air clip 命の果てに。

・・on the Dingill, 2204・・


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【11.たとえ間違いだとしても】


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:三日月小箱「少し甘い二十之御題」より No.11



 地上に雨が降った――。
 これ以上、ないというほどの勢いで。
 海は荒れ、低地は浸水し……そして雷が襲い、雲が地上を覆い尽くした。


 これは涙の雨だろうか。
 地球そのものの――そしてあの艦を知る人の。
 あの艦に乗って、逝ってしまった人たちの――。


 豪雨は収まり、その命がけの水柱で、新しい月が生まれる。
 水と氷の矮星。
 その中には尊いいくつもの命が包括され――そうして地球をいつまでも見守っているのだ。



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 「島、行くぞ!」
通常ならあり得ない声のかけ方をしたのは何故だっただろうか。
思えば学生時代は常に2人で修羅場を潜り抜けてきた。
――いま彼は副長であり、航海長だった。席を外すわけにはいかないのは周知――そして、 その席を守ろうとするのが彼だったのに、俺は自然に声をかけていた。


 その人工惑星の上。
 強引に、建造物を打ち壊しながら、まるでのたうつ蛇のようにヤマトは互いの身を削りながら着艦した。
 島は渾身の力を込めてそれを行ない、ヤマト済まない、と苦しげな表情を見せた。


 敵の一隊が、信じられないほどの迅速でヤマトへ押し寄せていた。
 甲板によじ登る、というよりも飛来する円盤状のものに乗り、またロボットホースとでもいうようなものが、 駆けるというよりもほとんど飛ぶように攻めてきた。この敵に少なくとも臆病とか慎重という単語は当てはまらないらしい。 皆、隠れるものもない騎乗機に単騎で乗り、果敢に攻めてくる。
 ――このままでは。


 「行くぞ――加藤っ、溝田っ! コスモタイガー、白兵戦だ。迎え撃て!」
 伝声管に怒鳴り様、南部を振り返ると、砲術班長はすでにいくつかの砲塔にだけ待機を命じたあと
「全員、甲板とヤマトへの内部侵入経路を守れ! 出るぞ」
と指示を飛ばした処だった。
 南部と目を見合わせ、エレベータへ走ろうとした。
 島、そして相原が、迷いもなく席を立ったのに一瞬の疑問が頭を掠めたが、まるで当然のような所作に、 気持ちの方が逸っていたのかもしれない。
 並んだところで声をかける。「――島、お前は」
行くぞと言っておいていまさらだが、操縦席を目で示して問いかける。
島は俺には答えず、「艦長!」と見上げた。「――行かせてください。この勢いでは、艦橋も」。
 横で相原が頷いた。普通なら先に飛び出しかねない真田さんと、太田が頷き、親指を立ててみせる。 艦橋は死守すると無言で伝えてきた。
 沖田はゆっくり頷いた――古代を目で見て。お前の判断に任せる、とでもいうように。


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 相原と島の銃の腕は――そりゃ南部や俺とタイだとは言わないが、通常の戦闘員レベルを凌駕する。
 だが、白兵戦となると、どうか――。
 相原とは同じ作戦に投入されることも多かったから、何度か現場で戦ったこともあるし、 惑星上での戦闘で修羅場も潜っている。通信員にしておくには惜しい――というか、現在の地球上に、 こんな通信員は存在しない。生活班のリーダーたるユキもそうだが、それだけヤマトは特殊な艦なのだ。


 島は、俺と共に戦う時はするりといつの間にか背後に滑り込む。少し背を低くして、 ごく自然に……もう何年もの昔は、そうやって当たり前のように互いの背を預け、 ――シミュレーションだけではあったが――戦ってきたはずだった。
 火星の訓練の時は――航法も砲術もない。島も俺も、同じスペースコマンダーだった。
 ヤマトに搭乗してからか。互いの役割が分かれ、島が銃を握らなくなったのは……だが1度だけある。 デザリウムに降りた時だ。あの時も島は迷い無く艦を真田さんと太田に預け、俺の横を守るように降りてきた。
 甲板で、そして今。いつの間にはやつはその姿勢を取り、俺は安心して走った。


 だが。
 艦長代理であり、戦闘班長である俺がしてはいけないミスだった――。戦闘のことだけ考えれば良い。 ――艦長時代なら冒さなかったミスだろうか……戦闘班長である。そこに徹すれば良いと思い込みすぎ、 沖田艦長や、副長でもあるはずの島に甘えがあったのだろうか。
 島がいるべき場所は、そこではなかったと。
 何故、すぐに気づかなかったのか。


 交戦に出た相手は将らしき者が率いており、その堂々たる様(さま)は賞賛に値した。
 ともかく犠牲をものともせず積極的に攻めてくる。ヤマトのメンバーもさすがで、動きは俊敏だ。
「行け! 時間がない、守るんじゃないぞ、倒せ!」
 古代進らしくない――というか限りなく俺らしいというか。 まるで時間があの18の頃に戻ったとでもいうように、俺は、戦闘隊長だった。


 宙を飛ぶ敵が甲板を掃射し、俺たちは分散させられて物陰から機会を窺った。
 一機撃ち落した直後にもう一機が反対方向から背を襲い、どん、という衝撃に驚くと振り向き様に島が撃墜した――のだったろう。 さすがに南部、相原も隙なく、だが出るに出られないでいる。
 加藤たちコスモタイガーも合流し、俺は俺たちを狙っていた一団を身を投げ出して撃墜し、甲板を走った。


 「加藤っ――」
「戦闘隊長っ!」
「ワープまで時間がない――コスモタイガーを発進して、叩くぞ」「了解っ」
 銃弾の中、再び格納庫へ向け、走る加藤四郎。
そして。「島――戻ってヤマトの発進口を開けてくれ」
「了、解――」
 その声が通常でなかったと、何故あの時気づけなかったか。
 甲板には加藤と俺、島の3人しかいなかった。攻撃に出る俺たちのあとに、島だけが残ったのである。


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 ――そして、ヤマトは発進に苦労していた。
 それはまるで、瀕死の蛇が苦悶に喘ぐかのようだった。
 俺のコスモ・ゼロだけはカタパルトからするりと飛び出し、ようやく土中にめり込んだヤマトの艦体がコスモタイガーを吐き出した時には、 ただ目の前の時間を止めることしか頭になかった。
 ヤマトの体の中で、何が起こっていたのか……俺は、知ることがなかった。


 艦橋の異様な空気は、誰もが必死にそれを耐えていることを示していた。
 まだ戦いの最中である。
 そうして、あいつは、逝った――まさか、だった。
 一度死にかけた命をつないだ時、あれほどの慟哭は俺にはなかったはずだった。
 何故だ――何故なら。
 今度こそ本当に、あいつは逝ってしまったからだ。俺の手を取って。


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 そののち――俺は何度も問いかける。
 “俺のミスだ――俺が間違ったために、お前は死んだ”
年若い弟が言った。
 “古代さんはもう、罰を受けていますよ――兄を失ったことが、それでしょう”と。


 何故、逝ってしまった。
 莫迦野郎と言いたいのは、こちらの方だった。


 たとえ間違いだとしても――あの時は、あれは。島の意思だったのだ。
 そうしてそれを受け入れ、判断したのは、俺。戦闘班長であり、艦長代理だった古代進・ 俺自身だった――艦長の沖田さんではなく。
 また同じ場面があれば、俺はどうするのだろう。
 首を振ってそんな想いを消したことが何度あったろうか。


 中空に浮く、水と氷の星を眺め。
 まだそこに捉えられているあいつの魂を、思う――いや、捉えられているのは俺自身なのかもしれない。
 島――会えたのか? 永遠の、恋人と。
 お陰様で、俺たちは幸せにやってるよ、お前が言った通りにな。


 お前は許してくれたのだろうか。
 いや。許されようなどと思っちゃいない、その方が気楽だ。お前は、島大介で、俺は古代進だからな。
 ……
 「――古代。お前は大莫迦野郎だけどな。肝心なとこでは絶対間違わないからな」
 リーダーとして認めてやるよ、と訓練行軍の時、言われた。
 「――古代。お前は情けないヤツだけどな。いざって時はお前に預けたからな」
 だから、艦長なんだからな。
 「――古代。俺がいなけりゃ、ヤマトは動かんだろ? ん?」
 だから、安心して飛んでって戦って帰ってきていいぞ?
 「古代、行け!」
 援護はしてやる。任せておけって。
 「古代」……こだい……。
あの、島の声はもう聞こえない。


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 雨だ――恵みの雨か。
 俺たちの、あいつの命の雨だ。
 地球は、よみがえったよ――俺はこうして間違いを積み重ねながら、それでも逃げようとは思わない。
 いつか星の海で、お前と逢った時に。
 ……せめて殴られないように、頑張るから。



 しま――。
人は何故、間違うのだろうな? …いや、人だからか。
 地球の雨は現在いま、とても優しくなった。もとのようにだ。


【Fin】
――元原稿「On the Dingil:雨」より、改稿 31 Jan, 2011

=あとがき #11=
 
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この作品は、TVアニメ宇宙戦艦ヤマトの同人二次小説(創作Original)です。

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