>YAMATO'−Shingetsu World:KY題100(KY・No.91)より



air icon 決意。


・・誰にも負けない・・



chapter-15 (91) (90) (88) (94) (49) (68)




『宇宙戦艦ヤマト』Original
「古代進と森雪百題-No.91」より
−−A.D.2196年


【誰にも負けない】


bluemoon clip


 島大介が部屋に帰ってきてみると、真っ暗だった。
鍵が開いていたのだから同室の相棒は居るのだろうと思ったのでびっくりした。
「――おい、ススム? いるのか?」
もぞり、と暗い中から動く気配がして、ぼそぼそと何か言った。
「明かり、点けるぞ? 飯行かないのか? それとも具合が悪いの?」
そう言いながら点灯し、あ、もしかして本当に具合が悪いのかなと心配する大介である。
「あ、いや。おかえり」
古代はベッドに寝転がっているわけではなく、自分の机に突っ伏していただけだった。も っそりと顔を上げると機嫌の悪そうな顔が覗いている。
「――なんだ。宿題やってて寝ちまったのか?」
その日は航海科志望者のレクチャーがあって古代たちは先に解散になっていたのだった。
「なんだよ、らしくねーな」と島。「飯に行こう? 腹減ると余計元気なくなるしな」
な? と明るい目を向けられて、あぁと古代は椅子から滑り降り、ポケットに手を突っ込 んだまま部屋を出てきた。


 並んで通路を食堂の方に歩く。
「――結構面白かったぞ。宇宙って広いよなぁ……まぁ当たり前だけど。まるで未知だと 思ってたんだけどさ、案外、銀河系地図ってあちこちわかってるとこ多いのな」
ふだんは何かあった時に古代の方が饒舌で、好奇心旺盛で、はしゃぐ。だがさすがに島は 自分の興味分野だけに興奮を隠せず、
「あぁやっぱ戦艦パイロットかなぁ。航法と航海士と、どっちがいいかなぁ」
などとうそぶく。
 「――大介。お前、戦艦乗って戦うんじゃないのか」
 ふと足を止めて古代が思いのほか暗い声でつぶやいた。
え? と立ち止まり、一種剣呑な雰囲気を感じた島は振り返る。
「なんだ? まだそんなのわからないじゃないか。俺たちまだ1年だぜ? いろいろ興味 持って調べておくのが必要なんじゃないのか」
と穏やかに言われて、あぁまぁそうだけどと口をつぐむ。
「どうした、進。お前、今日はなんかヘンだぞ」というのに「なんでもない」とかぶりを 振り、先行くぞ、と足早に行くところがすでにヘンだった。


star icon


 古代は好き嫌いはしない。苦手な食べ物はあるようだったが、それは古代が幼い頃から 自然の豊かな土地で暮らし、海のものも山のものも天然のパワー 溢れるものを食べるという現代人にはかなり贅沢な舌を持っている所為だと最近の島は察していた。 島自身は都会育ちなので、加工品であろうが現在の統制品であろうが、何でも抵抗がない。 だが古代は、時折、食事を眺めて無表情になることがあり、やおら決心したように口に運ぶ。
しかし一切の文句を言わなかった。
 食堂の幕の内さんとはとある事情で俺たちはすぐに仲良くなった。その所為もあるかも しれない。工夫され力のある料理は、量だけでなくこの閉ざされた地球で、精一杯の若者 たちへの栄養と望みを託されたものだ。それも俺たちはわかっている。
――もちろん、偏食はそれだけでも軍の末端組織である此処では“矯正”の対象だったが。


 古代はかたきでも睨むようにその日のB定食を睨みつけると、 ばくばくと食った(ちなみに島はA定食を食した)。
それからとっとと食い終わり「ちょっと、食ってて」と言うと厨房へ行き、窓口の人と なにやら話し込んでいる。揉めているというほどではないが、
「古代くん。そ……はメディカルセンターと相談してから…」というような声が切れ切れに 聞こえたかと思うと、また無表情のまま古代は、席へ戻ってきて島の隣へ座った。
「どうしたんだ?」ごちそうさま、をしてから島は古代に問いかける。
なんでもない。古代は追加で買ってきたパックの牛乳もどきを飲みながらそう言った。
――そんなはずあるか。部屋に帰ってからキッチリ聞かせてもらうからな、と島は言う。 ……毎日毎日が積み重ねと体力・気力の勝負という日々だ。溜め込むことは何より良くな いんだから。そのために、俺や仲間たちがいる――。
 古代進の孤独は、同室でいればそれまでにイヤというほどに知ることになった島である。 健康でタフではあったが高熱を出したことも二度ほどあり、過去の罹患暦も周知している。 兄の古代守先任から頼まれ、また自身の両親も息子のように心配している相手なのだ。だ からこそ、放っておけない。


star icon


 食後にその日の課題を片付けてしまうと、どさり、と古代進はベッドに体を投げ出した。
いつもに似合わず、蓮っ葉な雰囲気が漂い、島はやりかけのデータを仕舞い、イスをくる りと振り向かせた。
「……なんだよ。俺のことなんか気にせず、やったら」突き放したような物言い。
 古代は時々こんな言い方をする。ふだんはなつっこいくせに。ときどき。――それはと ても気になる島である。
「進――何かあったのか? 腹壊したとか具合悪いんじゃなさそうだから安心したけど」
「ふん」古代は頭の上に腕を組んで顔を逸らせた。「余計な、お世話だ」
 島はわけがわからない、といった顔で古代を見返す。
「誰かに何か……言われたのか? また成績のことか!?」


 首席で入学した島はもちろん、次席で体技成績は抜群だった古代進の2人は、入学2週 間目にして全学に名前を知られ、そうして同期からは追い抜かれる標的(ターゲット)と なった。――此処ではすべての試験:小さなペーパーテストまで、の成績がその都度発表 され、公示される。だから自分の位置づけや役割が自ずと見えてしまうのだ。その中で、 努力すれば上昇することも(まだ)可能だったかわりに、それでも届かないという想いを そのうち味わうことに(一部の者は)なるのだった。
 だから当然のごとく、陰湿な人間関係が形成される温床も十分である。
 島や古代の第四期生は、戦時徴収で全国から集められた最初の世代だった。それだけに 優秀で、コンセプトが他と異なるとも影で言われている。中でもその首席を張る島と古代 は必然、注目されてしまう。
多少のことは彼ら自身と――入学早々にできた仲間たちで跳ね返して痛痒も感じないが、 案外にセンシティヴな古代や相原は、もっと別の――何かそういったダメージを受けるこ ともあるのかもしれなかった。
 島は、自分が案外図太くできているという自覚がある。それは後付けの性格ともいえて、 10代半ばとはいえ自分で作ってきた性質である。感覚のセンサーが鈍いつもりはなかったが、 おそらく素のまま育ってきたに違いない上、直近に大きな傷を負った(に違いない)古代 の方がナイーヴだろうと想像もしていた。


 「進――どうした?」
島は自身も課題を放り出すと近寄ろうとした。すると「File・MiddleのRed」。
ぼそりとつぶやくように言って、あぁPCにつながっているローカルサーバだと思う。ふい、 と起き上がって背を向けた古代は、そのまま「Susumu Kodai。・・・xxx3789xxx」
「おい、進…」
 いいのか、と島は思いながらそのままPCをダウンするのをやめて言われたままを打ち込 んだ。――古代の身体データ!? それと……おい。こんなの俺が見ては。島はさっと目を走 らすと古代を凝視した。
「いい――それの、**値と++値……」
そうだけ言うと、古代はまたごろりとベッドに体を投げ出した。

 躊躇しながら好奇心には勝てなかった。
 たいていの公開されているファイルには目を通していたし(これは島のシュミであって、 義務でもなんでもない)、個人データも抵触しない限りは興味のある人間についてはさらっ ている島である。下世話な趣味があるわけではなく――“知識を得ること”それと好奇心 は親和性があるし、また人にも興味があった――まぁ必要最低限だけどね。
 それは個人データで、普通なら保護者と担当教官以外は見ないものだ。
「――この、何が気になるんだ」もしかして、宇宙戦士として不適格!? 入学試験に通っ たばかりで、それはあり得ないはずだったし。
 「――同期、俺たち何人いる」
「154人だろ?」するりと数字が出てくるところが島である。 「あぁ……俺の、身長」「あぁ。163cm――だな」「153番目、なんだそうだ」
「へ?」ちびだっていいたいのか? 自慢じゃないが俺だってさほど背は高い方じゃない。 164cmで、進とは1cmしか違わないし……だけどな。
「だって! まだ俺たち14だぜ? まだまだ伸びるだろ?」
「……」うんとかあぁとか言ったのかもしれなかった。


 島はPCを落とすとベッドの古代の隣へ行き、自分も座り込んだ。
「おい、進。なに莫迦なことで暗くなってんだよ――」
「体力指数も弱いって」「――だって、十分タフじゃないかよ、お前」
「数値の問題……無理しないでゆっくり力つけていかないと再発する可能性があるっていわれた」
「誰に」「ドクターと、副校長」「!」
 あぁ、それでか。今回、僅か2科目だけど進に抜かれた。それのお褒めでもあって呼ば れたのかなと思っていたんだ、俺は。――要注意、ってことか。だがそれで放校や転科の 勧めがないってことは――こいつ、よほど期待されてるな。
 逆の意味でライバル意識がめらめら、と燃え上がるような気のする島である。
 そんな親友の内面など気づかず、ひたすら暗くなる古代。
「だから、なに? 牛乳回してくれっての?」
「――」図星だったのか、少しうつむき加減が単純で可愛いぞ、お前。
「腹壊すからやめろ」
「うっさい」振り切るように古代は向こうを向く。


star icon


 「なぁ。……少し走る量増やそうか?」
島はふと思いついてそう言った。「筋肉増強すれば体も重くなるし、体力もつくだろ? 走 るのって基本だしさ」「――そうかな」
 外を走るのはすでに現実的に無理だから、訓練学校内にはマシントレーニング・システム は豊富に設置されていた。朝晩の教練のほか届け出れば自主練もできたし、まだ訓練学校 のシステムそのものに慣れている最中の古代や島たち新入生は、毎日の課題をこなすので 精一杯の時期である。
 「勉強もやり、シミュもやり。雑学や知識も増やして――たいへんだけどさ」
「大介…」
「一緒にやれば何とかなるよ。俺もつきあうからさ」
「――お前、いいのか?」
だってそれって俺のためでもあるんだぜ? 島はニヤリと笑った。 「航海科へ行くかどうかだってまだ決めてない。戦闘指揮官もいいかと思ってな――それに、 戦闘機飛ばすのも、好きだぜ? 俺」
島は不敵にそう言い、古代の負けん気は燃え上がったかもしれなかった。
 がし、と体を起こして島の肩を掴む。
「――そんな、単純なことで。うまくいくかどうかはわからないけど」
「心配すんの、やめようぜ? どうせ背なんか伸びるし。俺は、あと10cmは行くと思って んだけどな」
「10cm? 180くらいは欲しいぞ」
「う〜ん。守さんくらいってこと?」こくりと古代は頷いた。 古代進にとって“スペースイーグル”兄・守が常の目標であることは周知である。
 「単純だけど継続すんのは大事だ。……どっちが先へ行けるか、競争だ」「あぁ」
「……だから、無理すんな」ふい、とそう言った島に、古代が驚いた。
「――大介」
 「無理したって焦ったってロクなことにならない。……確かにもう敵は頭の上に迫ってる けど、俺たちまだヒヨっ子だ。できること増やして、何でもできるようになって。生き延 びて、戦って――勝つために、さ」
「……お前、たいしたやつだな、大介」
「そうか? ――俺だって、思ってんだぜ?」


 誰にも、負けない


――声がハモった。
 あはは、と2人は笑い転げ、ベッドから跳ね起きる。
「まだ、消灯まで時間あるよな」「まだまださ。風呂、今日はそっちの班だろ?」
「あぁ――それまで、行くか?」「おうっ」
 2人はトレーニングウエアを引っ張り出すと、廊下へ飛び出した。


 古代進・島大介、ともに14歳。――少年宇宙戦士訓練学校、新入生。西暦2196年、地 球はまだ闇に伏し、ヤマトの時代は遠かった。


【Fin】


bird clip

綾乃
――22〜25 Jun, 2010




←新月の館・扉  ↑KY100・index  ↓あとがき  ↓感想を送る  →「夜明け前:訓練学校時代」  →新月annex扉

Tris'_linkbanner

背景画像 by「トリスの市場」様(現在は、閉鎖されました)

copy right © written by Ayano FUJIWARA/neumond,2010. (c)All rights reserved.
inserted by FC2 system