時のはざま−のちの時代

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【時のはざま−のちの時代】

−−A.D.2215頃/「永遠に…」時代回想
:dix_noir 恋をした2人のためのお題_04-09「背中に爪を立てる」

 
−− Mo.13R「帰還・3」の続編

 真田さんのチームがガニメデ基地に来ているというのは、着いてすぐに聞いた。

「へぇ――久しぶりだね。何かあるの?」
宮本隊長付きになっている桜井隊員をつかまえて聞いてみると。
「――さぁ。私もそこまでは。古代艦長とはお会いになるようですよ」
「ふうん」
それはまぁ、そうだろう。あの人たちは兄弟のようなものだ。
どちらが兄でどちらが弟か……それは真田さんの方がずっと大人で、お兄さんの
親友だったということだけれど。
だがひところ真田さんは――古代さんの部下、その印象が強い。――ヤマトの中。
現在は科学技術省科学局局長――もちろん重鎮であるが、実質どのくらいの権力ちから
を持っているのかは、想像の外にある。――地球の、文字通りの“頭脳”。
ヤマトを降りた元メンバーの中では最も中枢の上にいる人、ともいえるかもしれな
かった。
もちろん、技術屋さんで学者で科学者だから。行政職とはまったく違うけれど――
あの人を怒らせるな。それは防衛軍や大統領府でも不文律である。

 「古河中尉さん――艦長がお呼びです」
佐々付きの如月曹長が来て、礼をする。――いつ見てもピシッとした美形だな、年
齢不詳。佐々と並んでいると鑑賞するにはとても良い――まるで太陽と月か月下
の花のように印象の異なる2人だが、見ていると不思議な雰囲気が漂っている。
2人ともに女性としての魅力を十分備えていながら中性的ともいえるからかもしれ
なかった。
 後ろに、佐々。 ――おう、と手を上げて。
「――お前は?」と佐々に尋ねると「私は、ちょっとね。早く行った方が良いよ」
ニコリと笑う。
「珍しいな、古代が。ありがとう」と知らせてくれた如月に一声かけると、下艦の
用意をして――といってもズタ袋一つだが――艦長室へ向かった。
どうせ、古代は最後だ――相原も一緒かな?

「やぁ、古河、来たな」
部屋を出ようとしつつ古代進が明るい表情でそう言った。
外周艦隊総司令、戦艦アクエリアス艦長兼同艦隊司令。
肩書きだけは大きくなっていくが、この男は昔から変わらない――気さくで明る
くて。ふだんはどちらかというと穏やかな青年である。ただ、瞬時に変貌する時の
気迫と恐ろしさは共に戦った者には周知だ――あの目線の向かい側には絶対に
居たくない。敵に同情するほど――それは“鬼艦長”の名に相応しい。
「艦長――局長が?」
「あぁ……久しぶりだ。古河連れてこいっていってな」
「?」――真田さんとは確かにわりあい親しい方だと思うが、わざわざつれて来い、
というほどの用がある互いでもない。
「まぁ、行こうや」
 では、私はこれで、と副官が下がるのにご苦労。全員、確認したら地上班に引き
渡してくれ、と声をかけ、艦長室をロックした。

 「よう――古代」「真田さん――」
2人はゆっくりと歩み寄ると、腕を取り合い、本当に嬉しそうに肩を叩きあった。
「久しぶりですね」
言葉は多くないが、本当に。なんともいえない表情で――。古代にはその は無
いから誤解もされないが、あぁ、まるで想い合う再会した恋人同士のようだと誰かが
言っていたっけ。互いが互いを大事に思っているんだな、ということがわかる。
相原通信班長も同行している。真田さんは次には相原さん、そして俺に目を向けて、
同じように頷いた。
 「相原も――古河も、元気そうだな」
相原さんは本部に戻れば真田さんと共に仕事をすることが多い。おそらく最も一緒
にいる時間が長いだろう――仕事に入れば、この2人の会話は、機密だといわれな
くてもほとんどの場合が何を言っているのか凡人にはさっぱりわからなかった。
 「俺たちはこれからちょっと行くから」
真田、古代、相原と――彼のうしろについてきた数人。皆、ヤマトの仲間たちだ。
それに軽く敬礼をして、じゃぁな、と言われ。
(何故、俺は呼ばれたのかな?)そう思い目をやった途端。
その理由がわかった。

 彼らの後ろからゆっくりと現れたのは――。
(桂木! ――リョウ、か…)
静かに、するりと近付いて、微かに笑った。やぁ、と相変わらずの目で。
「ゆっくり話でもするがいい。今日は仕事じゃないからな、俺たちも」
真田さんの言葉を頭の隅で聞きながら、彼らに敬礼を返して、俺はそいつから目
を離せなくなっていた――「元気、だったか」そういう声が掠れ、微かにうなずく
あいつの顔。
血が逆流して流れ込みそうになった――自分でも、本当に意外だったのだが。

 
 飯でも行こうか――
そう言って並んで歩き出す。……俺は極力、体を触れないように気をつけていた。
さきほどの痺れは――もう忘れたと思っていたし。こいつは恩人で、大切な友人だ。
元気でやっているようなら、それで、良い。
 「どうしてるんだ、今」
「真田さんのチームの末端にいるよ――NAYUTAの関係部署だから、普段の仕事
は本部の科学局技術部の開発機械のメンテナンスとかが主なんだ」
「プログラム書いたりは?」「たまに。なにかあると、真田さんや向坂さんが直接下
ろしてくる仕組みになっててね。やりたいやつとかそれに強いやつが集められてチ
ームをその都度組むって仕組み。プロジェクトごとだから、そこのチームがいつも
ってわけじゃない」
「へぇ――立派に戦力なんだな」
「お陰さまで、なんとかね。だけど僕の本業は地味な仕事さ」
 開発のための機械をさらに作り、点検する仕事。一台一台仕様が異なるため、
主に生産ロボットがそれを担当するが、ロボットの管理と回路の設定も仕事の範疇
に入る。
「立派に“真田チーム”してるんだ…」「それもこれも、あの惑星探査のお陰だよ」
伏目がちに話す癖も、静かなしゃべり方も、変わらない。
 食事を口へ運ぶ時の、細くて長い指もその通りだ。多少――年齢を経て、目じり
に皺ができるようになったかな。それは穏やかに笑えるということの証拠でもある。

 
 
背景画像 by「壁紙宇宙館」様

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