Colony−間の時代

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【闇と光・2 Colony−間の時代】

−−A.D.2206/「永遠に…」時代回想
:お題2006-No.37R「追憶」



 あぁっ――すてき。いいわ……ねぇ、もっと、ぁああ……あなた、強い。
 いやぁっ――ひぃ。…

女は、最初は喜ぶ。俺は、喜ばせる時に手加減はしない。ただひたすら責めて、
緩めてやらないのだ。それはもともと自分が持っている闘争本能と、あの時期
身に受けたすべてを消したいという思いがさせるのだろう。
 最初は喘ぎ声を上げ、のたうつように感動している女も、しまいには悲鳴を上
げるようになる。いや、やめて……もう、だめ。助けて……いや。
 そのどこまでが本当なのだろう。…女はすぐにウソを吐く。いや、女だけじゃ
ない、快感を得るために、その自然に出る媚は遊びゲームだ。
本当に、辛いときは声なんて出やしない。息が詰まり、喘ぎ、それでも極限まで
晒された体と神経は悲鳴を上げ続けても、どうにもなりはしないのだ。

 やめてと叫んでも、もはや気力もなくなり声も涸れ――痛みで意識も失いそう
になっても、いつ終わるとも知れない痛みと快感に翻弄され続けたあの時を、
誰もわかりはしない。
俺はまた女に覆いかぶさると、幽玄の境を行ったり来たりしているそいつを責め
始める。
 「すごい――こんなの、初めてよ」

 
 復帰して最初にしたことは、もちろん航宙機に飛び乗り、空へあがることだっ
たが…その次にしたことは、そういう店へ行き、女を抱くことだった。
不具であることは自覚している。だが相手を喜ばせることくらいはできるし、妊
娠の気遣いも無いからかえって好都合でもあった。
だが、誰かを愛して、愛されて――そんなことはもうできやしないのはわかっ
ていた。
――それも、好都合だったけどな。自嘲気味に笑う。

 そして。
 本当に辛い夜は――いつの間にか、俺は男と褥を共にするようになっていた。
もともとその気はあったのだろう。経験もあり――だが開発もされてしまったの
は確かだ。苛まれ、犯されることが続き、それから開放された後。日々の軍務は
規律に縛られ神経を保とうとする。すると夜になってフラッシュバックが来た。
 それに耐えるバランス感覚を取り戻すのは辛かった――俺は入院したのは検
査の3日間だけだ。病院で、また“調べられ”時間を持て余すのはご免だった。


(6)
 
「古河――」
あぁ、なんだ。
「今日ちょっと、いいか」
赴任したばかりの惑星コロニーだった。現地に赴任していた空間騎兵の、そうだ
な、地位は俺と同じくらいか。わりあいいい男で、だが言葉を交わしたことはほ
とんどない相手だった。――食事に誘われた。
 食事といっても、開発途上のコロニーのこと。たいしてものがあるわけじゃな
い。しょぼくれたバーのような処を、軍人相手の物好きな親父がやっているよう
な店で、素材のわからないような料理と、アルコール度の強いカクテル。そして、
バーボンだけはこだわりがあるとみえて、けっこうまともなものを置いていた。
 俺はひどく酔った覚えがある。
「そうか…お姉さんが。それは気の毒したな――」
いつの間にそんな話になったのか、デザリウム時代の――まだ癒えない傷を話
していた。
つかまって拷問に遭ったこと――詳しくは語らなかったが、女性たちがどんな目
に遭ったか。そいつは何も知らなかったが…姉はつかまって戻ったが廃人同様
で療養生活をしていると言った。
 どこで俺が捕虜帰りだと知ったのかはわからない。心を許すのにその話題ほど
適切なものはなかったし、俺はやはり疲れていたんだろうと思う。
――その夜はその男と過ごした。

 ちょっとはいい男だったし、モテたんだろう。
俺は受けに回って、さんざ愛された。
相手がどういうつもりだったのか――だがけっこう満足はしていたようだ。
そういう時に俺相手にごまかしはきかない。実際に感じてなければ、悦んでなけ
れば女と違ってそれはわかるものだ。
 「いい……あぁ。古河、お前のこと、好きだぜ?」
俺を抱きながらそいつはそう言った。
自分も――こうやって愛されることに溺れたい自分がどこかにいた。戦後初めて
――涙を流し、何度か到達した。女相手では得られない快感だった。

 
 それから何度か褥を重ねたはずだ。
そいつは優しかったし、日々の軍務の中で顔を合わすことは少なかったから、
俺も気にしないでいられた。何度かは向こうから――そして欲しくなると俺の方
からも誘って、日々は続いて行くはずだった。

 だがある日。
 俺は妙な噂を聞いた。
整備を終えて食堂へ入ってみると、こそこそと囁く声がした。――こちらを哂う
声も。
 なんだ? 心当たりはない。
不審に思いながら先に座っていた航宙機隊の同僚に聞いても、妙な顔をする
だけで、「俺、もう飯終わったから行くわ」と去られてしまった。
不愉快になる。
 食事を終えて珈琲でもと立ち上がった処で
「×××…」という言葉が耳に入った。
なにっ!? 振り返るとニヤニヤと顔を見合わせていたのは空間騎兵の連中と、
それと一緒にいる現場労働者の面々。
――なぁ、こうやってうっふん、だぜ。近くの男の首に腕を回して仰け反って見
せたやつがいる。くすくす、にやにやと下卑た笑いを見せ、こちらを伺うように。
明らかに莫迦にしているかからかっているのだ。
「今、言ったやつ、表に出ろ」――トレイをカタン、と置き、低い声を出してい
た。
 「女みてーなツラしやがってさ、かわいいかわいい」「細っこくて抱き心地抜群
だろ――いやん、もっとぉ、なんちって」見もせずに言い募るやつに、一瞬、机
を跳び越えて近付き、一発お見舞いした。
 がらがらがっしゃーん!
机と椅子がなぎたおされ、「おっと!」とそいつを後ろの男が支えた。
遠巻きに少し下がりながら輪を崩さない。労働者諸君は別として、空間騎兵の
連中は、これでも喧嘩のプロみたいなものだ、並んで囲まれることはあっても、
怯えてあとじさるなんてことはないんだろう。
頭に血が上って手が出てしまった、というのが正直な処で、一発殴ったあとは、
すぅと冷めた。目を上げると、そいつらの壁の向こうに――やつがいた。
俺を抱き、甘い言葉をささやきながら、何夜か共にした、相手。
 俺は全てを悟ると、すぅっと顔から血の気が引くのを感じた。
こんなに怒ったことはなかったような気がする。
 そいつらを押しのけると、すっと消えたそいつを追って食堂の外へ飛び出した。
――すでに姿はなかった。逃げ足の速いやつ、、、
裏切られた。
遊ばれ、貶められ、辱められただけ、と気づくのに時間はかからなかった……。

   
背景画像 by「壁紙宇宙館」様

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