air icon 蒼き空から…

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お題2006−No.42 【蒼き空から…】

オリジナル・キャラクターが絡みますので、苦手な方はパスされてください。
ここに登場する 古河大地 は、イスカンダル帰還後に参加したコスモタイガー隊員で、
当艦ではのちの時代まで活躍するキャラクターです
詳細は、三日月小箱 NOVEL「宙駆ける魚・2」 をお読みいただければと思います

(1)

――A.D.2232年頃、地球

 さあ…。
促されて一歩踏み出すとその方を見た。
木陰からゆっくり現れたのは……。徐々に記憶がよみがえった。
――年を取ってはいるが、相変わらず、どこか幼い処のある顔。そしてがっしりと貫禄は
あるが、全体に小柄な体躯。
何よりもその目が。表情と、仕草が――。わずか1年余、可愛がった、部下。
「……やまもと、さん?」
さくさくと芝を踏みしめるようにして軍服が近づく。まだ、車椅子から立ち上がるのに困
難だったが、介添えの者に「いい…杖を」と言って、がたん、と杖を頼りに立ち上がった。
「山本さんっ!」
フラりとしたのと、その男――古河大地が駆け寄って体を支えるのが同時だった。
 「あ、ありがとう……どうやら、転ばずに済んだ」
いいえ、と首を振る。腕の中にいるような様子になって、遠くから見れば抱き合っている
ようにすら見えたかもしれない。
ふっと、山本は思い返した。
(そういえば、あの頃。そんな噂もあったな――)
見ると、古河もふっと笑って、もしかしたら同じことを考えたのがわかった。
 「無理なさらないで――車椅子に座ってください」
あとは俺がみますから、と看護師に告げ、自分でグリップを持つ。
首を回し覗き込むようにして。
「ご無事、だったんですね。本当に、ご無事だった――私はもう。それを聞いてから、嬉
しくて……信じられなくて。面会謝絶がとけるのを、待ちきれなくて。何度も大輔に怒ら
れましたよ」
「古河――お前も。……元気そうで、なによりだ…」
何を話してよいかわからず、言葉少なに、山本明はそう言い、傍らの元部下を見上げた。
 「此処はリハビリも兼ねた施設ですから。外へは出られない代わりにけっこう中庭とい
っても広いんですよ? あちらの方へ行きましょうか」
そう語る声は落ち着きがあり、あの頃のややもすれば少年ぽい仕草はない。軍に奉職して
30年――数々の戦場を渡ってきたのだろう。あののちも…。
軍事機密の塊のような、現在の山本明。その肢体も、記憶も、去就も。存在そのものすら。
だから通常の軍中央病院ではなく、科学局の真田の直轄下に移し、厳戒態勢で治療とリハ
ビリに当たっている。根幹部分の生体バイオは第一次移植を終え、ようやく起き上がるこ
とを許されたばかり。朝倉リエの手によるプロジェクトは、第二段階に入っている。
 やまもとの存在はまだ極秘であり、古河がそれを知ることができたのは、 特例措置といえる。
山本の側の記憶が回復しつつあり、その記憶回復の介助になるだろうと判断されたためも
あった。


 鳥がどこかで鳴いていた……。
さやさやと風が吹き、少し丘になっている処を上がると、森で閉ざされている隔壁の近く
を低く小川が横切っているところに出合った。

 「地球は……本当に、復興したんだな……」
「なにを…」
古河は、あぁそうかと思い当たる。山本さんたちが10代の少年の頃、ガミラスの遊星爆
弾は降ってきた。その時代の大部分を地下都市で暮らし、そしてヤマトへの搭乗。その後、
戻ってきての1年間は、月基地で暮らしたのだこの人は。そして白色彗星戦……豊かに緑
を取り戻した地球も。その前の暗い時代も、水惑星アクエリアスも――そして、ヤマトの
最後も。この人は、知らないのだった。
「風が、気持ちよいでしょう――」
どこまでを話してもよいのだろうか。
あの、仇敵だったガミラスと、最後に和解したことまでは覚えているだろうか? あの、
デスラー艦との戦いのあと、彼が味方してくれたことは承知していたはずだ。
だが現在、ガミラスが新しい大地を得てガルマン=ガミラス帝国として栄え、地球がそれ
と共闘して、宇宙の覇権のため戦っているといっても信じられるだろうか?
 水惑星アクエリアスの、脅威と恵みを……。ヤマトの最後を、知っているのだろうか?

 「相変わらず、戦闘機乗ってるのか?」
その問いに、古河はふっと笑って言った。
「――いえ。もう、良い歳ですよ。……この間ね、降りました」
「そうか……そんなに年月が経ったんだな」
「えぇ」今は、訓練学校の付属機関で、次世代機の開発に携わっている。専任教官に、と
いう声も強かったが、前線に居たいという思いがまだ強い。教官職は臨時だ。
「地球にずっといる、というのがね――まだ慣れなくて」少し照れたような様子が声に混
じるのが、本人の若い頃を彷彿とさせた。だが。
 「お前、変わったな」
古河の雰囲気、全身にまとわりついているような、どこか暗いオーラは、あの頃にはなか
ったものだ。――最初、わからなかったくらいに。
「何か、あったのか――いや、余計なお世話か」
「いえ……山本さんになら。いつか、すべてを話すこともあるでしょう」
柔らかい声で笑う。
「俺は……そういった意味では、二度死んでますから」
「そうか」
(あぁそうだったな――俺はこいつが可愛かった。期待にたがわず良い戦闘機乗りになっ
てくれた――佐々と、宮本と。こいつだけが生き残って。そして俺たちの想いを次いでく
れたんだろう…)




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