>YAMATO'−Shingetsu World:KY題100(KY・No.12)より



butterfly clip そらで見た夢


・・お母さん・・


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【はじめに】

2007年に書き始めて放置されていた"御題"でしたが、初心に還ろう
ということで私がそもそも"ファンになった"きかっけである
「ラジオドラマ」をベースにしました。
"お母さん"は、守jr.にとっての母・ユキであり、
進にとっての母です。

尚、本編科白(台本)の一部引用がありますことご了承ください。
例によって著作権侵害の意図もありませんし、ファンによる二次創作 ですので、ご承知いただければ幸いです。
親子・設定等は、当艦(Shingetsu)その他Originalです。
−−綾乃・拝



S-Y100 No.12 【お母さん】
ラジオドラマ『宇宙戦艦ヤマト』よりSide Story
――A.D.2199年9月/A.D.2209年8月、地球



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= 1 =



 『天国にいるお父さん、お母さん。もう一度、話し相手になってください。頭が冴えて、 眠ることができません。だからこうして日記を書きながら、お話をすることにしたんです。
 西暦2199年9月6日、つまり明日あす。 僕は戦闘隊長として宇宙戦艦に乗り込み、14万8000光年の彼方にあるイスカンダル星へ 飛び立つことになっています。……まだ誰も行ったことのない14万8000光年の星の彼方へ。
 イスカンダルなどという惑星ほしが本当にあるのかどうか、 生きて地球へ戻れるのかどうか。皆目見当がつきません。しかし、今日から1年以内に イスカンダル星を見つけ出し、そこの女王・スターシアから“コスモクリーナーD” という放射能除去装置を受け取って来なければならないのです。
 もし1年過ぎてしまったら、地球に充満した放射能は地下都市まで冒し、人類は 絶滅してしまうでしょう。――あと1年。
 僕は今日から日記をつけて、天国のお父さんやお母さんとお話することにしました。 こうしている時だけが心の安まる時なんです。兄さんも死んでしまった今、僕は一人 ぼっち。話し相手なんか居ないんですから。……』



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 古代進は暗い宇宙空間をただひとり見つめた。その戦闘指揮席から――。
 艦橋に映る空は地球の閉ざされた赤に比べればまだその先の拡がりを示唆するもの だったが、古代の瞳にはそれすらも映っていたかどうか怪しいものだった。
 彼はただ、ただ独り――この巨大な戦艦に乗り、宇宙の果てへ旅立つのだ、という くらい情熱に閉ざされていた。胸の中から湧き上がってくる怒りのようなもの。
そうしてそれとは裏腹に喜びに沸く艦外と地球の地下都市でのパレード……。
(そんな、場合じゃないだろうっ!?)
 拳を握り締めた古代は、その時18歳。――人々がどのような思いで明るくふるま い、最後のエネルギーを振り絞って彼らを遥かイスカンダルへの可能性1%の旅へ送 り出したか、理解わかってはいない。
 その傍らで幼い弟に贈られたレイをパネル上に置き、新たな誓いを胸にしている親 友・島大介もまた、別の意味でそんな状況を斟酌できるほど大人ではなかった。


 ただ1人――岩のように寡黙に、頭上からそんな若者たちを見やる艦長・沖田十三 の目には何が映っていたことだろう。青い矢印のついた制服に身を包み、テキパキと 出航のギリギリまでを操作に余念のない真田志郎は、今はまだ皮肉な表情を貼り付け て若者たちがぎこちなく、だが肩に力を入れて部署に付く第一艦橋を眺めつつ作業に まい進していた。


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 そうだ。
 あの頃、俺は何もわかってはいなかった――。
だが。何をやるべきかはわかっていたと思う。あの戦闘指揮席に座り、ヤマトを動かし、 ガミラスと戦って、地球を救うのだ――ただ、何ができるかもわからぬまま。
 何があってもできることは出来る限りにこなせるよう、あらゆる訓練を受けた結果の俺たち。 俺や、島や――相原や太田や南部が。そうしてそれを支えるべく徳川さんや真田さんが、 そうして森ユキが。力を尽くして戦い、旅を続けたのだ。
 あれから10年が過ぎた。
――慰霊祭が行なわれることになっている朝だった。
(島――。加藤……山本。……斉藤。徳川さん――)そして。
(……沖田艦長)


 引っ越すことを決めてから整理していた僅かな荷物の中から、大切にしまわれてい た日記を取り出した。あの戦いにも失われず残っていたのが奇跡のようなもので、 その時に刻まれた18歳の自分の軌跡を拾い読みし、大人ぶり立場上も突っ張らざるを得なかった 外見とは裏腹に、少し幼いくらいの自分の軌跡がある。
 初心に還るとはこのことか――と思う古代なのだ。


 (“お母さん”……か)
ふっと笑う心地になる。
その言葉の懐かしさに、つ、と胸が痛んだ。
 故郷の村に新しく墓所が作られ、戦没者を中心に村の人たちの墓地ができたのが5 年前のことだ。古代も其処に一家の墓を買い、墓参してきた。ようやく父母に落ち着 いてもらえる場所が出来――地球が本当に平和になった、と思えたからだ。


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 「パパ? ――あのね? 入っても、いいかしら」
開け放したままの書斎の扉のところに、5歳の息子が立ってこちらを見ていた。
“お父さんが何かやってらっしゃる時は、邪魔しちゃいけません――”
母親ゆきに厳しく言われているためか、駆け寄って背中に飛びつこうか、 それとも大人しく去ろうか、迷っているのだ。
 「守、おいで――」
くるりと椅子の向きを変え、満面の笑みを湛えて手を広げると、彼は安心したような 顔をして、ととっと部屋を横切り、ぽふん、と父親の腕の中に納まった。
「もう“ぱぱ”じゃないだろう?」
柔らかい声でくるみこむと、息子はうんっと言って顔を上げ、言った。
「お父さん――お邪魔しちゃってごめんなさい?」
ああいいさ。頭を撫で、まっすぐ立たせるとさらに柔らかい笑顔になる。 ――俺はどうも、この子に甘いな。


 たまにしか会えない。いつも雪に任せっぱなしで、俺は宇宙に出っぱなしだ。だか らたまに帰ると
「もうっ。私が何を躾けてもぜぇんぶ進さんが甘やかしちゃうから、ダメじゃないっ。 ……あとで憎まれ役になるのは私ですからねっ」
と雪がぷりぷり言うことになるのだが、それでも
「まぁいいわ……たまにしか逢えないのですもの。それに、守はとってもお父さんが 大好きなの。本当に、そう・・なのよ」と雪は笑う。 「だからお父さんがしちゃいけない、と思うようなことは絶対しない子なのよ」
そう言う彼女に全く頭が上がらないなと彼は思っている。
 父親の大きな胸の中から伸びをするように机ににじり寄ると、
「ね? 何見てたの?」と訊く。おやおや、好奇心旺盛だな。
 守の伸ばした手の先には先ほどまで古代がめくっていた日記のページがあった。


 「――ん? これはね。父さんが最初にヤマトに乗った時の記録だ」
「最初に? ヤマト? あ。イスカンダル!」
「そうさ。イスカンダルに行った時、父さんはまだ18歳――学校卒業したばっかり で……一人ぼっちだった――独りぼっちだと、思い込んでいた」
へぇ、と目をみはる息子は、父親にそんな少年の頃があったことなど想像ができない。
「ん、と……大事なものなんだね?」
そうだよと頷きながら頭に大きな手を乗せる。
妙なところは聡いこの子は、父親の胸の中にある想いももしかしたら知っているので はないかと思うことがある――いやこれは単なる親莫迦だろうが。


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 「――お父さんの、お母さんのお話、してくれない?」
守はそこが気に入ったのか、父のイスの横に座ると、また机の上をみやってそれを読 みたそうにした。文字を覚え始めていた。人口の激減から就学年齢が引き下げられた ため、守は今年、エレメンタリー校へ入学した。私学を勧められたが迷った末、入学 させたのは公立の学校だ。
 “ヤマトの子弟”“艦隊司令の息子”“地球の英雄の後継”――そんな雑音が この子を歪めない環境を心底望んだが、いずれその洗礼は受けるのだ。
早いか遅いかの違い――学校見学には進自身も行って決めた。公立校は特に何をして くれるわけではないが、躾と、環境と、カリキュラム。そうして校長以下先生方の人 間性。そうして官舎からさほど遠くないこと――校長先生(女性だったが)が見学の 日、自ら校門に立ち、生徒一人一人に挨拶をさせ、また来校者に頭を下げていた。 その姿を見てそこに決めた進である。
 官舎から近いことは当然、同じような環境の子どもも増え、軍人家庭が同級生にも 増えることになる。――父親の職業が影響しないといいけどな。早くも先回りした心 配を持ってしまう若い父親だった。


 守は好奇心旺盛な目で、そんな進の心中も知らず、父親を見ている。
「ん? お父さんの、お母さんか?」
「うんっ。うちのお母さんはとってもきれいでしょ? お父さんのお母さんもキレイ で、優しかったの?」
彼はふと記憶の底を辿った。――優しかった母さん。平凡な女性ひと だったと思うが……そうだな。村の人もよく慕って、俺にはとことん優しかったな。
 「あぁ……そうだな。優しくて、世話焼きで。いつも父さんを手伝ってたな」
古代は少し遠い目をして、平和だった三浦岬の村での日々を思い返した。


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