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【To Iscandal's navigation, 2199】
:古代進と雪の100-No.88「自棄酒」
『宇宙戦艦ヤマト』より


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= Prologue =



 (ち、くしょう……)
 ドン、と壁にその骨ばって力のある拳を叩きつけると、島大介は ぎりぎりと奥歯を噛み締めた。ドン、ドン、と何度も叩くとさすがの 装甲の艦も揺れるような気がする。
もちろん実際はそんなヤワなものではないのだから、ビクともしない、 その揺るがなさ加減がかえって悔しく、彼はまた
(ちくしょう!)
と口の中でつぶやいた。
 だいったい。鈍いにもほどがある! なんで、あいつなんだよっ!!  そして、何故、彼女なんだっ――ほかの相手なら、そりゃ親友だ、心 から祝福してやるというのにっ。


 はぁ…。
 壁に背を預け、ずるずる、とその場にへたり込んだ。
(力抜ける……ぁぁあ)


 こんなにメゲた気分になったのは久しぶりだ。喧嘩で殴り合いして 負けたあとも(しかし俺の方が今んとこ勝ち越しだからなっ! 古代)、 将棋で負けたあとも(たいてい俺が勝ってるけどさ)、こんな気分に なったことはなかった。だけど、だ。
 決定的だろうよ。
 あいつがまだ迷っていたとしても、彼女の方が明らかにあいつ に……ええい、ちくしょう、ちくしょうっ! 何が負けてもこれだけ は負けたくなかったぜ。


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 島大介が森ユキの古代進への想いを察したのは、ひょっとしたきっ かけだった。
 そんなに新しいことではない。だがまだ巻き返しのチャンスはある と思っていたし、てっきり古代と自分が彼女を好きで……そうして 俺の方が少しリードしている、くらいには思っていたのだ。
 彼女は誰にでも親切だし優しい笑みを向けてくれる。艦橋の同期の 連中には本音でぶつかってくることもあり、一所懸命に務める彼女に、 いつの間にか“美人で気立てが良い”だけでない、同志としての尊敬 や共感も持っていた。誰もが彼女に憧れ……そうだ。南部や太田だって、 口には出さないまでもその気があるのはミエミエだ。


 だが一番のライバルは絶対に古代あいつで、 一番、表に見せないのもあいつ。だが、伊達に長年親友やっているわけ じゃない。冗談に隠したあいつの本音は、最初の出会いの頃から丸わかり だったし、俺の本音がバレないように、そうしてユキにはそれとなく 伝わるようにしてきたつもりだった。
 俺や加藤には本音めいたことを話すし、一番気の置けない仲間だと 思ってくれているという自覚はある。だが、それらしいことを仄めかす といつも柔らかくはぐらかされていたし、それならば機会を見て真剣に 告白するしかあるまい、と思い定めてまだ日が浅い。それに使命半ば だ――俺にだって立場があり、彼女や古代だって同じ想いだ。もし 何か事を起こすとしたらイスカンダルからの帰路しかあり得ない……し かし彼女があんなに真剣だとは。人の気持ちは止められないのだ。 もう、遅いってことか……ちくしょう。


 艦内時間は深夜に近い。当直以外は寝に入る時刻で、こんなところで 航海班長たるものがうろうろと醜態をさらしているわけにはいかない。 しかし自室で暗くなってるのものな……。
 島はふとあることを思いついた。


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