より No.5-1
操縦席から見下ろす目の前をふい、と浮いたコスモ・ゼロが舐め、 一瞬浮くようにして切り込んで加速するのが見えた。
島大介は、目を閉じて腕組みをする。
(行け、古代――緒戦は、任せた)
「古代っ!!」
「ブラックタイガー、発進準備! 南部、各砲塔発射準備!!」
そう叫びながら古代はすでに駆け出している。
駆け出すおまえの背中を一瞬、横目で眺め、俺たちが言葉を交わすことは、なかった。
「仰角30度方向に、敵・3000! 来ます!!」
森ユキの声が響き、『島!』という古代の声が降ると、 南部・太田・相原と自動的にリレーションしたようにそれぞれの目の前のパネルが光り、指が走る。
ヤマトはぐいと力を得て、スピードを上げた。
あいつの背を追って、戦いに行く龍――それが、この艦だ。
古代の戦いが終わり、艦橋へ駆け戻れば自分の出番だ。
ワープだったり、艦隊戦だったり、ヤマトそのものを武器として、敵の前に立ちふさがる時、 俺はヤマトと一体になれる気がするのだ。 そうしてヤツも戦闘指揮席に飛び込み、南部から受け渡された阿吽を引き継ぐと、 ヤマトの中に身を修めるように見える。
「古代!!」「――島……?」
一瞬、ヤツが怪訝な顔をしたのに、自分で気づいたかどうかわからなかった。
何故俺は、走り出したんだろうな、ヤツの隣を。
「艦長!」沖田さんに告げ、真田さんと太田の頼もしい目線に支えられ、俺と、相原は、 甲板に続く通路を走った。
古代――駆け出すお前の背中が、今日ばかりは遠かった。
加藤が走り、古代が去る。
「島。ヤマトを動かしてくれ――コスモタイガー、発進だ」
「わかった……」
目は霞み、足元がおぼつかない――だが、自分のやるべきことは、艦橋にあるのだ。……それと、 お前の背は――護れたのかな?
ヤマトは、お前自身だから……古代。
それからのことは混乱と喧騒の中だ。
ヤマトは口を開け、そうして発進した――それで、いい。
艦橋の入り口から古代が駆け込んできたのを、どこか遠くで聞きながら、逢えたな、 と思った。てのひらの温度が、急激に重くなっていく自分の体を支える。
ゆき、そして古代――。
悪くない人生だったな、と俺は思っているのだから――泣くなよ?
金色の光がチラリと光った。
そうか。――この艦も逝くのだな、だから、待っていろと。 そうだ――君の許へ行くのはもう少し延ばすとしようか……どうせこの先。 ずっと一緒にいられるのだから。
古代。
お前の泣き顔なんて見たのは何年ぶりだろう。がんばって、生きろよ。
こんな中に置いていく――すまんが、任せたから。いろいろ。
西暦2204年――太陽系へあと1ワープの宙域。ヤマト航海長・島大介は逝った。
地球は、水没を免れ、許の緑の息吹を取り戻しつつある。
【Fin】
――06 Feb, 2011