木星の向こう・宇宙そらの果て Eplogue

(本編話) (1) (2)
    
   
   
【木星の向こう・宇宙そらの果て エピローグ】

−−A.D. 2205-06年頃
この話は、「木星の向こう・宇宙そらの果て」 エピローグの1本です
未読の方は、先にお読みいただければと思います。
また、エロも何も出てきませんが、
いつものようにdarkなので、"それでも良い"方のみお読みください




 「小諸隊長――ちょっと。お時間ありますかね」
砲術溜まりの入り口の戸に手をかけて、ふい、と声をかけてきたのは古河大地
だった。
トランプに興じていた部下たちを後ろから酒飲みつつ見ていた小諸穣は、顔上げ
てそいつを見た。
(けっ。佐々の腰ぎんちゃくか)
――用件のだいたいは予測ができた小諸である。
すと立ち上がり、「いいぜ」とねめつける。
 くい、と顎で合図すると、部下で側近の1人と、同じ第一砲塔の新兵が付いて
きた。
ふん、と古河はその童顔にも見える顔に似合わぬ表情で身体を起こすと、
「話も1人でできないのかい? 隊長さんよ」と言って、
「まぁいい――こっちだ」と、先に立って歩き出した。
 なにお、と腰のガンに手をかけようとした部下を、おい、と留めて。
艦内外で火器を許可なく作動させれば、禁固刑か……重罪だ。

 佐々と同位ということは、古河より小諸の方が地位は上である。
恐縮する必要もないし、このまま何かあっても、踏み潰すくらいは朝飯前、と彼
は思っている。左舷展望室近くの第二格納庫へ来ると古河は足を止め、
「どうぞ」と言った。

 狭い部屋――砲術士官の彼らは来ることもない。…回りには棚があって様々
な電子機器が収納されていたし、見かけないものが置かれていて、なんとなく
圧迫感があった。
 古河は小柄で、佐々と変わらない体格。男としては華奢にも写る。
だが小諸は、戦闘士官として伊達に生き残ってわけではない。目の前に居る
この男が、単なるエリート戦闘機乗りであるだけではない、と知った。――何よ
りも目つきの凄み……殺気にも似たものが彼を包んでいた。

 「なんだ、こんな処呼び出して」
「いえね――隊長さんの、女性の趣味の良いことはわかりましたが」
やはり、と小諸は思う。
は、と気づいた時には随行していた2人は武器を取り上げられ、小諸は椅子に
縛られていた。背後に表れたのは古河の部下? 水兵クラスの連中――それ
に戦闘機隊員の姿。
 「皆、退屈してましてね…平和っていいですね」
綱の切れ端を何故かぶらぶらさせながら顔を近づけてニコリと笑う様子は、まる
で悪魔の笑みのようだった。――かわいい顔してて、こいつ。とんでもねぇ食わ
せ者だ。
 暴力に訴えるのは、趣味じゃないのですが――俺は。目的のためには手段は
選ばないことにしてまして……ある時からね。
淡々と語る様子に、砲弾の飛び交う中でも平気で銃座に座り続け、敵など恐れ
もしない男が、背筋に悪寒を走らせていた。
「私はね、人の身体がどうすれば痛みを覚えるか、何が耐えられて何が耐えら
れないか……よっく、知ってるんですよ」
穏やかな声。――その裏に見え隠れする恐ろしさ。
――よく、艦長は。こんな悪魔みたいなの飼ってやがる……しかも最初っから。


 うぁっ。

 どこがどうなったのかはわからなかったが、一瞬、失神しそうな痛みが身体を
走った。
其の様子を見て、手足の自由を奪われている後ろの2人はびくりと怯える。
「き…さま。艦内で、リンチか? ……ただで済むと……思うな」
上官侮辱罪、拘束の罪――罪状ならいくらでも挙げられる。
だいたい、私刑は厳禁だ。
 ふん。
鼻の端で笑う雰囲気があって。もう一度瞬きをする間に、再度、痛みが襲った。
いったい何がどうなっているのかわからない――気づくと、身体の見えない部分
に、何か通ったのか……う、うぁっ! 叫び声だけは辛うじて抑えたが……こい
つもしかして。
 艦には1人か2人、諜報部員とそれに類する者も乗っている。
尋問係も居て――通常、その職域が一般隊員に明かされることはない。兼務し
カモフラージュしている人間もいると聞いた。
その技術は芸術的だともいわれ、味方が対象になることはなかったが、スパイ
となれば話は別で、激烈な仕置きが加えられる、と噂でだけ知っている。
外洋航路にまさか、乗っているのか? ――そして、こいつがまさか?

 どうしました? 別に俺は諜報員じゃないですよ。そういう仕事も楽しいかも
しれませんが、それよっか戦闘機駆って切った張ったしてる方が性に合う。大砲
撃つのも得意ですよ? 南部さんや坂巻と遊ぶの好きでした――。
(南部? 参謀か? 元砲術長の)
 ま、そんなこたぁどうでもいいですし。静かな口調が不気味だった。


 別に、俺はどうなってもいいんです――牢屋入ったのも一度や二度……あり
ますしね。でもまぁ。道連れが貴方じゃ不足ですから。
交換条件を一つ二つ。
 涼しい顔をして、また後ろ手に縛られた手に痛みが走る――いったい、何を、
どうやって。
その姿勢のまま、懐に手を入れられ、そして脇から服の内側を撫でられた。
な、なにをっ――。
 いや。貴方は女性はお好きなようですが、、、女性の立場も味わってみては
いかがです?
本気で怯えて首を振った。
男は、いやだ――絶対に。そうは言わなかったが。

 そのまま古河は身体の内側を撫で、制服の裾から手を割って、触れられたく
ない場所に遠慮なく触れた。そして…。
(んぁっ――わぁっ)
目で指示したのか、後ろの連中は顔を逸らし、2人を横向かせたようだった。
そして自分は。――手で嬲るだけだったが、容赦はしなかった。こい…つ、
何を…。
唇を噛み締めなければ声が出そうだった。まずは痛みを。それから辱めを…。
(や、やめろ……ちくしょう)
 攻撃的な男ほど、受身になった時に弱い。それは自明の理だ。
「――俺が訴えたらお前など、極刑だぞ、わかってるのか」
声が震えた。体の訴えるものに組み伏せられそうになる。
「馴れてないとキツいでしょ? ……それに、貴方は訴えたり、しませんよ」
 すぐに手を離し、するりと抜ける。
ほぉ、と息を吐いた途端、懐の中からずい、と大切なものを抜き取られた。

 と、それを目の前に突きつけられる。
「――『指定以外の火気の携帯は、届出以外、厳禁』。そうじゃなかったでし
たか? 隊長」
それまでの妖しい笑みを消し、厳しい目で古河はその得物を鼻先に突きつけた。
そして、それを自分の手の中で眺めまわし、また鼻先へ突きつけると……あろう
ことか。カチリと安全装置を外したのだ。
「――こんな、高価なもの。どこで手に入れたんです? おや、怯えてらっしゃ
いますね」
鼻先に銃を突きつけられ、その安全装置を外されて恐れない者はいない。しかも
彼は。
(――きしょう。銃の扱いに、どうやら、精通してやがる)
カチリ、とホルバーを回し、弾を装填した。
「ふぅん……私もモデルガンしかお目にかかったことはないですが、よくできて
ますね」
カチリと、目の高さにそれを上げ、眉間に突きつけられた。
 自分に悪意を持っているらしい、男。その手に銃が、ある。



 
背景画像 by「壁紙宇宙館」様

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