新月の館annex・倉庫 YAMATO'−Shingetsu World:お題100(KY・No.92)より「仲間たち」

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【From Iscandal to the Earth, 2201】
:古代進と雪の100-No.92「仲間たち」
『ヤマト、新たなる旅立ち』より


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 最初は、余裕がなかった。


 イスカンダルの惑星土壌への侵略と、それによる気象の変化は、思ったよりも 星の存在そのものに急激な影響を与え、その時から始まった俺たちの試練は、 デスラーの訪問によって劇的な変化を迎えることになった。
 仇敵だった――あれのお蔭で、大切なものを奪われた、という思いは今でもある。 だが、直接に刃を交えてきた進たちヤマトの人々に比べて、俺たちの戦った相手は "ガミラスそのもの"という実感は実際あまりなかったのだ。
 むしろ星を失い流浪の民と化した彼らを、地球人類がその手で――しかも弟たちが 滅ぼしてしまったということが胸に迫り、 戦いそのものもどこか遠い出来事のような気さえしていたのだ。
 もちろん、それは錯覚だ。


 俺はイスカンダルを建て直そうという無謀な道を選び――ましてやスターシア という女を選んでその惑星ほしに残ったというのに、 最後には何もしてやれなかった。
 彼女ならそうするかもしれない――というある種の理解は(あとから)あったものの、 やはり最後まで俺には信じられなかった、という方が正直だろうか。 彼女スターシアは最後まであくまで"自愛の女王" であることと宇宙と惑星への使命感を選び、砕けて散った。
 愛する娘――そして夫である自分。
 ある種の"裏切り"だろうと思ってしまうのは俺のわがままか?
愛していたと思い、愛し合っていたことは確かで――その結晶とでもいうべき娘・ サーシアを抱いて、それでも矛盾した思いに引き裂かれる。
 なんとしても生き抜いて欲しかった――それが。
 俺が……俺たちが失ってきたものへの、唯一のつぐないであったはずだと、 俺は信じていたし、今もそう信じている。――スターシア……。


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 生まれた時から二人で面倒を見てきたといっても、まださほど時が経っていたわけではない。 もしかしたら彼女も一種の神経症だったのかもしれず、常にも無い不安を訴えながら、 それでも身に付いた貫禄が、毅然と振舞わせていただけだったとすれば、 それを見抜き、護れなかった自分に責任があっただろう。
 何を言いたいか、といえば――イスカンダルの合理化・機械化というものに、 如何に自分が助けられ、慣らされていたか、ということを思い知ったということだ。


 放っておけば泣くし。
 抱いてあやしてやれば、いつでもニコニコしているくせに、俺以外の手には絶対に なつかない――可愛い顔してこの難しさはいったい誰に似たんだ!? ん?


(・・・)
 覗き込んで睨んでやっても、だぁだぁと笑いご機嫌なご様子なので、諦めた。 ――それに、やっぱりかわいい。ぎゅ、と抱きしめて頬ずりすると、 この世にこんな愛しいものがあるか、と思うのもまた正直なところだ。
 だがね――だが、ですよ。
 普通の親父ならどんなに忙しくとも朝、出勤してしまえばしばらくは離れられるのだが、 この閉ざされた戦艦の中――しかも訓練航海とかで女手が極端に少なく、 また人生経験の豊富な人間もほとんどいない――つまり、 無骨ものの若者ばっかり……という環境で。
 いくらわが娘が可愛いといったって、イイカゲン俺だって、イヤになるぞっ!!


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 ということで、イスカンダルから引き返し、サレザー星系を抜け出すくらいまでは、 本当に"子育て親父"をしているしかなかった。


 ヤマトの中はほぼ地球の環境に等しく設定されているのだという。
 サーシャに100%と合っていたか、というと、それはかなり疑問だった。 佐渡先生とも相談した結果、定期的にポッドの中に戻してやらないと 抵抗力がないかもしれない、という。
――つまり、地球へ連れていってよいのか、という根本的な疑問に到達する。


 そうして俺は気づく。


 地球へ行った・・・ところで、俺はどうするべきだ!?――この娘を守り、 新しい地球人として生きるのに。ましてや軍籍は抜け、地球の恩人であるスターシャは 亡き者となった。まさか脱走兵扱いにはなってないと思うが… (これは真田が保証してくれた)。
 不安に思ったわけではない。
 だが、俺はもはや地球人ではないのかもしれないと思った、イスカンダルの 人間ものなのだ。その星の血を継いだ娘と共に、 地球よりあの星を選んで生きてきた。
わずか2年とはいえ、その"選択"には時間は関係なかったのだから。


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この物語は、「宇宙戦艦ヤマト:新たなる旅立ち」の創作二次小説です。

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