闇と光−with you forever−

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【闇と光−with you forever】

−−A.D.2206/「永遠に…」時代回想
:お題2006-No.19「あかつき

 
(1)
 
 (うわぁっ!――)
冷や汗をかいて飛び起きた。
はっと辺りを見回し、暗闇に馴れた処でぼんやりと浮かび出る部屋の隅。
見慣れた天井。そして手足は拘束はされていない……。
 ほぉと息をつく。
――あぁ。今は。宇宙の中だ…長年馴染んだアクエリアス艦隊イサス艦
の中の、自室。

 忘れたと思い、二度と思い出したいものでもなく。
だが、忘れられるものでもない――もう5年も経っているのにな。
あのヤマトすら失われ、本星が爆発し、ほとんどの者がその時、ついえたと
いうのに。――体の覚えている記憶というのは残る。
あの時の、自分が刻まれていくような恐ろしさも。
 ぶる、と震えが来て膝を抱え、自分を抱きしめる。――もう、終わったこ
とだ。二度と、起こることも、繰り返されることも、ない。
暗黒星団帝国も、もう、無い。

 
 その時、古河大地ふるかわ だいちは、訓練学校にいた。

 食事を終え、ミーティングルームで数人の教官たちとプランを練っていた。
闇に紛れて、そいつらが降りてきた時。防御システムが作動し、いち早く
警報が鳴ったため、それでも気づくのは早かったかもしれない。
 「なんだ――」「まさか」
パネルに映る異様な風景に、即座に反応した。
「生徒たちを――。寮へ」
「わかった」教官たちは三方に散った。
訓練学校生とはいえ戦闘員の端くれで、入学した途端、軍の末端に組み
込まれる。――本部の指示を仰ごうとする者。
指揮権を誰に委ねるか――今ここにいる中で、最も階位の高い者は誰か。
それを咄嗟に考えなければならない。
時間が遅く、校内に残っている者はさほど多くないはずだ。
寮に走り、学生たちを組織化しなければ――または駆り出す必要がある。

 『総員戦闘配備で用意せよ――4年生と3年生、戦闘員はただちに配置
につけ!――出動する。非戦闘員は避難の用意をして食堂に待機――通
信員のみ戦闘員について移動せよ』
『1、2年生は寮と互いを守れ』
寮に放送が流れ、古河たち教官が着いた時には、さすがに用意ができて
いた。
 が、敵の動きは速かった。
 戦闘が始まっており、1、2年生は各個に外との撃ち合いを始めていた。
――本部に合流するのは、無理だな。
どうするべきか……。皆、どうしている?
 古河の脳裏に古代艦長代理と、隊長だった宮本の姿が浮かんだ。

 もはや外へ打って出るのは不可能だった。
敷地内に降りてきた敵は、此処を軍の要衝の一つだと知っているように、
組織的に攻めて来、守勢に回った地球側に勝機はなかった。
それでも、訓練生たちはよく守ったが、被害もすでに出始めており、非戦闘
員、そして女子から先に逃がした。
「2年生、砲術科っ。地下都市の入り口まで皆を守れっ――脱出する」
 放棄を決めてからの動きは早かった。
古河は飛行科の4年生と共にデータルームへ向かった。
「ここを破壊するぞ――バックアップは本部にあるからな。シャットダウンす
るだけでよい。その間、外を守れ。さらに、退路を確保せよ」
そう指示すると、数名と中へ入る。
 作業を数分で終え、外へ出ようとした処を囲まれていることがわかった。
(ちくしょう――この子たちだけでも…)
「逃げられるだけ逃げろ。自分の命を守ればよい。捕虜にだけはなるなっ」
学生が捕虜になったらどうなるかわからない。
拷問の訓練も、機密のことも、中途半端だ――ともかく逃げろ。逃げて生き
延びろ。
 古河は、最初からそうやって彼らを逃がさなかったことを悔やんだ。

 突破するぞ――。
最も近い施設までは数kmあった。エアカーもなく、この人数で突破できると
は思えない。だが、やるしかないな…。
 「宙港へ行け。砲塔があるし、地下都市の入り口もある。――生きろよ。
だがわかってるだろうな、地下都市の入り口を敵に悟られることだけはする
な。一般市民を巻き込むな」
このまま囲まれていても座して死を待つだけ。せめて外の森へ逃げ込み、
戦いながら勝機をうかがうしかない。
 古河は、学生たちと共に移動を開始した――。

   
背景画像 by「Willful Material」様

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