命の番人

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【命の番人】

−−A.D.2215頃
:dix_noir 恋をした2人のためのお題_04-07「運命だと思う?」


 

−− Mo.13R「帰還・3」の続編×2


(1)

 それから俺たちがどうしたか、というと。

 
 あんっ――う、ふぅ。……ちょ、待て。少し、待てってば。

 だめだよ――久しぶりすぎて。僕の身にもなってくれ――止められない。

 だからっ。俺たちゃそういう関係じゃねーだろっ。居ない時は、女でも男でも、
適当にやれよって、あれだけ約束したろっ。
 ……あぁ。言ったさ――でも、誰も。君じゃない……。

 んなこと言われてもっ!

 もう、若くないんだぞ――20代の真っ盛りってわけじゃないんだ。普通なら、
――おい、お前、子どもだっている親父なんだから。
(こ、こんなやつだったっけ……。)

 あっ。んんっ――はふ……、はぁっ。んんっ。
 だいち、……大地。


 一級の戦闘士官の俺様が、こんなやつにやられて息も絶え絶えなんて、部下や
若い連中には絶対に知られたくないぞっ。……なぁ、もう。あっつ。だめだって、
んんん…。

 古河大地ふるかわ だいちはそう思う矢先から荒い息を吐き、 体を仰け反らせて叫ぶと、もはや
桂木陵かつらぎ りょうの前に降参するに至った。
「もう、わかった……あぁっ。いやだっ。もう、……頼むっ。リョウっ…あ、だ
から――」
激しいキスが覆って、そのまま一気に揺さぶられた。
手が前をしごき、自分でそうしようとした手は押さえ付けられてまた翻弄される。
――リョウっ……リョウ。

 感じるだけ感じさせられ、汗と涙で体中から湯気が立つような気がする。
熱い痺れがまた体の奥から揺さぶり続け、そして……。

 
 そうだ。
あの星で再会してから、俺たちはまだ続いていた。
――運命だったかもしれない。

 激しい再会の時間が過ぎると、むしろ頭も体もリラックスして、ゆったりと
バスタブに浸かり体を洗う――流し合ったりすることもあるけれど、そうすると
また“第二戦”が始まってしまうこともあるので、さすがにそれは勘弁してもらっ
た…。
 ちょっとした戦闘のあった戦いから、なんとか無事帰還したばかり。
艦隊は基地ベースに入り、再出航を待つ間、約5日。
俺――古河大地の所属するのは第7外周艦隊駆逐艦イサス。そこの戦闘機
乗りだ。
 風呂から上がってタオルを腰に巻いたまま、作っておいてくれたらしい(案外、
リョウはマメに料理なんかもする。簡単なものばかりだったが宇宙から戻ってく
ると、さすがにそれは嬉しいものだ。――まぁ地球で暮らすほどの贅沢はでき
ないにしても)サンドイッチを口に放り込み、ワインで喉を湿らせると、やんわり
笑って壁に立ったまま俺を眺めているそいつに向き合った。
「なんだよー、そんなとこで待ってるなんて、お前、よっぽどヒマなのな」
そう言う。俺は口は優しくないから――なんたって外洋航路専門の戦艦の戦
闘員だぜ? お上品にやってられっかっての。
 だが、リョウのやつは絶対にメゲやがらない。自身は穏やかだが――あの辺
境のコロニーに居た頃からそうだった。空間騎兵の荒くれ連中や、現場の半分
犯罪人みたいなやつらにも、けっしてビビらなかったからな。妙なヤツだ。
苦笑するようにして、一歩近づき、俺の飲みかけのワイングラスを取り上げると
自分でクイと飲んでしまう。
「――おい、何すん…」だ、と言おうとして、唇をそのまま塞がれた。
 んんっ…。
こくり、と温い触感のものが喉に流れ込む。
「口移しで飲むのも、いいだろ」にやり、と唇を離してそう言って。
「もう1杯、飲むか?」そう言って、ボトルからグラスに注ぎ、一口含むと、ま
た俺の唇を覆った。
「りょ、リョ……」こくこくこく。
 ワインは旨かったし、あいつのキスも美味だ。
俺はまた蕩けそうになって、腰から相手に預けたまま……あぁ、束の間の休憩やすみ
だなと思う。戦闘たたかいに、生き残り、此処へ戻り。またそして出て行く。

きゅ、と抱きしめられた。
「――戻ってきてくれた。生きて、だ。それが、どれだけ愛しいか、わかって
くれ」
「リョウ…」
顔を肩に伏せるように腕でくるみこむそいつに、俺はぽんぽんと背を叩いた。
「あぁ……また会えて嬉しいよ。生きて戻ったな、と思うからな」
「大地――」
 顔を上げて、またそういう目になる。
疲れてはいるけど――風呂も入ったし。明日は出頭することもない。
「来いよ――また。抱いてくれ、それでお前が安心するなら」
柔らかい声でそう言うと、あいつがなんともいえない目で見返してきた。
 ゆっくりと、深いキスをして。――そうだ。俺は今、此処へ帰れる、と思った。


 
 
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